シロアリの立体標本は作れるのか? 前代未聞の挑戦に挑む
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Researcher
- 田中 勇史
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研究室長 2007年入社
シロアリ業務技術開発課専任課長
大学では昆虫類の研究に携わる。2007年テオリアハウスクリニックに新卒入社。 これまで3000件を超える家屋の床下を調査。皇居内の施設や帝釈天といった重要文化財の蟻害調査も実施。 大学の海外調査にも協力。
interviewシロアリの立体標本を作ってみよう!
そう思い立ってかれこれ4ヶ月ほど経過してしまった。
というのも、これまで昆虫標本は数多く作成してきたんですが、柔らかい素材の昆虫はとにかく難しい、もしくは出来ない. . .少なくとも私の技量ではという気持ちが大きかったんですよ。
ただ、日本のシロアリってとても小さいけど、海外には大型の種類も数多くいて、特に兵蟻なんかを立体標本にできたら非常に迫力があってかっこいい標本が作れるのではと思ったんで、まぁ、失敗するかもしれないけどそれもまた良い経験と、準備に取り掛かった次第です。
標本には幾つかのタイプがある?
標本と聞くとカブトムシとかクワガタを想像する方も多いんじゃないかなと思います。
私もこの手の標本は数多く作ってきた経験がありますが、これらは基本的には乾燥標本と呼ばれるタイプで、作るのもそんなに難しくありません。
単純に昆虫の形を整えてから乾燥させて作るものですね。
他にもチョウとかトンボなんかでよく使われるやり方で、羽を広げた状態で乾燥させる展翅標本と呼ばれるタイプや、昆虫を調整した溶液に浸けて保存する液浸標本と呼ばれるタイプと一言で標本といっても様々です。
そんな中にちょっと標本としては異質な存在といったカテゴリーにはなるんですけど、立体標本というものがあります。
その名前の通り、昆虫が生きていた頃の姿をできる限りそのまま残す作り方が立体標本というやつですね。
前から私はこの立体標本を作るのが好きで、特に昔作成したスズメバチの立体標本なんかは見る角度によって印象が変わって、集団攻撃を模した姿は今にも襲ってきそうで結構お気に入りの一つです。

と、こんな感じで完成した時の達成感は他の標本に比べてもまた違った面白さがあります。
また、立体にすることで、この昆虫はこんな風に動いていた、敵との交戦ではこんな感じで戦うといった生物行動の一部始終を細やかに伝えてくれるところもこの標本の素晴らしさだと思いますし、個々のパーツの動き方まで分かるのでそういった意味でも標本の価値は高いんじゃないかなって思いますね。
ただ、今回挑戦する相手というのが、シロアリなのでね. . .
当然、今までとは勝手が全く違います。
シロアリは立体標本に向かない昆虫?
そもそも、立体標本に向いてる昆虫には幾つか共通点があるんですよね。
例えば、ある程度の体が大きいとかしっかりした外骨格を持っているとか. . .
そういった意味では甲虫類の類やハチなどの仲間はまさにバッチリの特徴を持ってて、立体感も維持しやすいから作りやすいんです。
一方でシロアリはというと. . .
とにかく小さいし、腹部なんかはとても柔らかい。
頭部はまだ比較的しっかりしてるけど、それ以外はほとんどが水分みたいなものなので、その水分が抜けてしまったら簡単に萎んで、ぺちゃんこになってしまうのが一番の問題点!
だったら液浸標本でいいんじゃない?と思うかもしれませんが、やっぱり立体標本ってかっこいいんですよ。
上手くいけば、自分が想像していた通りの姿をそのまま再現できちゃうので、なんかこの表現が合ってるか分かりませんが、なんとなくジオラマとかを作ってる感覚に近いのかなと思います。
実際作るとなるとどうする?
調べてみると、全然一般的ではないにしろ、腹部を開口して内部処理をした後、脱脂綿を詰めることで形を維持する「綿詰め」というやり方があることを知りました。
これだったら、もしかしたらいけるかもしれない. . . そんな期待と不安を抱えながらの挑戦となりました。
このサイズに綿を詰める. . .?
方法は分かったものの、ここで大きな問題があります。
シロアリってやっぱり小さいんですよね。
日本のヤマトシロアリなんかは5、6mmくらいしかありませんし、兵蟻にしたって大した大きさの違いはないんです。

そこでちょっと考えまして、とりあえず形を作らないことには始まらないので、一旦日本のシロアリは諦めました。
今回の立体標本に用いることにしたのは、タイに生息する巨大シロアリ、スミオオキノコシロアリです。

以前、私がタイにシロアリ調査で伺った際に捕獲し、液浸標本として保管していたものを使って作ってみることにしました。
ただですよ、そうは言ってもせいぜい2cmいかないくらいの大きさなので、実際小さいのは小さいです!

「こんなサイズの昆虫に綿なんて入るのか?」
まぁ、真っ先に思うことですよね. . .
実は昔、こんな綿詰めなんて方法は当時知らなかったんですが、似たような処理をした記憶はあったんで、そのかすかな記憶を頼りに準備を進めました。

いざ、立体標本作りへ!
実際に作業を始めてみると、やはり想像以上に神経を使います。
少しでも力を入れすぎたら体が破れてしまうし、逆に慎重になりすぎるのも良くなくて、これだとなかなか作業が進みません。
あと少し、ここで破いたら終わり. . .と、そんなことを考えながらピンセットとメスを慎重に滑らせていきます。

腹部の中を掃除するのも一苦労です。
ペーパーを使って慎重に掻き出していくんですけど、これがまた力の入れ具合が難しい. . .

腹部の中を整えたら、少しずつ綿を詰めて形を整えていきます。


こうやって文章で書くと簡単なんですけどね、実際には想像以上に細かな作業で結構苦戦しました。
途中、「これは失敗したかな. . .」と思うような場面も何度かありましたが、少しずつ形になっていくシロアリを見ていると、不思議と集中してしまって、気付けば時間を忘れて作業してましたね。
完成!ちゃんとシロアリになった
そして、ついに完成しました。
展足を終えてまだ仮の固定状態ですが、指に乗せてみました。



凄くないですか! このクオリティー。
なんか当時、タイで実際に指に乗せてみた時と同じ感覚です。
今にも強力な大顎で挟んできそうな迫力を感じますね。
さらに乾燥を終えてレイアウトしたものがこちら。



正直な感想をお伝えすると. . .
「ちゃんと、シロアリになった!」
これに尽きます。
レイアウトするととっても躍動感が出てきて、素晴らしい出来じゃないかなって自画自賛しちゃいますね。
もちろん改善したい部分はあります。
もうちょっと自然な膨らみにできたかもしれませんし、もっと触覚の角度とか綺麗に仕上げられた可能性もあります。
それでも、最初に「これ本当にできるのか?」と思っていたことを考えれば、大満足の結果でした。
シロアリをじっくり観察する機会なんてそうそうないですけど、こうやって体の作りを気にしながら形を整えていく作業は、これまで気付けなかったシロアリの体の仕組みや特徴を知れて結構面白かったです。
標本を作る作業は、ただ保存するだけではなくて、その昆虫を深く知る時間でもあるんだなぁと改めて感じられた良い機会でした。
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