シロアリの実は. . .教えます ズバリ冬場のシロアリ対策って必要か
- シロアリ駆除
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Researcher
- 田中 勇史
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研究室長 2007年入社
シロアリ業務技術開発課専任課長
大学では昆虫類の研究に携わる。2007年テオリアハウスクリニックに新卒入社。 これまで3000件を超える家屋の床下を調査。皇居内の施設や帝釈天といった重要文化財の蟻害調査も実施。 大学の海外調査にも協力。
interview季節はすっかり冬の装いを見せ、防寒着を着なければ体を刺すような肌寒い日が続く、そんな時期に入りましたね。
道を歩けば必ずと言っていいほど、どこかしらかで虫の鳴き声や数多くの飛び交う姿が見られていた時期とは一変し、今ではどこへ行ってしまったのかその姿を見ることすらままなりません。
これは冬場繰り返される生き物たちの営みの一つで、殆どの動物たちは冬眠のために眠りに付き、昆虫たちも一部の種を除いて皆越冬をするために身を潜めています。
そんな殆どの生き物が活動を停止してしまう極寒の冬、「シロアリも活動してないんだから保証もう少しで切れちゃうけどなにも冬に対策しなくてもいいよね」といった話や「駆除や予防をするといっても春まで待ったって問題ないでしょう」といった声を聞くことは珍しいことではありません。
周囲の生き物の動向を見る限りでは、確かに今すぐやらなければならない、対策を急ぐ必要もないように感じますが本当にそうなのでしょうか?
今回は、そんな冬場のシロアリ対策について少し掘り下げて解説してみようと思います。
冬場のシロアリ対策ってそもそも必要なの?
では、まず冬場にシロアリ対策を行う必要って本当にあるのかないのか気になっている方も多くいらっしゃると思いますので、結論を先にお答えしておきましょう。
対策が必要なのか必要でないかを問われたら、私は真っ先にこう答えます。
「たとえ冬場であったとしてもシロアリ対策は行うべき!」だと。
そうなの?と思われた方もいるかと思いますが、ではここでなぜ一般的に虫たちの活動が停止しているはずの冬場であっても対策は必要なのか幾つかのポイントを挙げながらお話します。
一つ先に述べておくとすると、おそらくですが皆さんが思っているシロアリの活動時期にはちょっとした勘違いと言いますかズレがあるためというのがあります。
冬場であってもシロアリ対策を行うべき理由
1. シロアリは季節に関係なく活動している
そもそもですが、今回の大きなキーポイントでもある「冬場にシロアリは活動しているのか?」という話。
皆さん、シロアリは「冬場活動していないもの」と思っていませんか?
多くの方が、この問に対してはこう答えます。
このように答えるのもまぁごもっともなことで、多くの昆虫が冬になると姿を消し、シロアリも例外ではなく見かけなくなることや羽アリなどでみんなが「シロアリだ!」と騒ぐようになるのも春先に集中することなどから、シロアリの本来の生活、行動を知らない方は「冬場に活動していないという認識を持たれるのではないでしょうか。
ところがシロアリは想像以上に日本の気候に適応している昆虫で、寒さにも強く他の昆虫がしているような冬場に越冬するという行動はしていないことがすでに分かっています。
つまりシロアリは春から冬まで季節を問わず活動を続けている、ということなんです。
探してみよう!冬場のシロアリ
ただですね、私もそうは言ってはいるものの実際にシロアリが冬の間に活動を停止せずに動き続けているところを間近で見たことってほとんどなかったので、今回ちょっとフィールドに出て冬場のシロアリの動きを観察してみたんです。
当日の天気は晴れていて日差しこそあったのですが、気温はさすがに寒く最高気温でも10℃いくかという感じでしたね。
捜索した場所の特徴は、山の中を進む林道脇にある斜面を中心に枯れた倒木などが多く点在するようなポイント。
いかにもシロアリが好みそうな感じのエリアですが、果たしてシロアリは見つかったのでしょうか?
シロアリを探す時のコツは、同じような斜面であっても苔が生えている場所や全くの裸地的な場所、小枝や落ち葉が堆積しているところもあれば水が流れていたであろう道が出来上がっているようなところまで本当に様々ですが、シロアリが好む場所はほぼ決まっていてそのキーとなるのはやはり水分の保水量です。
どれだけシロアリが食料とする倒木や切り株があったとしても、その場所が乾燥していてはシロアリは寄りつきにくくなります。
実際、この日もいかにもっていう枯れ枝や倒木がある場所でも地面が砂のように乾燥している場所ではさすがに見つけることはできませんでした。(画像1)
よく見つかったのは水源が近くにあるような場所です。
先程のパターンで言うと、水が流れていたであろう道が出来上がっているところ。(画像2)
こういった場所は、雨が降ったりした時に地面に染み込んだ雨水が地下を経由してその場所を流れているため、周辺の湿度が他の場所に比べ保たれています。
シロアリを探す時はこういった水の痕跡を頼りにそのような場所の両脇にある倒木や切り株の根本を探すと見つかりやすいですね。
そして、肝心のシロアリは活動していたのか、していなかったのか?ですが普通に活動していましたよ。
すぐ隣には越冬中のアリのコロニーがあったんですけど、こちらは全く動かずじっと寒い冬を耐えている感じでしたが、シロアリはもちろん体の動きこそ鈍りはしているんですが、ちゃんと動き回っていたのです。
幾つか見つかったコロニー全てで活動が確認できたことからして、やはりシロアリは季節に関係なく、冬場であっても越冬はせずに活動を続けていることがこれで分かりました。(画像3、4)
2. あまり知られていないシロアリの活動限界温度
皆さんは、シロアリがどれくらいの温度まで耐えられるのかご存知でしょうか。
例えば日本において最も家屋への被害を出しているヤマトシロアリで見てみると、ヤマトシロアリの場合外気温の平均が-4℃までなら野外の地中でも普通に活動できてしまうのです。
外気温平均-4℃って結構すごいですよね。
でも、中には外気温が-10℃の地域までは地中で耐えられるといった話もあり、そうなってくると日本の気候でそこまで行く地域はそうそうないので、もうほぼ日本全土で冬場シロアリは活動できることになるんです。
さらに現在のヤマトシロアリの生息が確認されている北限は、北海道の北部に位置する名寄市とされていますので、まだ見つかっていないだけで探せば北海道の先端付近まで生息はしているのではと思っています。
3. 春先に向け、シロアリが冬場密かに築き上げているものがある
シロアリが一年の中で最も騒がれる季節が春先であることは皆さんも既にご承知のことと思います。
それは、シロアリの生活史の中で一番の大イベントでもある結婚飛行が行われるからです。
ヤマトシロアリでは大体ですが毎年4月の末頃から始まり、5月いっぱいまで続く年一度の大仕事、次世代の子孫を残すための大事な羽蟻を大空へと大量に飛ばします。
一度に飛ばす羽蟻の量はおおよそ少なくても数百匹、多いと数千規模にもなります。
ですが、皆さんはちょっと疑問に思ったことはないですか?
こんなに大量の羽蟻はいったいいつ作られているのかと。
シロアリは脱皮を行いながら成長していく昆虫で、脱皮をする生き物であれば皆同じですが、脱皮直後はすぐには動くことはできません。
脱皮をしてから外骨格が固まるまでしばらくの間待っていなければならないのです。
なので、羽蟻の生産は春の羽蟻シーズン中に作られていては遅いということが分かりますね。
では、いつ生産が始まるのかというと冬の間に行われます。
皆さんが活動していないだろうと思っている間にシロアリたちは次世代の繁栄を目指して密かに大規模な羽蟻生産を行っているのです。
もちろん春先になって飛び立った全ての個体がペアとなって新たな巣を作り上げることができるわけではありませんが、少なくとも毎年数%ずつは飛び立った周辺にシロアリの巣が新たにできることになります。
そうなってくると、当然巣が増えれば増えるほど建物への侵入リスクは高まりますから増えることが分かっているのなら事前に対策を打っておくに越したことはないわけです。
4. 最近の高気密住宅事情
近年、建物における高気密化が謳われるようになり、建物の構造も大きく変化してきています。
その一つが、基礎を断熱材で覆うことによって床下も室内空間と同じと捉える工法、基礎断熱工法の普及です。
基礎断熱のメリットの一つでもある床下の温度を一定に保てることで、断熱性・気密性が増し、私たちは寒い冬でも快適に暖かく過ごすことができるわけですね。
ですが一つ忘れてはならないことがあって、人間がいいと感じているものは他の生き物にとっても快適である可能性が高いということ。
冬場、本来はひっそりと活動しているシロアリではありますが、近くにそんな暖かく、移動も楽に行なえるばかりか餌となる木材も豊富にある場所があったら真っ先にそこを狙いますよね。
まさに基礎断熱がこれに当たるんです。
近年増え続ける高気密住宅、その中でも特に外基礎断熱工法には注意が必要となります。
基礎断熱工法には内基礎断熱と外基礎断熱の2つがありますが、内基礎断熱はベタ基礎の上に設置されることが多く、そもそもシロアリの侵入リスクが少ないのに対し、外基礎断熱は断熱材が地面に直に埋まっていることが大半であることから、地中経由で侵入するシロアリにとっては「もう入ってください!」と言っているようなものなのです。
私も多くの断熱被害を見てきましたが、一度侵入されると断熱材内部に網の目状の道が作られ、被害が面で広がる傾向があるので、通常被害よりも範囲が広範囲に及ぶことが多くなります。
また、被害も断熱材の中を通過しての被害なので、発見が遅れてしまうことも大きな問題ですね。
このように高気密住宅の発展は、冬場のシロアリの動きを活発化させる恐れもあり、被害に遭わないためにも冬場にメンテナンスの時期が重なるような場合は、しっかりと対策は怠らずに先手、先手を私たちは打っておくべきなのです。
「どうせシロアリは動いていないから暖かくなってからでも大丈夫でしょ!」と軽い気持ちでいると、知らず知らずのうちに建物に侵入されて、春先に調査をお願いしたら大きな被害が見つかってしまったというケースを幾つも私は見てきています。
シロアリの活動時期など生活のパターンや動きを理解すればするほど、冬場であっても対策を取っておく必要があることがこれで分かると思います。
冬場のシロアリ対策
では、具体的に冬場におけるシロアリ対策を行う時の判断基準となるようなものはあるのでしょうか。
一つ大前提のお話をしますが、もちろん冬場に対策を行うときにはご自身のお宅に薬剤効力がどれだけ残っているか、冬場に保証が切れるのかということは確認しておきましょう。
対策が必要となる場合は、一度新築時や防除対策として以前処理を施した薬剤が冬場に期限を過ぎて効力を失い、侵入リスクが高まっている状態のときです。
もしも保証がまだ残っているよという場合には、保証が満了を迎えるまでは対策を打つ必要はありませんので、そこだけ勘違いされないようお願いしますね。
冬場にもし満了を迎える場合には、今回ご紹介しました冬場であっても対策を行っておくべき理由からも分かる通り、冬のうちに対策を打つメリットも大きいので、先延ばしはせずに対処しておきましょう。
まとめ
いかがだったでしょうか。
今回は、一般の方にはあまり知られていない冬場のシロアリの行動を明らかにして、冬場であっても対策を行うことの必要性をご紹介してきました。
冬場に対策を施すことのメリットは、活動が活発化する春先に向け予め備えることができるということです。
春先は、ヤマトシロアリが繁殖のために羽蟻を飛ばず季節でもありますね。
今一度おさらいにはなりますが、繁殖のために飛び立つ羽蟻は春に生まれるわけではありません。
寒い冬の間に巣の中で大量に生産されて春に向けて飛び立つ準備をしているわけです。
また、春になれば巣は再び活動期へと入り、巣は拡大をはじめます。
巣が大きくなった分、当然餌の供給量も増えるため、餌を求めて活発に動き回るようになることから建物への侵入リスクはそれだけ高まることにも繋がります。
このようにシロアリが活発化する時期に備えて冬の間に予め対策を施しておくことで、建物への侵入や被害拡大といったシロアリからくる様々なリスクを未然に防ぐことができるのです。
どうしてもシロアリ対策というと「被害が今出てます」とか「実際にシロアリを見た、羽蟻を見た」とならないとなかなか「よし、対策を取ろう」という気持ちにはなりませんよね。
その気持ちはすごく分かります。
ですが、シロアリ対策の基本中の基本は予防. . .予め薬剤を処理しておくことでシロアリの侵入を未然に防ぐことにあります。
言い換えれば、もし冬場に保証が切れるタイミングがくるのであればシロアリの動きが活発化していない冬だからこそ対策を打つベストな時期であるとも言えます。
もう一度お伝えしておきますが、一年を通して活動しているということは「どのタイミングで対策を打っておくか」ここが重要なファクターとなるわけです。
基本はシロアリ予防の保証が切れるタイミング、これが春に切れるのであれば春に、冬に切れるのであれば冬に対策を行うのが正しい考え方でしょう。
もし、皆さんの中で実は保証が冬に切れるんだけど「対策は先延ばしにしてもいいか」と考えていた方がいましたら、この冬場での対策をぜひ検討してみてください。
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一つ例を挙げておきますと、私の住んでいる八王子では冬場の朝の外気温が-4、5℃は当たり前で、中には-9℃を記録した時もありました。
ですが、こんな寒いエリアであっても普通にシロアリは生息していますし、被害も出ていることからして、やはり相当に高い耐寒性を持っていることが分かりますね。