薬剤の気になる「匂い」を検証!コーヒーと比べてみた
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Researcher
- 田中 勇史
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研究室長 2007年入社
シロアリ業務技術開発課専任課長
大学では昆虫類の研究に携わる。2007年テオリアハウスクリニックに新卒入社。 これまで3000件を超える家屋の床下を調査。皇居内の施設や帝釈天といった重要文化財の蟻害調査も実施。 大学の海外調査にも協力。
interviewこんにちは。シロアリ1番!の田中です。
薬剤のイメージとして皆さんがよく思い描くことに「薬剤=臭い」があります。
何でもそうですが、薬剤というのはその安全管理の関係で処理されたことを人がある程度認識できるよう、臭いを付けてあることが多いのです。
現在のシロアリ駆除において使用される薬剤には、もちろん様々なものはあるのですが、未だに
「シロアリの薬剤って床下に処理したら部屋の中にまで臭いが入ってくるのでは」 「安全とは言いつつもやっぱり体にも良くないですよね」
といった声を耳にすることも決して少なくありません。
では、なぜこのようなことが言われ続けているのでしょうか。
その背景には、現在では使用が厳しく制限されるようになったシロアリ薬剤のイメージが根強く残っているためでもあります。
1950年代、日本のシロアリ薬剤といえばその大半が有機塩素系薬剤と呼ばれるものであり、効果がとても高い反面、臭いの問題や人体への悪影響が問題視されました。
またその後有機塩素系に変わって登場した、有機リン系薬剤の存在もまた私達にシックハウス症候群という恐ろしい病を引き起こすことが判明し、これらの薬剤は使用が制限された過去があります。
ですが、その時から頭の中に残された「臭いがきつい」「人体に悪影響だ」といったことが今あるシロアリ薬剤のイメージにも反映されてしまうことがあり、未だにその記憶が消えていないのです。
そこで、今回は特別な機材を用意し、多くの人がシロアリ薬剤といって特に気になる部分、「臭い」の検証を行っていきます。
臭いというと、どうしても目に見えないものですし、感覚で感じるものなのでなかなか調べても出てくるものでもありません。
用意した機材は、その見えない臭いを可視化、つまり数値に表すことでその物の持つ臭いを実際目で見て比較することができるのです。
現在試用されている一般的なシロアリ薬剤が、皆さんの身近にある物の臭いと比較することができれば、イメージも付きやすくなるのではないでしょうか。
では、実際の試験結果を見ていくことにしましょう。
試験に用いる薬剤の選定
本試験において使用する薬剤について、少し触れておこうと思います。
試験には、現在のシロアリ防除において最も主流とされている薬剤を用いるのが比較的分かりやすいと仮定して2種類のタイプの違う薬剤を用意しました。
- ネオニコチノイド系薬剤
- ピレスロイド系薬剤
主に予防薬剤としての使用頻度が高いネオニコチノイド系薬剤と駆除で使われることの多いピレスロイド系薬剤です。
ネオニコチノイド系薬剤の特徴はそのステルス性、処理した薬剤をシロアリが気づくことなく通過することで薬剤あ体に付着し、巣内で上手く伝搬するように作られた薬剤になります。
そのため、一般的にはネオニコチノイド系薬剤はあまり臭いがキツイとは言われませんが実際のところはどうなのでしょうか。
一方でピレスロイド系薬剤の特徴は即効性を重視した薬剤が多く、触れたら瞬時に効果が発揮されるタイプがほとんどです。
また、市販でも様々な殺虫剤に使われることが多く、エアゾールタイプなど様々ありますが一般的には臭いはある程度するといったイメージですね。
ですが、これも人による、感覚で感じる部分なので実際数値化してみると意外な結果が見えてくるかもしれません。
薬剤とコーヒーとで匂いを比較
薬剤の臭いを検証するにあたり、薬剤同士を比べてもあまり意味はありません。
やはり、ここは皆さんの身近にある物と比べてみるのが最も解りやすいでしょう。
では、何を用いるか. . .
いろいろと悩みましたが、誰も親しみがあり、パッと「これ臭い強いよね」とイメージできるものを選んでみたつもりです。
それは、「コーヒー」になります。
コーヒーなら、誰しも一度は嗅いだことがあると思いますしすぐにコーヒー=こんな臭いとイメージしやすいのではないでしょうか。
今回は、この薬剤2種とコーヒーを用いて臭いの検証に迫ります。
試験の測定方法
臭いの測定方法も工夫しました。
まず、広口の容器を用いたことについて、「臭いを測る場合、通常なら密閉した容器内に充満した臭いを測定したりすることが多いのですが、今回はあえて密閉せずにわざと臭いが拡散されるようにしました。
それは、今回知りたい根本的なところが「空気中に拡散したときの臭い」であって密閉された状態では正しい数値が得られないためです。
そして、もう一つ用意したものがあります。
それは、「水」です。
こちらは「コントロール区」というもので、一つの基準となる「無臭」を用意するために使いました。
厳密に言えば、カルキ臭などもあるのかもしれませんが、私が嗅いでみた限りでも水は無臭でした。
実際、測定器を用いても数値は0を示し、計測不可能な臭い、つまり無臭ということです。
この数字が高く慣ればなるほど臭いが強いことを示しますので覚えておいて下さい。
試験結果
それでは、実際に行いました試験の様子を一緒に見ていきましよう。
まずは、薬剤との比較対象として選択した「コーヒー」
こちらの結果を見ていくことにします。
コーヒーの臭いってとても特徴的ですよね。
オフィスでもコーヒーがどこかの席に置かれていると「あ、誰かコーヒー飲んでるな」と臭いで分かるのではないかと思います。おそらく、誰に聞いてもコーヒーの臭いの印象は「強い」となるのではないでしょうか。
ただ、強いというのは単なる印象であって人が持つ感覚のち外によっても違ってきてしまうものです。実際に測定器を使って数値化してみるといったいどれほどの値となるのでしょうか。
先程、水は0という値でしたね。
コーヒーを測定してみると結果は「31.2」という数値が示されました。
水と比較するとやはり随分と高い値である事が分かります。
さすが、遠くからでも気づいてしまうこの臭い。コーヒーの臭いは非常に高い拡散力を持っているようです。
それでは、ここからは皆さんお待ちかねの本題に迫ります。
これまでよく「シロアリ薬剤は臭いがキツイ」と言われ続けてきた中で、その値は実際どの程度まで上昇するのでしょうか。
皆さんはどうなると思いますか。
私の予想だと、実際に臭いを嗅いでみたら奥底に若干の薬剤系特有の臭いはあるようにも感じるけど、しっかりと鼻を近づけないとわからない程度。
でも、臭いが感じられないわけではないし、数値で言えば10辺りでは無いかと正直思ってました。
ネオニコチノイド系薬剤
まずは、ネオニコチノイド系薬剤から臭いの検証をしていきます。
今回使用したネオニコチノイド系薬剤の中でもシロアリ施工においてとても馴染みのある「クロチアニジン」を主成分とした薬剤を使いました。
ここで一つ、今回用いたネオニコチノイド系シロアリ薬剤はマイクロカプセルと呼ばれる目に見えない微細なカプセルの中に薬剤を封じ込めているため、自らカプセルという殻を被っていることもあって臭いがそれだけ拡散されないよう工夫がされています。
またこれは、安全性や薬剤効果の持続力を上げるための工夫ということでもあります。
気になる測定の結果は、なんと「0」という表示。
ネオニコチノイド系薬剤の臭いは、水と同様の結果が得られました。
測定できないレベルの臭いということにはなりますが、私が直接嗅いでみた時に感じたように確かに薬剤には臭いは少なからずあります。
では、なぜ0という数値になったのでしょうか。
それは空気中に拡散する力が強いか弱いかということを意味しています。
つまりは、ネオニコチノイド系薬剤には臭いはあるもののそれがコーヒーのように空気中に広がっていくことはないということです。
現在使用されているシロアリ薬剤の多くは、より安全性を考慮し床下において処理された薬剤が空気中に拡散していく力を極力抑えることで土壌に定着するよう工夫がされているため、臭いも感じられにくくなっています。
そのことをしっかりと数値によっても示すことができたのではないでしょうか。
ピレスロイド系薬剤
続いてもう一つ、シロアリ薬剤としてとても多く使われているピレスロイド系薬剤を検証していきます。
ピレスロイド系薬剤の特徴といえば、何と言っても瞬時にシロアリを殺虫できる即効性という効果を持っていること。
そのため、主に駆除現場で用いられることが多く、ネオニコチノイド系薬剤よりも早く効果が現れる反面、忌避性と言って処理した箇所にシロアリが寄り付くのを防止する効果が高いことでも知られています。
また、ネオニコチノイド系に比べて若干空気中への拡散力が高いという特徴も持ち合わせていますね。
これは、結果にどう影響するのか気になります。
さっそく検証結果を見てみますと、測定結果は「2.8」という表示が確認できました。
忌避性が高い分、臭いの拡散力も高まるかと思いましたが実際はそんなこともないという結果が得られましたね。
一般的にピレスロイド系薬剤は臭いが強いとも言われていますが、数値を見る限りそれほど大きな違いはないことがわかります。
このことをしっかりと数値として確認することができたことで、みなさんがこれまでシロアリ処理を行うと臭いが上がってくると言われていたことが、その臭いの原因は他にあるということが実証されたわけです。
結論
今回は、「シロアリの薬剤って部屋の中に嫌な臭いが入ってくるんじゃ」「やっぱり体にも良くないですよね」といった意見が未だ聞かれることが多いシロアリ薬剤ですが、実際のところ本当に臭いはしているのでしょうか。
みなさんが特に気にしているであろうこの「臭い」に関して比較対象を用いて検証をしてみました。
結論を言うと、一見すると薬剤は臭いのするものと思いがちですが、実際はコーヒーといった私達が普段から接する機会の多い物のほうが薬剤に比べ遥かに臭いを感じやすく、薬剤はしっかりとその場に定着し、思いのほか臭いは拡散していないことがわかりました。
では、なぜこうも室内が処理した後に臭うという意見が出てしまうのでしょうか。
それは、実際の薬剤の臭いではないということです。
処理を行う場所は基本床下になります。
処理を行う際には必ず人が床下に入るわけで、処理中は地面を這うようにして進んでいくためどうしても土やカビの臭い、床下空間に閉じ込められた様々な臭いが混ざり合い、それが室内空間へと漏れ出てしまうことがあるのです。
その臭いの殆どは今お伝えしたような薬剤の臭いとは無関係のものなのですが、処理を施した後にその臭いがしてしまうため、薬剤の臭いと勘違いしていることの方が多いのです。
そのことが、今回の試験でもしっかりと確かめられましたね。
薬剤の効果や安全性については、実際に実験をしてみないとなかなか見えてこない部分がたくさんあります。
今後も独自の試験で様々な見える化を進めていきたいと思います。
今回は以上となります。
次回の検証試験もお楽しみに。
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