横浜市中区のシロアリ調査で明らかになった新事実

  • アメリカカンザイシロアリ
  • 事例

Researcher

研究者プロフィール
田中 勇史

研究室長 2007年入社

シロアリ業務技術開発課専任課長

大学では昆虫類の研究に携わる。2007年テオリアハウスクリニックに新卒入社。 これまで3000件を超える家屋の床下を調査。皇居内の施設や帝釈天といった重要文化財の蟻害調査も実施。 大学の海外調査にも協力。

interview

こんにちは。田中です。

私がカンザイシロアリの駆除に関わるようになり、早いものでもう10年が経過しました。

膨大な現場を調査し、駆除を行い、珍しい案件も沢山見てきたつもりです。

しかし最近、なかなかに珍しい事例に遭遇しまして、今回はそれをご紹介したいと思います。

中区におけるある調査中での出来事

ことの発端は神奈川県横浜市中区でのカンザイシロアリ調査をしていた時に「あれ?なんかいつものカンザイシロアリと微妙に雰囲気が違うな. . .」と違和感を感じた事から始まりました。

ほんの小さな違いでしたので、自分で言うのも何ですが経験を積んだ者でなければ恐らく見逃していたのではないかと思います。

違和感は2つの箇所で感じました。

  • 羽の色
  • 糞の大きさ

これらの特徴が今まで見てきたカンザイシロアリとはどうも異なるように思えました。

糞の大きさに関しては正直「こんなものかなぁ」と気付かないほどの違いではありますが、普段見かけるものよりも一回り小さく感じました。

また、天井裏や室内などで発見した羽は一目見た時にとても「綺麗だな」と感じました。

パッと見ただけでははっきりとした区別が付かなかったので、専用の拡大鏡を使って詳しく観察してみると・・・そこでやっと違和感の正体が明らかになりました。

そのカンザイシロアリは、「ニシインドカンザイシロアリ」という日本での被害事例が非常に少ないとても珍しい種類のシロアリだったのです。

さらに驚きの事実が明らかに

ニシインドカンザイシロアリの被害現場に遭遇すること自体、国内でほぼ前例がないことです。ですが、こちらのお宅ではさらに驚きの状況が見つかりました。

それは、アメリカカンザイシロアリとの混在被害であったこと。

過去、私が経験してきた物件で2種のカンザイシロアリが同じ場所で混在しながら被害を出しているケースは経験がなく、正直二重の驚きとなりました。

建築物への被害ということもあって、材割りなどをすることができず、正確に同じ木材の中でどこまで接近して生息しているのかまでは確かめることはできませんでしたが、糞や落としたハネの場所を見る限り、ある程度棲み分けをしているように感じました。

お互いに違うエリアに入らない為の何らかの防衛戦略があるのかもしれません。

ニシインドカンザイシロアリとは?

ここでニシインドカンザイシロアリの特徴について改めて紹介しましょう。

まずは体格

ニシインドカンザイシロアリは体の造りがアメリカカンザイシロアリに比べてより細く、大きさも一回り小さいです。

そして糞の大きさ

ほんのわずかですがニシインドカンザイシロアリの方がアメリカカンザイシロアリの糞よりも小さいです。

続いて羽の色

シロアリの羽は褐色だったり、くすんだグレーだったりあまり綺麗という印象はないのですが、このニシインドカンザイシロアリは光を当てるとマジョーラカラーのように様々な色彩を放つのが特徴です。

また、羽アリを飛ばすシーズンがアメリカカンザイシロアリとは微妙にズレることもわかりました。

現在、シロアリ1番!では今後の研究の意味合いも兼ねてニシインドカンザイシロアリを自社の専用器材で飼育しています。

アメリカカンザイシロアリ同様、5月末~夏場にかけて羽アリを飛ばすのですが、飼育中のニシインドカンザイシロアリでは5~6月に圧倒的に集中します。あくまでも飼育環境でのデータですので、今後の研究の課題だと思います。

アメリカカンザイシロアリでは、この時期はまだ出始めの時期であり、数はあまり多くないです。

駆除の難易度はより上がっていく!?

最後に、多くの人が気になるであろう「駆除」について解説していきます。

まず、これはカンザイシロアリの仲間全般に言えることですが、ヤマトシロアリを駆除する際の知識はほとんど意味を成しません。

なぜなら、生態自体が全く異なるものであり、他のシロアリとは似て非なるものだからです。そのため、穿孔方法や薬剤もカンザイシロアリに合わせた全く異なるやり方をしなければならないのです。

日本におけるカンザイシロアリ駆除の技術は、残念ながらその侵略スピードにはまだまだ追いついていないのが現状です。

また、ニシインドカンザイシロアリはこれまでのアメリカカンザイシロアリよりも更に駆除の難易度が上がると思われます。

理由は「体の大きさ」です。

先ほどもご紹介しましたが、ニシインドカンザイシロアリはアメリカカンザイシロアリよりも大きさが一回り小さいです。

そのため、アメリカカンザイシロアリより更に狭い空間に侵入することができ、実際今回のお宅でも電動ドリルで穴を開けることができないような薄い材への被害も確認できました。

この「ドリルが使えない」のもカンザイシロアリの駆除では非常に厄介です。

と言うのも、普通のシロアリと違いカンザイシロアリは木の中に潜んでおり、駆除をするには木に薬剤を注入するための穴を開ける必要があるからです。これまで被害が出なかったような場所からも被害が出るようになってしまうことを考えると、見落としのリスクも高くなるのではないかと予想できます。

駆除の際は、地域によってはニシインドカンザイシロアリの存在を考慮した、よりきめ細かい作業が必要になってくるのではないかと思います。

ニシインドカンザイシロアリの今後

アメリカカンザイシロアリもそうですが、本来外来種であるはずのカンザイシロアリは日本には存在してはならない生き物です。理想は国内にいる個体の完全排除です。

しかし現実はそうはならないと思います。

今回調査を行ったお家でお話を聞かせていただいたのですが、どうも毎年6月頃になると羽アリを目撃しているそうです。これは状況的にはあまりよろしくないです。

既にニシインドカンザイシロアリが中区に定着してしまっている可能性があるためです。

このことから、今後この地域を拠点としてニシインドカンザイシロアリの被害がゆっくりと増えていくのではないかと予想しています。

元々駆除が困難と言われているアメリカカンザイシロアリに加え、今後は新たにニシインドカンザイシロアリの対策も考えなければならないという事になります。

カンザイシロアリの特性上、中途半端な駆除をしてしまうとかえって周辺にも被害を広げてしまう恐れがあります。

知識の構築や施工技術の発展により力を入れなければ、と痛切に感じさせられた一件となりました。

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