シロアリは美味しい昆虫食?実際に食べてみた結果…

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Researcher

研究者プロフィール
木村 健人

研究員 2009年入社

経営企画部webマーケティング課専任課長

シロアリ・木材腐朽菌に対する防蟻・防腐薬剤性能評価、木材保存について在学中に携わる。 2009年テオリアハウスクリニックに新卒入社。 数千件のシロアリ調査および駆除工事に従事。趣味はシロアリ飼育。

interview

「シロアリを食べる?木村さん正気ですか…?」

前回、イエシロアリの繁殖方法についての記事を当サイトで公開した。そこでイエシロアリの活用法として食料や飼料になる可能性について言及していた。

「でも、食料になんてシロアリが本当になるのだろうか」

実際のところ、一部でそう言われているから軽い気持ちで書いた一文だったのだが、そもそも私がシロアリを食べたことが無いのにそんな偉そうなこと言えるわけもない。つまり、食べてみる他に逃げ道は無いわけである。

「このイエシロアリ、食べるわ」

昼下がりのオフィス、唐突に口から出た一言に対しての周りの反応が冒頭の一文だ。

というわけで、今回、自分の発言にしっかりと責任を果たすため、イエシロアリが食料になるのかを実践(実食)してみることにした。

果たして結果は如何に…

今日食べるシロアリはこちら

シロアリを食べるには、まずシロアリを用意する必要がある。幸い白蟻専科にはストックしたシロアリが多数いるため、その中からイエシロアリを2コロニー持参した。

木村

両方とも砂のケースで飼育していたコロニーですが、一つは砂のまま、もう一つは別ケースに移し替えたものを用意しました。

試験などに使われるはずだったシロアリ。かなりの数のシロアリがいるのだが、どうやってシロアリだけ分けるのかが大問題。

シロアリを砂や不純物と分ける

木村

砂はかなり細かいですから、ザルとバットを使って砂だけ振り落とせばシロアリなんて簡単に分けられますからね。

砂であればザルを通過するほど細かいので、シロアリと簡単に分別することができるはず。おそらく誰しもが考えるこの方法を実践してみることにした。

木村

…全然砂が落ちない。というか砂が湿気を吸って玉になってるし、振り落とす過程でシロアリが潰れてしまってますね。

シロアリを飼育している環境上、砂も湿気をかなり含んでしまっている。砂浜の砂とは話が違うわけで、これでは全くシロアリを分けることができなかった。

木村

であれば、湿ったティッシュにシロアリをくっつかせる方法でいきましょう…!これなら時間かかるけど確実なはず。

湿らせたティッシュを砂の上に乗せてシロアリを移動させる原始的手法。果たして…

すると、ほんの数分でイエシロアリたちがティッシュに群がりはじめた。このティッシュを持ち上げてバットにふるい落とせばシロアリだけ取ることができる、という魂胆だ。

木村

やばいやばい、兵蟻めっちゃ噛んでる、痛っ!

グサッと皮膚を突き破り乳白色の防御物質を放出するイエシロアリの兵蟻。チクッとする感覚で意外と痛い。実はイエシロアリの兵蟻はシロアリの中でも好戦的で凶暴。噛んだまま離すことなく息絶える個体が出るほどだ。

このようにティシュにくっついたシロアリをポロポロと落としていく。地道な作業ながら意外とシロアリだけを取り出すには効率的なのかもしれない。

木村

んー、もっとたくさんいると思ったけど結構少ないですね。これで足りるかな。

砂のままのコロニーからシロアリを取り出してみたが、意外と少なめ。やはりシロアリを食べるのは一筋縄ではいかない…。

木村

もう一方のコロニーも同じようにシロアリだけ取り出しましょう。こちらは糞出しを兼ねて前日に湿らせたティッシュが入ったケースに入れていたやつです。

バットにシロアリを移動させても、実は小さな砂やゴミはバットに混入している。ごく僅かであっても、口の中でジャリッとした食感はいただけない。アサリの砂と同じだと思う。

木村

そんなときは自分の指でバットをなぞってゴミをくっつけるように取るのが一番効率的なんですよね。かなり面倒ですがそれしか方法が無いと思います。

ちなみに、2コロニーを用意した理由はシロアリの体内に残っている消化物(糞など)の違いで味や香りに差が出るのではないかと思ったため。

こちらが集めたシロアリ。左が糞出し済みのシロアリ。右が糞出しをせずに取り出したシロアリ。

木村

糞出ししたコロニーはキレイに透き通るようなお腹をしていますが、そのままのコロニーは茶色っぽいですよね。一日でこんなに変わるとは…。

木村

あと、今回はイエシロアリの働きアリがメインなので兵蟻はまた別で分けることにしました。こっちも食べてみようと思います。

シロアリを調理する

シロアリの調理方法は様々ある。例えば、アフリカのケニアではシロアリの羽アリをバナナの茎の灰汁で炒めて食べる風習がある。また、日本でも素揚げのシロアリの羽アリが昆虫食として販売されているのだ。

木村

ですが、やっぱりシロアリ本来の味をしっかり感じたいので、今日は余計なことはせずに炒めて塩を振って食べてみようと思います。

やる意味があるのか果たしてわからないが、念の為シロアリを水洗いした。水にさらすとシロアリがよりプリプリになる気がする。 

しっかり水気を拭き取り、シロアリをフライパンへ。とても小さいので弱火で炒めないとすぐに焦げ付いてしまいそうだ。

木村

どれくらい炒めるのがいいのか分からないので、とりあえずじっくり完全に火が通るまで炒めてみます。

シロアリが食べ物になる瞬間。何か複雑な気持ちになる。

木村

味付けに塩を一つまみ入れて馴染ませるように炒めればOKですね。

木村

なんか山芋の匂いがする。

シロアリを食べてみる

これが完成したシロアリの炒め物。味付けはシンプルに塩のみだ。

と、ここで実食をする流れだったのだが、シロアリの実食は昆虫食素人の私だけだと心もとないので田中勇史さんにも参加してもらうことに。

田中さんは白蟻専科で1,2位を争う昆虫食エリート。幼少期には夕食のためにイナゴを採集して家に帰るのが日課だったらしい。

田中

さすがに自分もシロアリは食べたことがないけれど、想像よりも茶色っぽくて全然美味しそうには見えないですね。

木村

確かに。見た目が家の窓際で干からびたシロアリみたい。

木村

ん。やっぱり山芋の匂いに似てる。ほのかな土の香りというか。脳裏に海岸を感じますね。

田中

確かに山芋の匂いはするし、奥に食べた木の香りもする。

木村

じゃあ、まずは自分からいただきます…

木村

ん、これ、飲み込まないとダメなやつですよね…?

木村

なんというか、美味しくない…。

田中

んー、これはダメなやつ…。食べられなくはないけど、美味しさが無いのと臭みもある。

木村

さすがにここまで美味しくないと思ってなかったので、ちょっと何か原因ありそうですね…。

最初に食べたのは、糞出しをしていない巣から取り出したままのコロニー。そのため、体内の風味をそのままダイレクトに感じてしまったのかもしれない。

「シロアリは食料になる」という一言も、これでは成り立ちそうにない。

田中

一応、もう一つの糞出ししたツヤツヤコロニーもあるから食べてみますか。

左が糞出ししたシロアリ。右が糞出ししていないシロアリ。明らかに色が違う。

木村

これ、山芋の匂いは同じだけどエビみたいな香ばしい香りがしますよ…!

木村

あれ、これは食べられる。ん、美味しい…?

田中

ん、これはいける。香ばしいエビのような風味がしますね。山芋の香りと甲殻類の風味がして、こんな小さいのに味がしっかりしてる。

木村

糞出しの有無でこんなに味が違うのか。糞出しした方が確実に美味しくなるってことですね。

シロアリの体色からして何となく想像していたが、やはり糞出しした真っ白いシロアリの方が段違いに美味しいことがわかった。むしろ、茶色っぽい働きアリは食べないほうが良さそう。

兵蟻も同じように炒めて食べてみるとことにした。働きアリと違い数が多くないため貴重な存在だ。

田中

…味がしない。兵蟻って職蟻から口移しで餌をもらっているから臭みとか無いんだと思ってたけど、それを通り越して何も無い…。

木村

ほんとだ、全く味しないですね。風味がない。でもプチプチする食感は海ぶどうみたいです笑

意外にも兵蟻は味がほとんどないという結果に。職蟻からいい餌を与えられているから味も良いものと思いきや、全然そんなことは無かった。

白アリと白ごはん

木村

日本食ってやっぱり白いごはんに合うかどうかじゃないですか。だからシロアリもご飯と合うかどうかも試しておかないといけませんよね。

木村

シロアリ醤油丼。美味しかった方のシロアリをご飯に乗せて、醤油を回しかけたら完成です。

田中

見た目は全然美味しそうじゃないけど、醤油の香りがいい感じかも。

木村

普通にエビとかご飯に乗せたら美味しいじゃないですか。だからこれ絶対に美味しいやつですよ。

木村

……臭い。

木村

なんか苦みと臭みが増しててさっきのシロアリの良さがなくなってるんです。ちょっと食べてみてください。

田中

これはダメかも…。ご飯で温められてエグみが増してるのか全然美味しくない。

木村

炒めただけのシロアリはダメなのかも。ちゃんと味付けたり素揚げにしたほうが良いのかもしれませんね。

とは言え、調理したシロアリは1匹残さず美味しく完食。食べ方によって美味しさのブレは結構あったけどもどれも食べられないものでは無かったと思う。

シロアリは食料に成り得るのか

木村

シロアリ、小さい虫だけど意外と味もしっかりしていてポテンシャルはあることは分かりましたね。

田中

特に糞出ししたシロアリは普通にエビの香ばしさがあって食べ物としても受け入れられるんじゃないかな。

木村

でも、どうです?この量を砂やゴミから選別して安定的に生産するって考えたら…。

田中

確かに、イエシロアリのコロニーで見れば100万匹のシロアリがいるけれど、それを食用に選別するのはまた別次元の話ですもんね。

木村

アフリカなどで食べられているのは群飛する羽アリみたいですし、シロアリを養殖して働きアリを食料にするのは現時点ではハードルがちょっと高すぎるのかもしれません。

田中

でも、シロアリを栄養的な面で見ればタンパク質や脂質も豊富と言われていますし、枯死木だけで養殖することができる点は魅力的なんですよね。

木村

まずはシロアリを安定的に繁殖させること、そこから食料として選別させる技術を作ること、この2つが肝になりそうですね。

木村

何はともあれ、ごちそうさまでした!

田中

ごちそうさまでした!

あとがき

今回の検証で、シロアリ自体は食べられないことはない味であることがわかったのと同時に、食べられるようにするまでの労力が非常に大きいことも分かった。

正直、シロアリをここまで苦労して食べたいかと言われると「はい!」と即答はできない。シロアリよりも美味しいもので世の中は溢れているし、シロアリを食べる必然性も今のところ無いからだ。

ただ、将来食糧事情がどうなるかは誰にも分からない。シロアリなんか食べなくていいでしょ、と未来を狭める必要も無い訳で、実際に真剣に研究されている方もたくさんいらっしゃる以上、私たちとしてもその可能性を狭めることなくシロアリの可能性について考えていけたらと思う。

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