よくわかる!シロアリの「蟻道」とは?

  • 生態
ベタ基礎蟻道

Researcher

研究者プロフィール
七海 里枝

研究員 2008年入社

管理課

大学では木材害虫および森林昆虫を専攻し、菌食性昆虫の生態研究を行う。 2008年テオリアハウスクリニックに新卒入社。 シロアリをテーマとした漫画を執筆し、(公社)日本しろあり対策協会の展示会に出展協力など、異色の経歴を持つ。

interview

シロアリがどんな生き物かを調べていると、早晩行き着く単語に「蟻道(ぎどう)」があると思います。今回はこのシロアリの生態における特徴の一つとも言える蟻道について、一体どんなもので何を目的に作られているのかなど改めて解説していきます。

蟻道とはなにか

文字通り、アリが通るときにつくる通路を蟻道といいます。なかでもシロアリがつくるトンネル状の構造物のことを指すことが多いようです。用途によって「エサ取り蟻道」「水取り蟻道」などに分かれ、一見すると土でできた筋のように見えます。被害が深刻な場合やイエシロアリという種類のシロアリの場合は、壁面にべったりと土がついたような大きな蟻道を作ることもあります。主な材料は土や細かくなった木片やシロアリの糞などです。

なぜ蟻道を作るのか

シロアリの体は非常に柔らかで弱々しく、日本に生息しているシロアリの多くは、乾燥した環境では長く生きてはいられません。そのため乾燥の原因となる空気の流れや光を嫌います。名前にアリとついていても、日中地面を歩いているアリとは分類から全く異なる生き物です。

ですので、空気の流れが僅かでもある場所では蟻道を形成しながら移動します。またシロアリには天敵も多く、襲われれば容易に食べられてしまいますので、それを防ぐためにも蟻道を形成します。蟻道はシロアリたちにとっては道であり、乾燥や天敵から身を守るためのシェルターでもある、ということですね。

つまり蟻道があるということはそこにシロアリが生息している、あるいは過去に生息していたことを意味します。日本の住宅は、多くがコンクリートでできた基礎の上にシロアリの餌となる木材がある(木造住宅であれば土台や柱、鉄骨住宅であれば室内の化粧材など)という構造ですから、シロアリは基礎を上がる際に蟻道を作り、木材を目指して上がってきます。

さまざまな蟻道

床下の蟻道

基礎で囲われていて真っ暗な床下空間でも、空気の流れがあるところではシロアリは蟻道を形成し、ときには数mの長さになることもあります。わずか数ミリの体長しかないシロアリでも、万単位の大群で活動しているためこれほど長大な蟻道を作ることができるのです。

土間コンクリートの床下での侵入

床下をコンクリートで覆われた「土間コンクリート」や「ベタ基礎」と呼ばれる構造ではシロアリが入る隙間がないのでは?と思われるかもしれません。しかしコンクリートで覆われた床下でも蟻道が発見されるケースがあります。

コンクリートは時間の経過によって内部の水分が抜けていくとわずかに収縮します。その収縮がコンクリートの間に隙間を生じさせ、そこからシロアリが侵入してくるのです。この隙間は建物の性能上は何の支障も出ないほど小さなものですが、0.6mm程度の隙間があれば通過できるシロアリにとっては侵入するに十分な大きさとなります。

また、ベタ基礎では基礎の打ち継ぎ部分や基礎際の水抜き穴から侵入されることがあります。

外蟻道

通常は土中で生活していて人の目に触れないシロアリですが、餌を求めて地表に出てくることもあります。このとき形成される蟻道は、基礎の立ち上がり部分や地面に刺した木杭などで見ることができます。蟻道に守られていないシロアリは他の生き物から襲撃を受けるとまず助からないので、自然のなかでシロアリが無防備に歩いているところはほぼ見られません。

空中蟻道

蟻道は壁や束柱などの固定された何かに接して作られることが多いのですが、時々なにもない空中に向けて塔のように蟻道を伸ばすことがあります。これを空中蟻道と呼んでいます。床下空間は地表に比べて空気の流れが緩やかですから、こういった不安定な蟻道も成立するのでしょう。それでも強度の関係で多くは10センチ程度で折れてしまいます。

被覆配管の蟻道

冬場の凍結を防ぐため、周囲を断熱材で覆っている配管を被覆配管と言います。シロアリにとってこの断熱材と配管の間は、空気の流れも遮断する上に天敵にも遭いにくい便利な近道のようなものです。また、シロアリが土中から持ち込んだ土は蟻土(ぎど)と呼びます。

基礎断熱材の蟻道

被覆配管同様、基礎と基礎断熱の隙間はシロアリにとって快適な空間となります。その幅が1ミリであっても、シロアリが通るには十分です。また、隙間ではなく断熱材の中をトンネル状に穴を開けて進むこともあります。シロアリは断熱材を餌として食べるわけではありませんが、障害物があればこれを齧って蟻道を形成します。

化粧モルタル蟻道・タイル貼り蟻道

化粧モルタルとは、見栄えを美しくするために基礎コンクリートの表面に塗布されるモルタルのことです。このモルタルにも経年劣化でヒビが入ったり、収縮して基礎との間に隙間ができると、そこに蟻道がつくられることがあります。玄関など基礎にタイルを貼り付けている場合も、同じ原理で蟻道がつくられます。

断熱材や化粧モルタル、タイル貼りの部分と基礎の間にできた隙間に蟻道が作られる場合、床下からは蟻道が見えません。床下に蟻道がないのに被害がある…という場合は隠れた蟻道の存在を疑います。

シロアリの蟻道に似ている別のもの

ジグモの巣

一見すると蟻道に見えますが、ジグモというクモの巣です。指で触ると膜状の壁は薄く伸縮性があり、土ではなくクモの糸でできているのがわかります。巣は長い靴下のような構造で、ジグモはこの中に潜み、近くの地表を通る虫を捉えて餌とします。

アリの蟻道

アリの中でもケアリやクサアリといった種類のアリは蟻道を作ることが知られています。見た目はシロアリの蟻道との違いが分かりにくいですが、木くずが主な材料になっているためシロアリの蟻道よりも一層脆く、指で触れるとすぐにボロボロと崩れるので別のものだとわかります。

まとめ

今回はさまざまな蟻道を紹介してきました。

ポイントをまとめると

  • 蟻道はシロアリの通り道でありシェルター
  • 僅かな隙間でもシロアリは通ることができ、蟻道を作る
  • シロアリではない虫が作った、蟻道によく似た通り道もある

といったところでしょうか。

シロアリは北海道の一部を除く日本全国に分布している身近な生き物です。

お庭でも、あるいは公園でも、目線を少し下に向けて建物の基礎際や木の根元などを注意深く見てみてはいかがでしょうか。

案外近くでシロアリの蟻道を発見できるかもしれませんよ。

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