ゴキブリとシロアリ――飼育を通じて見える進化と役割の共通点
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Researcher

- 橋本 実樹
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研究員 2007年入社
DX 推進室 専任課長
埼玉県で初のクマゼミの採集実績あり。大学では昆虫類、主にセミ類の分布調査に携わる。 2007年テオリアハウスクリニックに新卒入社。熱海起雲閣で床下ロボット調査、代々木能舞台や国際子ども図書館の駆除など経験。 趣味はハチや魚類の採集、飼育。
interview当記事はゴキブリの画像が多く含まれますので苦手な方はご注意ください
はじめに――シロアリとゴキブリの意外な関係

分類学的にはシロアリはゴキブリの一種ですが、果たしてその生態はどれほど似ているのでしょうか?
シロアリとゴキブリが近縁の存在であることは、昆虫学の分野では広く知られています。しかし、その生態や行動にどれほどの共通点があるのか、実際に観察して見えてくる部分はあるのでしょうか。
今回、私はアルゼンチンモリゴキブリ(以下「デュビア」)を飼育することで、この疑問を掘り下げてみました。本稿ではその観察結果と考察をお伝えします。
そう、ついに私もゴキブリに手を出してしまったのです!
シロアリ、甲虫、ハチ、バッタ等様々な昆虫を飼育してきましたが、ゴキブリは経験がありませんでした。
しかし、白蟻専科メンバーは複数名が当たり前のように外国産ゴキブリを飼育しており、
私も興味を持ち始めていたところでした。

そんなに欲しいなら餌用のゴキブリ家から持ってくるよ
熱帯魚愛好家でもある田中は、「ゴキブリくらい飼っていて当たり前でしょ」というさすがの貫禄であります。
ゴキブリ=餌という認識らしいです。
さて、持ってきてくれたのはこちら
和名:アルゼンチンモリゴキブリ(通称デュビア)

ペットショップなどではデュビアという名前で、基本的に熱帯魚や爬虫類等のペットの餌として売られている不憫なゴキブリです。(以降デュビアで統一します)


左がメス・右がオスです
オスは「どう見てもゴキブリ」ですが、メスはヤマトゴキブリのように成虫になっても肩パットくらいしか翅が伸びない成虫らしからぬ形をしており、古代生物「三葉虫」を彷彿とさせる姿です。(左の中くらいのサイズの個体は幼虫)
オスの翅はほとんどただの飾りで、基本的に飛ぶことは有りません
ゴキブリにしては動きもかなりスローです
個人的に素早くなく、脱走のリスクが低いというのが一番のセールスポイントではないかと。

主観ですが、三葉虫っぽいメスのフォルムはカッコイイ!
なお、見た目はシロアリとは似ても似つきませんね。

↑↑ 出生直後のシロゴキの状態なら少しは似てるでしょうか ↑↑

↑↑ では、脱皮直後(右端)なら ↑↑
どう見てもゴキブリでしたね
それでは、今回そんなデュビアを飼育してみて私自身が感じたシロアリとの共通点です。
共通点1「共食い」
シロアリは木などのセルロースを主食にしますが、稀に動物性のものを食べることがあります。
主に「共食い」です。
役割を終えた兵蟻の個体数調整や死骸の掃除も兼ねて共食いを頻繁に行いますし、飼育下でも確認できます。
デュビアもその傾向があり、普段は動物質のものを殆ど食べませんが、死骸を共食いすることはあります。

あと共食いに含まれるかは微妙だけど脱皮したあとの脱皮殻を食べることはゴキブリに限らず多くて、外骨格の成分であるキチン質を効率よく摂取する目的もあるんだよね。
共通点2「社会性がある?」
シロアリとゴキブリはどちらも集団生活を営み「社会性」を持ちます。但し「社会性」の中身には大きく違いがあります。
シロアリはすべての種類が「真社会性昆虫」に属しますが、
ゴキブリは「真社会性昆虫」には属しません。(ごく一部の例外を除く)
シロアリの祖先とされるキゴキブリ科には「亜社会性」が確認されています。

真社会性と亜社会性の明確な違いは階級制度(カースト)による役割分担ですね。
亜社会性とは、雌雄のペアと子供が家族単位で共同生活を送りますが、階級による明確な役割分担はほとんど見られないことが特徴です。
言い換えれば、「ただ一緒に暮らしているだけ」とも言えるでしょう。
真社会性をもたないゴキブリはすべての成虫が繁殖できるので、コロニーから少数個体だけ切り離しても繁殖が可能です。
シロアリを始めとした真社会性昆虫は生殖可能な階級が揃っていない限りは労働階級だけの集団を隔離した場合、終焉を迎えることがほとんどです。
ただ、真社会性でもヤマトシロアリなど職蟻の状態から生殖虫を新規で分化させられる種類も存在するのが面白いところです。これらの種の職蟻は擬職蟻とよばれ、全ての階級に分化できる能力を擁しているからですね。
何にでも例外はつきものであります。

飼育下では、真社会性のアシナガバチの巣に他の巣の羽化直後の働き蜂を混ぜても同棲できることを確認していますので、真社会性でも環境によっては集団構成に例外が出る可能性は常にあるのではないかと思っています。
なお、ゴキブリの一部には、かつては真社会性を持つ種類が存在していたとされていますが、現生ゴキブリとシロアリの間に明確な「社会性の差」が見られます。
なぜこの差が生じたのか?
私の仮説としては、以下のゴキブリの特徴が影響したと考えられます。
・体が大きい
・身体が頑丈
・環境適応力が高い
これらの特性により、ゴキブリは大規模な集団生活を行うよりも、小規模なグループで個別に活動・繁殖する方が生存競争において有利だったと推測されます。
一方、体の弱くて小型のシロアリは大規模な社会構造を維持する方が生存に有利だったため、現在のような真社会性を発展させたと考えると自然ですね(これも仮説です)
結論として、シロアリはゴキブリの一部門とも見なされることがありますが、両者が進化の過程で異なる社会性を発達させた理由には、それぞれの環境や生存戦略が影響していると考えられます。

進化・分化の過程を想像するのって楽しいですよね・・・!
ゴキブリのサイズ感になってくるとコロニー維持のためのスペース効率が悪くなる感も否めません。
仮に真社会性のチャバネゴキブリがいたとして、数万匹単位のコロニーを構成する生態だったら、厨房機器の裏で収まるレベルの存在ではなかったでしょう。

それは完全にテロでしょ
共通点3「セルロース分解能力がある」
正確にはゴキブリの1種「キゴキブリ」がシロアリの祖先と言われます。
キゴキブリはシロアリと同様セルロース分解酵素を生産する共生原虫を体内に擁しています。
ゴキブリの食性について特徴的なのは、種類にもよりますがセルロース分解能力があるという点。
デュビアもシロアリと同じく植物質のものが好きなのですが、植物質で齧れそうなものなら餌になります。餌が少ないと紙や段ボールですら齧ります。
現在デュビアに与えているのはウサギの餌(ペレット)が主体です。
主原料はアルファルファミールという「乾燥した草」なので、主成分はシロアリのセルロースと一緒ですね。健康食の定番である「小麦ふすま」も入っておりますし、こちらも食物繊維が豊富な食物です。
ただし、植物だったとしてもパクチーとかレモングラスのようなスパイス・ハーブ系は与えてもほとんど興味を示しませんでしたが、おそらく忌避成分が含まれているからでしょう。
共通点4「自然界における分解者」
ゴキブリはシロアリと同じく自然界においては分解者の役割を担っています。
デュビアに関しては、ゴキブリの中でも食い意地がすごいそうで、飼育しているとリアルにその雰囲気を感じ取れます。
毎日与えているウサギ用のペレットだけだと水分が不足するので、
時折野菜・果物や昆虫ゼリーなどを与えているのですが、それらを与えた日には争いが勃発します。
水分不足の可能性もありますが、やはり食べやすさが段違いなのでしょうね
彼らは夜行性ですが、このときばかりは時間帯を無視した争奪戦が繰り広げられます。

柿に群がるゴキブリ達

食後の柿、皮と種だけ残してキレイに無くなってます。
食べ方は結構特徴的でカブトムシなどの甲虫類のように果実部分だけ舌で吸い取るのではなく、薄皮を残すレベルでほとんど食べ尽くしてしまいます。キャベツなどの野菜くずなどは芯からキレイになくなります。

さあ、リンゴの皮でもあげてみましょうか

餌を上げた直後から、形跡が無くなるまで、例のカサカサ音が止まりません。

野菜屑が、数分の間にゴキブリで覆われます。
バリバリ咀嚼する様相はなかなか壮観で、まさに「ザ・分解者」のポテンシャルを感じることができます。

ご覧の通り、表皮だけ残してきれいになくなります。
分解者としての貫禄が感じられます。
そしてタフである
これは当初のイメージ通りですね、大体のゴキブリ共通の特性だとは思いますが思ったよりタフでした。
カブトムシやクワガタなどは、触るとすぐ弱ってしまいますが
デュビアは子どもが少々いじり倒しても弱りません。
餌をあげたら警戒せずに金魚のごとくすぐに寄ってきますし、水分の欠乏に強く、直接水分を与えなくてもウサギの餌と野菜屑を与えるだけで勝手に繁殖してくれます。
個人的には子どもの教育用や、ペット入門にもおすすめです。
私は自宅でも飼っています!

ただ意識していないと数が増えすぎるのが難点なんだけどね笑
結論 共通点は意外にも多かった
結果として、飼育することによりデュビアの生態を理解できたことはもちろんですが、食性や暮らしぶりにいたるまでシロアリと多くの共通点を見つける事ができました。
・社会性 ▲
・食性 ◯
・セルロース分解 ◯
・分解者 ◯
どちらも華やかさはないですが、分解者としての役割を強く感じさせられます。

久々に新しい生き物を飼育してみましたが、近似種や共通の祖先をもつ種を比較しながらどうしてこうなった?と想いを馳せるのもなかなか楽しいものじゃないかと思います。
まだまだゴキブリについては初心者なので、今後も飼育を続けもっと深く掘り下げていく予定です。
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