ポリスチレンフォームの蟻害リポート

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  • 事例

Researcher

研究者プロフィール
田口 正訓

研究員 2007年入社

埼玉営業所テクニカルチーム

大学では在来草本植物の研究に携わり、自然環境と生物の相互関係を学ぶ。 2007年テオリアハウスクリニックに新卒入社。数千件のシロアリ調査および駆除工事に従事。 休日も生き物や植物の写真撮影に勤しむ。

interview

先日訪問した現場で、ポリスチレンフォームが蟻害に遭っていましたので、報告します。築30年程の戸建て住宅。新築から1度もシロアリ防除工事を行っていないとお客様が仰っていました。

え、いきなりポリスチレンフォームって言われても何?って思われる方もいるかもしれません。私自身もポリスチレンフォームについて、知ったかぶりをしていると思ったので、調べて知識を深めつつ、このポリスチレンフォームの蟻害がどれだけインパクトがある事なのかを語らせてください。

ポリスチレンフォームって何?

こちらがポリスチレンフォームです。営業所に置いてあったものを撮影しました。
ポリスチレンフォームは戸建て住宅の断熱材として、床板や基礎などに取り付けられています。

完全密閉状態の微細な気泡で出来ているので、軽量で加工が容易、水に強く、断熱性能に優れているとの事。

ん、完全密閉状態の微細な気泡って、言葉だと少々伝わりにくい気が。

どういう事なのか…。

下の画像で一目瞭然!

無数の小さな空間。全て壁で仕切られているので、スポンジのように吸水する事はない。

画像があればわかりやすいと思いましたので、ポリスチレンフォームの断面をマクロ撮影してみました。まるで、ミツバチの巣のようです。小さな空間がこれだけあれば、確かに断熱性能に優れている事がわかりますね。

シロアリは木材以外も被害を出す事の証明

シロアリは木材を食べる。これは世間一般に広く知られている習性。ところが、ポリスチレンフォームのポリスチレン=プラスチック樹脂の1種。プラスチックだということは何となく存じておりましたが、具体的に説明してと問われたら、解答できる自信は全くありませんでしたので、調べてみました。

そもそも、ポリスチレンとは?

ポリスチレンは、原油、ナフサ(原油を蒸留・分離して得られる石油製品)を原料としたスチレンモノマーを重合して作られるプラスチック樹脂。断熱材以外では、家電、自動車の部品、コンビニ弁当の容器、プラモデルなど幅広く用いられていて、現代社会にはなくてはならない素材です。そのポリスチレンを主成分として、難燃剤を混ぜて発泡させ、成形したものがポリスチレンフォームなのです。

シロアリはポリスチレンを食べているのか?

下の写真をご覧ください。木材から侵入した、蟻道がポリスチレンフォームの中に入り込んでいます。一見すると、シロアリに食べられているように見えますが、実際はどうなのでしょう?答えは、NOです。シロアリが食べるのは基本的に木材、そして木材を原料にして作られるもの(紙など)なので、ポリスチレンフォームを食べているわけではないのです。しかし、もしかしたら、一口くらい食べているかも…、なんて個人的に思ってしまいます。人工物に対して、シロアリはどれだけ耐性があるのか?どの原料を嚙み砕き、蟻道を構成するのか?今後、研究する価値がありそうです。

床下に潜り仰向けになった状態で撮影。床板のポリスチレンフォームに蟻道を確認。隣接する根太材を伝って侵入している事がわかります。

ポリスチレンフォームで作られた蟻道⁉

シロアリは蟻道を作る事は他の記事でも触れておりますが、本来なら土や木屑を材料にしています。その為、見た目は褐色でサンドペーパーのような質感なのですが、こちらの蟻道は…

ポリスチレンフォームを食害し、蟻道の材料に利用している事がわかります。

通常の蟻道と比較して、上部が雪化粧したような青白い色をしています。ポリスチレンフォームを材料に、蟻道が作られたというわけです。

カラスがハンガーを巣材に、メジロが巣の補強にビニールテープを使う、ヤドカリがペットボトルの蓋を貝の代わりに背負うなど、近年、動物たちは人類が作り出した材料を利用するようになっていますが、シロアリも同じ流れなのでしょうか。

ポリスチレンフォーム内のシロアリ駆除は難しい?

ポリスチレンフォームのメリットを調べて思ったのですが、ポリスチレンフォームは無数の独立した気泡で構成されており、水につけてもほとんど吸水しないという事実。それは、液状の薬剤が浸透しないという意味でもあります。つまり、ポリスチレンフォーム内部の蟻道は、表面に薬剤を吹き付けても、効果があるのか怪しいというわけです。

計量カップに水を入れ、カットしたポリスチレンフォームを入れてみましたが、水に浮き、吸水しない。
薬剤(木部処理剤)でも結果は水と同様。
手で押し、強制的に沈めてみたものの…
ポリスチレンフォームを真っ二つに割り、断面を確認したが、薬剤は内部に全く浸透していなかった。

とはいえ、実際の現場では、ポリスチレンフォームにも薬剤を吹き付けました。この蟻道が少しでも表面を通っていれば、多少効果が発揮されると思いますが、内部に侵入されていると、薬剤が浸透せず、効果が発揮されない可能性が高いです。その為、隣接する土台や根太材の蟻道にもしっかりと薬剤処理を行い、シロアリの侵入経路をシャットアウトしています。

いかがでしたか。シロアリの侵入経路、食害箇所は近年、多様化していると思います。昆虫は寿命が短い分、世代交代も早いため、進化のペースも早くなります。現在、ポリスチレンフォームを含む、プラスチック樹脂の断熱材をシロアリが食べているという証拠はありませんが、今後、プラスチック樹脂を分解出来るシロアリが出現するかもしれません。

(プラスチックを分解する微生物の記事を見た事があるので、その微生物がシロアリの腸内に入り込めば…)

以上、ポリスチレンフォームの蟻害についてのリポートでした。今後も気になった現場の記事を書いていきますので、よろしくお願いします。

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