もう迷わない!シロアリ薬剤選択のポイント

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Researcher

研究者プロフィール
田中 勇史

研究室長 2007年入社

シロアリ業務技術開発課専任課長

大学では昆虫類の研究に携わる。2007年テオリアハウスクリニックに新卒入社。 これまで3000件を超える家屋の床下を調査。皇居内の施設や帝釈天といった重要文化財の蟻害調査も実施。 大学の海外調査にも協力。

interview

こんにちは。田中です。

現在、国内には4,000社を超えるシロアリ業者が存在すると言われており、それぞれ施工方法や使用する薬剤も違いますし、複数社で見積もりを取ると様々な提案や薬剤名を聞かされることになります。

正直何を基準に選べば良いのか迷ってしまいますよね。

今回はそんな中でも分かりにくい薬剤について、結局いろんな薬剤を進められたけど一体薬剤の何が違っているの?という疑問に一つ一つ解説を交えながら詳しく解説します。

何を基準に選ぶべきか?

まずは一つ質問を投げかけたいと思います。

「薬剤選びをしていく場合、皆さんは何を基準に見ていますか?」

薬剤を使用すると聞けば、現在でもまだまだ「安全性は?」「臭いがキツかったら?」といった不安の声が聞かれることもあります。

一般の方が何を基準にと聞かれたら、「やはり効果は高くあってほしい」「シロアリをしっかり防除したい」「でも人に影響があっては困る」といったところだと思います。

誰しもご自宅に使われる薬剤がもし危険な薬剤だったらどうしよう?といったことは、一度は考えてしまうものです。

シロアリ駆除薬剤は、常にこれらの問題と向き合い続けてきた歴史があります。

そのこともあり、現在では人体に対する安全性に優れた薬剤の開発も進み、超低臭性を謳った製品も数多く出回るようになっています。

こうした施工者側にも入居者側にも害のない薬剤というのはもうすっかり当たり前といった時代にはすでに随分前から出来上がっているのです。

ということは、あと何を求めるかと言えば「効果」の部分ですよね。

この効果を求める薬剤選びというところで、各社からは様々な種類の薬剤が出ています。

この中から選ぼう!代表的な4種の薬剤

では、なぜこんなにもたくさんの薬剤が出回っているのかというと、それはお客様一人ひとり考え方も違えば、シロアリ被害の程度も様々、建物の構造や立地条件も全く同じなんてこともないのでその一つひとつのお宅に合った薬剤を使用できるように、様々なタイプのものが用意されていたり、いろんなお宅に対応できるようその工法も作られているからなのです。

今回はそんなシロアリ対策を行う際に使用される薬剤について、実際のところどのように一般の方が選べば良いのか、薬剤の特徴や工法なども踏まえながら一つ一つ紐解いていくことにしましょう。

ですが、ここで全ての薬剤を紹介することは難しいため代表的なところ、「これだけ覚えておけばご自身の建物に対策を施す際に迷わないですよ」という4種を紹介します。

「ネオニコチノイド系薬剤」

現在のシロアリ薬剤の主流と言えば、このネオニコチノイド系薬剤でしょう。

一般的には省略した呼び名がよく使われており、「ネオニコ」のほうが馴染みはあるかもしれません。なぜ最も多く使用されているのか、それはやはり薬剤効果と安全性の両面をしっかりと合わせ持った薬剤であり、扱いも楽である点がこれだけ普及してきた理由の一つではないでしょうか。

タバコに含まれる殺虫成分であるニコチンを元に合成された薬剤で、この薬剤の優れている点は「選択毒性」と呼ばれる特定の生き物のみに高い効果を発揮する薬剤であることです。この薬剤の特徴は、昆虫に特化した効果を持ち、昆虫の神経伝達を阻害することによって麻痺効果を与え殺虫しますが、昆虫以外の生き物、例えば人をはじめとする哺乳類や魚類に対する毒性が低く、非常に高い安全性が保たれていることから多くの場面で使用されています。

有効成分で言えば、イミダクロプリドやクロチアニジンなどが有名であり、これらネオニコチノイド系薬剤は飽和蒸気圧が極めて低いため、処理後薬剤成分が空気中に拡散することもほぼありません。

また、もう一つの特徴として忌避性がなく、基本的には遅効性の薬剤であることも覚えておくといいでしょう。

薬剤に触れた後、効果が発動されるまでに時間を要する遅効性薬剤ですので、その狙いは伝搬効果(ドミノ効果)ということになります。シロアリが知らず知らずのうちに体に付着させた薬剤を自ら巣へと運び、時間の経過と共に巣内へと薬剤効果を伝搬させて全滅させるため、主にシロアリの予防工事においてよく使われる薬剤となります。

使用の条件として基本的に床下全面にしっかりと散布ができる、点検口もあってしっかり床下に潜れて処理でき、シロアリの被害が出てないよという場合には特にオススメの薬剤となっていますので、一つ薬剤を選ぶ際のポイントとして見ておくといいですね。

「合成ピレスロイド系薬剤」

ネオニコチノイド系薬剤に並んでシロアリ対策の主要薬剤として広く知られているのが、除虫菊から抽出される天然物「ピレトリン」を人口的に化学合成して作られる合成ピレスロイドになります。

ネオニコチノイド系薬剤があるのならそれでいいのではと考えてしまいますが、ネオニコにはない合成ピレスロイド系薬剤最大の特徴は、シロアリの動きを瞬時に止める「即効性」の効果にあります。

昆虫類の神経細胞受容体に作用し、神経系統を一瞬で麻痺させ殺虫する効果を持つため一見すると人への影響も大きいように思えますが、シロアリに用いられる「ビフェントリン」などの有効成分もネオニコ同様、昆虫類に対して非常に高い選択毒性を示すため、人体への作用が極めて弱く、安全性は保証されています。

ネオニコチノイド系薬剤との使い分けに関しては、高い即効性を示すその特性を活かして一般的には駆除現場に用いられることが多い薬剤です。現在侵入してしまっているシロアリを瞬時に殺虫し、その後の侵入防止効果も高い忌避性から得られるため被害が既に出てしまっている建物ではネオニコチノイド系薬剤よりも有利となりますので覚えておくといいですね。

「IGR剤(脱皮阻害剤)」

みなさんの中には「家は建物の構造上、床下に入れないんですよ」ですとか「化学物質過敏症で建物内に薬剤を処理することができないから、もう諦めてます」といった方も少なからずいらっしゃるのではないでしょうか。

確かに、シロアリを防除するためには「床下の薬剤処理が基本で、処理できなければシロアリの被害に遭ってしまいますよ」なんてことがよく言われていますよね。

ですが、もちろんのこと一棟一棟造りも違えば、条件も異なります。

中には床下に潜れない、そもそもうちには床下すらないといった構造の家も実際あります。

そのような場合、もうシロアリは諦めるしかないのでしょうか。

実はそんな時こそ使っていただきたい薬剤、工法があるんです。

それが、一般的には「ベイト工法」と呼ばれるいわゆる毒餌をシロアリに食べさせる事で巣の根絶を狙ったものになります。

使用される薬剤は、昆虫などが成長する際に行う「脱皮」という行為を阻害することで成長させないようにしてしまうもので、要するに脱皮をしない私達人間を含む哺乳類などには何の影響もない非常に安全な薬剤なのです。

またこの工法の優れた点は他にもあり、通常のシロアリ施工の考え方では建物に対してどう薬剤を処理していくかというものでした。ですがこのベイト工法に関しては全く違い、建物そのものには処理を施すことはなくて建物外周部での対処で全てを賄えてしまうため、先程のような床下に入れない、そもそも通常の薬剤は使えないといったご家庭においても安全かつ効果的にシロアリの施工ができます。

ご自身の建物の構造や薬剤に対して敏感な方が家族にいる、建物には薬剤処理をしたくないといった場合に特に有効な選択肢の一つになっていますので、もし諦めていたという方などがいらっしゃれば、一度検討されてみるのもいいのではないでしょうか。

「アントラニリックジアミド系薬剤」「メタジアミド系薬剤」

そして、最後にご紹介する薬剤は現在のシロアリ薬剤の大半を占めるネオニコチノイド系薬剤に代わって今後需要が増えていく可能性のあるシロアリ薬剤としては新しい系統の薬剤です。

こちらの薬剤は、ネオニコに代わる新薬として登場してきているものであるため、薬剤を選ぶ際のポイントとしては基本的にはネオニコと同様床下全面にしっかりと散布ができる、点検口もあってしっかり床下に潜れて処理でき、シロアリの被害が出てないよという場合には特にオススメの薬剤という認識で問題ありません。

あとは、クロラントラニリプロールを有効成分とするアントラニリックジアミド系薬剤は、唯一米国環境保護庁(EPA)の低リスク殺虫剤(RRP)に指定されていることもあり、より安全性を気にされる方にとってはオススメの薬剤ではないかと思います。

さいごに

薬剤に関してはどんなものであっても正しく用法用量を守って処置を施すことにによりその安全性は保たれているものでもあるので、それが守られていないものは基本どんな薬剤であってもリスクを伴います。

そのため薬剤を選ぶ際には

  • きちんと公益社団法人日本しろあり対策協会が認定をした薬剤であるか
  • 協会に加盟した会社の者が施工をしてくれるか

こちらの2点は大前提としてしっかりと確認して頂いた上で、ご自身のお宅に一番適した薬剤・工法を選んでいただければと思います。

今回の記事が皆様のお役に一つでもなっていれば幸いです。

それでは、今回はこの辺で失礼させていただきます。

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