シロアリ駆除に使われる合成薬剤やホウ酸って危険なの?安全性は?

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Researcher

研究者プロフィール
木村 健人

研究員 2009年入社

経営企画部webマーケティング課専任課長

シロアリ・木材腐朽菌に対する防蟻・防腐薬剤性能評価、木材保存について在学中に携わる。 2009年テオリアハウスクリニックに新卒入社。 数千件のシロアリ調査および駆除工事に従事。趣味はシロアリ飼育。

interview

シロアリ駆除や予防をするとき、「安全性の高いものや天然物での工事を考えています」、「合成殺虫剤は駄目って書いてあったから使いたくないです」など、最近そのような声をいただくことが沢山あります。

では、本当にインターネットに書かれている情報は信頼できるものなのでしょうか。正直、そこまでは一般の方が調べようがない、というのが実情です。そこでシロアリ予防、駆除に使用する合成薬剤やホウ酸などの薬剤は駄目なのかを客観的に解説します。

シロアリ駆除の薬剤にはどんな問題がある?

現在、シロアリ工事に使われる薬剤には、様々な問題点が指摘されています。

  • シックハウスになる(目がチカチカする)
  • 人や胎児に影響がある 
  • 5年で効果が消失するから何度もやり続けなければならない
  • 合成殺虫剤は天然物ではないから安全でない

このような話は皆さんも聞いたことがあるかもしれません。ですが、この様な指摘には根拠が無い、または古い情報が含まれています。

薬剤の問題点の真相

シックハウスになる(目がチカチカする)?

このような文言は、ホウ酸と合成薬剤を比較する際に度々見かけるものですが、こちらについては現在の薬剤には当てはまらず間違った指摘です。

シックハウス症候群とは、1980年から1990年代の終わりにかけて社会問題となった健康障害です。家にいるだけで頭痛やめまい、吐き気などの症状がでるなど、テレビで大きく取り上げられました。

原因は、建材や家具から揮散するホルムアルデヒドや有機溶剤、芳香剤、ダニやカビなどですが、殺虫剤も原因の一つとされました。

事実として、シロアリ駆除の薬剤の成分クロルピリホスに代表される有機リン系薬剤は現在使用が制限されています。

しかし、現在使用される薬剤については安全性という面が強く意識され、ほぼ揮発しない有効成分が使用されるようになったため安全性が確立されています。

人や胎児に影響がある?

ネオニコチノイド系薬剤は

シロアリ防除薬剤として現在最も普及している薬剤はネオニコチノイド系薬剤です。使用量の少なさや効果の保持期間に優れ、低臭性であることがよく用いられる理由です。

昆虫に対して神経伝達阻害をすることにより麻痺効果を与えて殺虫しますが、人をはじめ哺乳類や魚類といった脊椎動物への安全性が非常に高いことが知られています。

ただし、近年、ネオニコチノイド系薬剤のヒトに対する脳発達への影響についてを懸念する声が高まりつつあります。様々な研究がされているところですが、一方でその可能性が低いとする研究があることも事実です。

また、ネオニコチノイド系薬剤は飽和蒸気圧が非常に低く、空気中に揮発・拡散することは限りなく0に近い物質です。つまり、シロアリ防除薬剤として適切に床下を処理をした場合、それが室内に上がってくることはほぼありませんので、体に取りこんでしまう恐れも基本的にありません。

合成ピレスロイド系薬剤は

シロアリ駆除だけでなく市販殺虫スプレーでも使われる合成ピレスロイド系薬剤は、こちらも人などを含む哺乳類への毒性が弱く、逆に体温の低い昆虫などにとても高い効果を発揮します。

哺乳類では殺虫成分が神経系に到達する前に代謝・分解されて解毒されてしまうことで安全性がしっかり保たれているのです。

これらの合成殺虫剤はどれも土着性を高めるため飽和蒸気圧が非常に低くなっています。そのため、一度処理した薬剤が空気中へ揮散することが基本的にほぼありません。

つまり、正しい施工によって床下で処理されるシロアリ防除薬剤は、部屋の中に上がってきて汚染してしまうことはありません。

ホウ酸系薬剤は

防腐剤として使われるホウ酸は、古くは消毒薬として使われるなど安全性が高い物質と言われます。海外ではホウ酸を使用したシロアリ防除が普及しており、日本でも徐々に広まりつつあります。(ちなみに、消毒薬としての使用は傷ついた皮膚や粘膜から吸収されたときの毒性が指摘され、現在では使用されていません)

ホウ酸系薬剤も他の薬剤と同様に適量を適所に使うことで安全性が確保されます。

5年で効果が消失するから何度もやり続けなければならない?

現在主流のシロアリ防除・駆除施工は、5年間で効力がリセットするように設計されています。これには次のようなリスクを減らす意味があります。

  • 半永久的に分解されない(除去が難しい)
  • 土壌汚染
  • 地下水汚染

効果が無くならないことは一見するとメリットに感じますが、環境に負担がかかることも意味します。しっかりと5年間という効力の期間を設けてリセットしていくことでそのリスクを減らしているのです。

ちなみに、合成殺虫剤の効果がなくなる理由に、揮発するから効果が5年しかもたない、という話をたまに聞きますが、そういう訳ではありません。実際には水や光による分解や、微生物による分解によりリセットされています。

ホウ酸や除虫菊などの天然物は安全なのか

ホウ酸や除虫菊など、合成薬剤ではない薬剤はどれも基本的に安全です。しかし、合成殺虫剤よりも天然薬剤の方がずっと安全なのかというとそうではありません。

合成殺虫剤より天然薬剤がずっと安全と言えない理由

ホウ酸などの無機物系の天然薬剤

例えば、天然物薬剤の中の無機物系に分類されるヒ素やホウ酸などは分解抵抗性が非常に高く、半永久的に効果が続く薬剤です。一度の散布で半永久的に効果が残るというのはランニングコスト削減につながるメリットがあります。

しかし、先述のとおり「分解されにくいということはいざ除去しようとしても難しい」「蓄積性の高さからくる土壌汚染」 「水に溶けやすい性質のものもあり、地下水などの汚染につながる」 といった大きな問題が浮かんでくることも確かです。

現在、シロアリ用薬剤として使われることのあるホウ素系化合物(ホウ酸など)は、第一種指定化学物質、そして第二種特定有害物質に指定されています。

第一種特定化学物質とは、難分解性、高蓄積性及び長期毒性又は高次捕食動物への慢性毒性を有する化学物質です。
第一種特定化学物質については、製造又は輸入の許可(原則禁止)、使用の制限、政令指定製品の輸入制限や第一種取扱事業者に対する基準適合義務及び表示義務等が規定されております。

経済産業省

妊娠しているラットにほう酸を20日間、餌に混ぜて与えた実験では、母動物に腎臓重量の増加、胎子に体重増加抑制と肋骨の異常が認められ、この実験結果から求められる口から取り込んだ場合のNOAEL(無毒性量)は、体重1kg当たり1日9.6mg(ほう素換算)でした。この結果から、ほう素のTDI(耐容一日摂取量)は体重1kg当たり1日0.096mgと算出され、これに基づいて水道水質基準や水質環境基準が設定されています。

公益財団法人日本環境協会

除虫菊などの天然成分薬剤

天然成分由来と表記されているものに関しても注意すべき点があります。これらはあくまでも天然成分から抽出して作られたものであり、自然界にある濃度とは異なり濃縮されています。

さらに、天然物には他の薬剤にはない強い匂いがあるものや人体に対して有毒な成分のものもあるので一概に天然物だから安全性がとても高いとは言えません。

天然物系の良さ

では、天然物が駄目なのかと言われれば、一概にそうとも言えません。例えば、除虫菊から抽出されるピレトリンは、天然成分だからこその安心感を得られるのも事実です。

ホウ酸の半永久的な効果はデメリットでもありますが、ランニングコストがかからないメリットは非常に大きいです。また、外来種のシロアリ対策への有効性など合成殺虫剤には無いメリットがあることも確かです。

そのため「これが悪い」「これが良い」という考え方ではなくて、何を使うにしてもメリットがあればリスクもあるということを皆さんには知っていただきたいですね。

客観的な数値で比較する

シロアリ駆除の薬剤の安全性は数値でもみることができます。

物質の毒性の指標には、LD50というものがあります。これは動物の50%が致死する物質の用量のことで、シロアリ駆除剤を含め様々な物質で調べられている指標です。

急性経口毒性(ラット)LD50(mg/kg)
ビタミンC11,900
クロチアニジン(ネオニコチノイド系薬剤)5000以上
食塩3000〜3500
ホウ酸2430〜3000
ピレトリン(除虫菊に含まれる成分)260〜900
カフェイン174~192
テトロドトキシン(フグ毒)0.0085

環境省https://www.env.go.jp/
https://www.env.go.jp/content/900411240.pdf
農薬工業会https://www.jcpa.or.jp/

物質の数値が高いほど安全性が高く、低いほど危険性が高くなります。上の表では数値が高いものを順番に記載したので、シロアリ駆除に使われる薬剤(この表ではクロチアニジン、ホウ酸、ピレトリン)が必ずしも危険だとは言えないことがわかるかと思います。

シロアリ駆除用薬剤は厳しい認定基準がある

シロアリ対策に用いられる薬剤は、大手ハウスメーカーが採用する薬剤・工法を含めその大半は公益社団法人である日本しろあり対策協会が厳しく認定基準を設けています。

防蟻・防腐剤の有効成分は「化学物質審査および製造等の規制に関する法律」の規制下にありますが、その製剤は規制の対象とされていません。従って、防蟻・防腐剤は製造者、使用者の自主的な判断に基づいて製造・販売・使用されています。本会ではそれらの薬剤について効力、安全性などの適格性を評価することによって認定を行い、消費者や作業者が安心して使用できる薬剤の普及に努めています。

日本しろあり対策協会

どんな薬剤や物質であってもリスクというものは存在します。それを無くしていくために、認可された薬剤を使用し、記載された用法用量を守って施工することがとても大切です。

しっかりとした業者を見分けるための一つの目安となるのは、業者が日本しろあり対策協会の加盟業者であるかどうかと、スタッフが認定資格であるしろあり防除施工士を持っているか、が目安となります。日本しろあり対策協会HPで公開されているので調べてみましょう。

薬剤散布に抵抗がある場合はベイト工法

現在のシロアリ駆除・予防工事は、基本的に建物に対して薬剤を散布する処置がほとんどです。

しかし、皆さんの中には合成殺虫剤であれ、除虫菊であれ、ホウ酸であれ、自宅にシロアリ薬剤を散布すること自体に抵抗を持っている方も少なからずいるかもしれません。そのような場合に最も有効となるのが、IGR剤によるベイト工法です。

IGR剤とは、昆虫の脱皮を阻害する薬剤の総称で、脱皮をする昆虫にだけ選択的に効果が現れます。ベイト工法は、建物そのものへの施工を行わず、建物周囲でシロアリ駆除・予防ができる優れた工法です。

ベイト工法通常の防蟻施工
使用する薬剤と使用方法IGR剤の投与液剤や粉剤等の散布
施工する箇所建物の外が基本建物内

工法の仕組みは、建物の周囲にIGR剤を含有したエサを入れたケースを埋め込み、敷地内にいるシロアリにその餌を食べさせることで巣全体を駆除します。

トータルでみると費用が割高になる点はデメリットですが、どうしても薬剤を住宅の内側に処理したくないという方におすすめできる工法です。

まとめ

シロアリ駆除の薬剤には様々なウワサやネガティブな情報が蔓延っています。とりわけ、合成薬剤に関しては偏った情報を多く目にするようになりました。

世の中には様々な薬剤が存在していて、それが合成殺虫剤であろうが、天然物であろうが、それぞれにはその特性に合わせたメリットがあれば、必ずデメリットもあるということがお分かりいただけたと思います。

この薬剤でなければならない、ということは決してありません。それに、現在使われている薬剤はどれも安全性が確保されています。

これが悪い、これが良い、という情報に惑わされることなく、皆さんの状況に合わせた薬剤を選択することが大切です。

基本的には、公益社団法人日本しろあり対策協会の加盟業者に依頼し、しろあり防除施工士による施工を行えば、安全なシロアリ対策が可能です。

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