白蟻専科

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草は枯れてもシロアリは平気？. . .気になるご相談から始まった

「草がどんどん伸びてきて、ベイト剤の周りに除草剤をまいても大丈夫ですか？」

シロアリ対策としてベイト工法を導入されたお客様から、よく寄せられるご相談です。

確かに、夏場や梅雨時などは雑草の成長が著しく、景観も衛生面も気になってきますよね。

でも、その雑草処理のために処理した除草剤が、シロアリ対策に何か悪影響を及ぼすとしたら？

この疑問、私たち専門業者の視点からも非常に興味深いテーマでした。

そこで、実際に検証してみることにしたのです。

実験の組み立て方. . .何を、どう比べたのか

今回使用したのは、市販の顆粒タイプ除草剤「除草王」。

この薬剤がシロアリに対してどのような影響を及ぼすのかを確認するため、一般的な検証方法である環状アリーナ法（通過率確認法）を用いて実験を行いました。

実験の手順は以下の通りです。

1. 直径6cmほどの円形容器を用意し、その内部を半分に区切るように片側に「除草王」を均一に敷き詰めます（これが薬剤処理区）
2. 処理区の中に、シロアリの餌となる木材片を設置。薬剤ゾーンを通過しない限り、この木材にはたどり着けない配置です
3. 反対側の無処理区に、事前に採集したヤマトシロアリの職蟻を10匹放ち、タイマーを起動
4. 放虫後、経過時間ごとに観察を行い、次の3点を記録します
   • 時間ごとの薬剤層通過数
   • 通過後に餌へ到達したシロアリの行動：食害行動や住処としての利用等
   • 死亡個体の有無

また、正確な比較のために、同様の容器と構成で除草剤を一切使わない「コントロール区」も用意。

こちらでも同数・同条件のシロアリを使い、同様の手順で観察を行いました。

なお、この検証を合計10回繰り返し、個体差や偶然性の影響を排除し、傾向の有無をより明確に判断できるようにしています。

驚きの結果. . .薬剤ゾーンは「気にしてない」？

実験を開始してまず意外だったのは、シロアリたちが除草剤ゾーンをまるで障害物とすら思っていなかったという事実です。

容器内に放たれたヤマトシロアリたちは、投入直後から迷いなく動き始め、誰一人として立ち止まることなく除草剤層へまっすぐ進入する個体が多いことに気付きます。

「薬剤に近づくのをためらう」「手前で引き返す」といった、いわゆる忌避行動はまったく見られませんでした。

実験開始から1時間も経つ頃には、ほぼすべての個体が薬剤層を一度は通過。

さらにその後、薬剤ゾーンに設置していた木材に対してかじる、潜り込む、巣材として利用といった行動がはっきり確認されました。

しかも驚くべきは、その後も96時間（4日間）にわたって一切の死亡個体が出なかったという点です。

除草剤の処理によって何かしらの身体的ダメージや動作の異常が出るかと予想していましたが、まったくの杞憂でした。

さらに、観察の過程で通過個体数を時間単位で記録し、グラフ化したところ、はっきりと「薬剤層と無処理区を自由に行き来している」という行動パターンが浮かび上がりました。

たとえば、ある時間帯には全個体が除草剤側に集まり、次の時間帯には無処理区へと戻る. . .そのような往復を繰り返す個体も確認されています。

それどころか、シロアリによっては除草剤が処理されたゾーンの中に定住するような様子すら見受けられたのです。餌場として居心地が良いとすら感じていたのかもしれませんね。

つまり、今回の検証で見えてきたのは、除草剤を処理した環境においても、シロアリたちはほとんど影響を受けることなく、通常通りの行動を続けていたという事実です。

除草剤が「目に見えないバリア」になることもあるのかという期待とは裏腹に、彼らにとってそれはただの土壌と同じと思っているのかもしれませんね。

除草剤の使用はOK？. . .いや、ちょっと待って！

ここまでの実験結果を踏まえると、「じゃあ除草剤をまいても問題ないんじゃない？」という声も出てきそうです。確かに、直接的な影響は今回の試験からは見られませんでした。

しかし、ここで大切なのは「直接的」ではなく「間接的」な影響です。

例えば、除草剤によってベイト剤周辺の草が一気に枯れたとしましょう。その急激な環境変化は、シロアリにとって明らかに「異常」を示すサインになります。

シロアリは非常に繊細な生き物で、こうした変化を敏感に察知してしまうのです。

そして異変を感じたとき、シロアリたちはどうするか。

答えは「その場から離れる」です。

もしそうなった場合、せっかく誘引していたベイト剤からシロアリが離れ、駆除の効力が薄れてしまうという事態が起こります。

除草剤は「シロアリに影響がない」からって安心は禁物ですよ。

直接的に効かないことでかえってシロアリを取り巻く環境を大きく変えてしまい、結果として「駆除の妨げになる」こともあるんです。

知らずに台無しにしてる？ベイト工法を活かすための環境管理

シロアリはエサ場を見つけると、それを巣に持ち帰って仲間と分け合う性質があります。

ベイト工法は、その習性を上手に活かした駆除方法です。

そのためには、できるだけ周辺環境を変えず、静かに、そして確実に駆除を進めていくことが重要です。

除草剤のような薬剤は、たとえ直接の効果がみられなくても、周囲の状況を大きく変えてしまう可能性があります。

雑草が気になる場合は、手で抜く、根元だけにスポット的に処理するなど、できるだけベイト剤周辺への刺激を減らす工夫が求められます。

見えない「変化」が、効果を左右する

今回の検証によって明らかになったのは、顆粒タイプの除草剤にはシロアリに対する明確な忌避効果が見られなかったという事実です。

ヤマトシロアリは薬剤の有無に関係なく行動を継続し、木材への接触や摂食も妨げられませんでした。

死亡個体も見られず、除草剤を処理した環境でも普段通りのふるまいを見せていたのです。

一見すると、「除草剤を使っても問題はなさそうだ」と受け止められるかもしれません。

ですがここで見逃してはならないのが、「薬剤の効果そのもの」ではなく、それによって生じる周囲環境の変化です。

たとえば、除草剤の影響で植生が急激に枯れたり、地表の色・質感が変化したりすることで、シロアリにとって「違和感」と感じてしまう可能性があるとお伝えしました。

シロアリは視覚よりも触角や化学的情報に頼って行動する昆虫であり、環境のわずかな違和感に敏感に反応することが知られています。

ベイト工法の効果を最大限に引き出すには、シロアリが本来の探索行動のなかで自然にベイト剤へ接触し、異物と認識せずに摂食行動へ移ることが不可欠です。

その途中で「異変」が発生すれば最悪の場合、誘導そのものが失敗に終わるリスクさえあるのです。

つまり今回の検証が示したのは、「除草剤が効かないから問題ない」ではなく、「直接的に影響がないがゆえに、環境を間接的に乱す存在となり得る」という視点です。

したがって、ベイト剤を設置している、あるいは設置予定の周辺においては、除草剤の使用は極力避けるべきだと言えます。

雑草の処理という日常的な行為が、知らぬ間に駆除計画の根幹を揺るがす要因になる. . .その可能性に目を向けておくことが、確実な成果につながる第一歩となるはずです。