地球沸騰化とシロアリ
- 生態
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Researcher
- 田口 正訓
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研究員 2007年入社
埼玉営業所テクニカルチーム
大学では在来草本植物の研究に携わり、自然環境と生物の相互関係を学ぶ。 2007年テオリアハウスクリニックに新卒入社。数千件のシロアリ調査および駆除工事に従事。 休日も生き物や植物の写真撮影に勤しむ。
interview2023年、国連のグテーレス事務総長が“地球沸騰化の時代が来た”と演説していました。
地球沸騰化は、2023年の流行語大賞にもノミネートされました。
「気候変動もここまできたか…」と正直思いました。
2023年の夏は異常な猛暑でした。毎日40℃近い気温の中、大汗かきながら現場の仕事をしていました。
2024年も昨年と同等か、それ以上の猛暑となりました。連日、天気予報で、”危険な暑さ”、”熱中症警戒アラート”というキーワードを耳にしました。
近年、冬になっても最高気温が20℃を超える日もあり、暖かくて過ごしやすい反面、今後、気候はどう変化していくのか不安に感じています。
ニュースでも気候変動に関する事をよく目にしました。
例えば、漁業。北海道ではサケが不漁で、ブリが豊漁とのこと。サケは亜寒帯、ブリは温帯の種類です。
知床半島では、サケ、マスが河川を遡上せず、餌をとれず激やせしているエゾヒグマがいるという映像も見ました。
海水温の上昇が原因ではないかといわれています。
地球沸騰化は、人類だけでなく、既にあらゆる生き物の生態、分布に影響を与えています。
身近なところではどうでしょうか?昆虫を観察すると良いですね。
ここでは蝶を事例にあげていきます。蝶は飛翔能力が高く、気候変動に合わせて分布を変化させるスピードが速いのです。街中を何気なく飛んでいる蝶が実は南国出身の種類だということが実際に起こっているのです。
気候変動で分布が変化する生き物たち
- タテハモドキ
目玉模様が鮮やかな、いかにも南国な色合いの蝶。かつては九州南部以南に分布していましたが、近年、福岡市など九州北部でも分布が確認されています。関東地方ではまだ定着していませんが、過去に台風で運ばれてきた個体が迷蝶として記録されています。個人的主観ではありますが、気候変動が進行すれば、数十年後には関東地方でも定着するのではないかと予想しております。
- ツマグロヒョウモン
東南アジアに広く分布しているヒョウモンチョウの一種です。私が小学生だった時(30年前)は、静岡県より南西側に分布していると図鑑に記載されていた事を覚えています。その頃、ツマグロヒョウモンは関東地方では見られない種類だったのです。
しかし、私が大学生だった時(19年前)に、関東地方で姿を確認する事となります。その時「ツマグロがついにやってきたか!」と驚愕しました。僅か10年余りで、分布の北限を静岡県→関東地方に北上させたのです。さらに近年では、東北地方や冷涼な山間部にも進出しているので、気候変動が確実に進行している事を示しています。栽培種のパンジーを食草にしている事も、分布拡大の一因になっている可能性がありますが、本種の分布拡大は、環境問題を語る上で今後も目を離せません。
このように、南方系の蝶が近年、分布を北上させているという例が多く確認されています。
それ以外にも、かつては9月までしか見られなかった、アオスジアゲハが11月になっても飛んでいたり、ツマグロヒョウモンと同様、南方系のナガサキアゲハが関東地方に定着したりと急激な変化が起こっています。
そのことを踏まえて、シロアリの分布、生態は今後どう変化していくのでしょうか?
地球沸騰化がシロアリの生態、分布に変化を与えていく可能性について
- ヤマトシロアリの分布が北上する?
現在、ヤマトシロアリの分布の北限は、北海道の名寄市であり、それより北には分布しないとされています。しかし、今後気候変動が進行し、冬季の最低気温が上昇すれば越冬可能な範囲が広がり、分布が拡大する可能性は大いにありえます。
しかし、シロアリの羽アリは蝶と比較して、飛翔能力が低い為、10年単位で一気に北海道全土に分布が拡大する可能性は低そうです。
イエシロアリが関東地方全域に広がる?
ヤマトシロアリよりも南方系でより甚大な被害を及ぼすイエシロアリ。こちらも、分布を北上させる可能性があります。
現在、関東地方における、イエシロアリの主な分布は、千葉県の房総半島南部、神奈川県横浜市から三浦半島以南の海沿いと限定的ですが、今後、温暖な海沿いにとどまらず、内陸部でも続々と被害が確認されるようになるかもしれません。しかも、都市部ではコンクリートやアスファルト舗装で熱が逃げにくく、ヒートアイランド現象が発生するので、イエシロアリにとって好適な生息地になる可能性が高いのです。植木の移植で分布が広がった事例も見つかっています。
- 羽蟻の発生時期が早まる?
通常、ヤマトシロアリの羽蟻シーズンは関東地方の場合、ゴールデンウイーク前後、早くても4月下旬でした。もし、このまま暖冬傾向が顕著になれば、3月下旬には羽蟻が発生し始め、4月中旬にはピークを迎える可能性があります。
地球沸騰化が更に顕著になり、日本列島が仮にインドのような気候になった場合、冬がなくなり3月に羽蟻発生のピークを迎えることだってあるかもしれません。
- 暑すぎて、ヤマトシロアリが衰退する⁉
ヤマトシロアリはシロアリの中でも北方に進出した種類です。実は暑すぎるのは苦手です。猛暑日が続く現代の真夏、都市部から衰退するのではないかとも考えたのですが、実際のところはどうでしょうか…。
- 実際では、35℃の猛暑でもヤマトシロアリは活動的!
実は1件、猛暑の中でも活動的だった現場を訪問しましたので報告します。
撮影の許可をいただけなかったので、文章だけとなりますが、真夏の気温約35℃の中、基礎の外側に作られた蟻道を崩したところ、職蟻が多数出てきました。外気温が高くても、地下は温度が低い為、そこから水分補給すれば猛暑でも意外と生存出来るようです。
まとめ
科学的根拠に基づいた気候変動のシミュレーションが発表されていますが、太陽活動が弱まったり、大規模な火山活動による大量の火山灰で直射日光が遮られたりして、沸騰化から転じて、冷涼な気候になる可能性も捨てきれません。ただ、現状では温暖化に向かっているのは明らかです。
このことから、もし気候変動が進行すれば、シロアリの羽蟻は現在よりも1ヶ月ほど早く発生するようになり、さらに、イエシロアリも分布が拡大し、ますますシロアリ対策が必要になる可能性も出てきます。冬季が短くなり、シロアリの活発な時期が長くなるので、加害速度も早まりそうです。
地球の気候変動とシロアリの活動には必ず関係性があります。今後ますます、傾向を分析し対策をおこなう必要があるのです。
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蝶以外にも、トンボ、蛾、甲虫、カメムシ等も南方系の種類が続々と分布を北上しています。鳥類では沖縄に分布するリュウキュウサンショウクイが近年関東地方でも生息するようになりました。図鑑でしか見られなかった南方系の生き物を目にすると、嬉しい反面、気候変動の現実を突きつけられ、複雑な気持ちになります…。