シロアリ防除薬剤の外部流出:屋外植物への影響を調べてみました

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Researcher

研究者プロフィール
田中 勇史

研究室長 2007年入社

シロアリ業務技術開発課専任課長

大学では昆虫類の研究に携わる。2007年テオリアハウスクリニックに新卒入社。 これまで3000件を超える家屋の床下を調査。皇居内の施設や帝釈天といった重要文化財の蟻害調査も実施。 大学の海外調査にも協力。

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昨今、シロアリ防除技術の進展に伴い様々な処理方法が提案されるようになりました。

その中でも床下への処理が不可能である物件や建物に対して薬剤処理を行うのにはちょっと抵抗がありますという方への朗報な施工方法として外部注入処理法というものがあります。 

この処理方法の特徴は、現在主流とされているシロアリ防除施工の約9割が建物側に何らかの薬剤処理を施すことになるのに対して、外部注入では建物側ではなく建物周囲で処理が完結し、通常の薬剤施工同様建物内へシロアリを侵入させないようにできるといった特徴を持つ施工です。

建物を介さず、外部のみで施工が簡潔するのであれば作業の効率化も図れ、お客様も建物内に施工者が入ることもないため、施工前の荷物の移動など準備して置かなければいけないことも少なくなり、安心して施工をお願いできそうではありますね。

ところが、お話を聞いていると割りと「〇〇への影響が心配」というお声を聞くことが多いことにも気づきました。

その中心となっていることが、やはり外部への処理となるため生け垣への影響や育てている野菜に対する影響がないのかといったことです。

土壌への注入で植物が枯れたといった経験はこれまで無いのですが、長期的に注入した場合の検証などは行っていないので、はっきりとしたことは分からないというのが現状。

そこで今回は屋外植物への影響を調べるため、実際のフィールドを用いて薬剤処理を行い、各種植物への影響を見てみることにしました。

試験内容

試験内容は主に2つのパターンを想定していますが、まずはパターン1での検証を行います。

 パターン1

床下処理中の薬剤ドリフトを想定した試験

希釈した規定量の薬剤を試験体に直接散布し、時間経過で試験体が枯れるのかを検証

・土壌処理剤でのパターン

・木部処理剤でのパターン

こちらの検証ではもちろん土壌処理をしている中で、通気口から外部への薬剤飛散の可能性は、通常土壌処理だとノズルを地面に向けての散布となるためかなり低いと予想されますが、検証ということもあるためどちらのパターンも試すこととします。

パターン2

外部薬剤注入法を想定した試験

試験体周囲の土壌中に注入剤を規定量処理した後、時間経過で試験体が枯れるのかを検証

試験に用いる薬剤

各試験に用いる薬剤は、現在のシロアリ防除薬剤で最も使用頻度の高いネオニコチノイド系薬剤に分類されるクロチアニジンを主成分とした薬剤Aを用いて、土壌処理用・木部処理用それぞれの影響を調べます。

試験の様子

パターン1:土壌処理剤・木部処理剤による試験

試験に用いる植物の選定

植物の選定にはよくご家庭の庭に多く存在している植物を選ぶようにしています。選定に用いた植物は雑草部門、生け垣部門、野菜部門から各3種類をピックアップして使用しました。

試験に用いた試験体

a)     ヒメオドリコソウ

ヨーロッパ原産の外来種として知られ、庭だけでなく道端から河川敷などどこでも見かけるザ・雑草!と言える越年草の一つ

b) スギナ

庭の雑草としてよく知られているシダの仲間で、トクサ科の中では最も小さな種類

河原などでも多く見られる

c) イネ科植物

たくさんの種類があり、庭などでよく見られるのはエノコログサなど

d) ニオイヒバ 

生け垣として昔からよく使われてきた常緑高木で葉をこすると独特のハーブのような香りを放つ

※生け垣の種類が一種のみとなったため、ニオイヒバ処理箇所を3箇所決め3セットで対応

e) 野菜(ナス・トマト・サトイモ)

お客様が家庭菜園で育てている野菜で頻度の高い種類を3種選定

サトイモは土中から栄養を吸収し、地下の芋に蓄えるような種類の植物への影響も調べるために選択 

薬剤試験の手順

1. 各試験体に対し、規定量の薬剤を散布

a)、b)、c)においては各庭自生株3箇所、d)は生け垣として植え付けられた株のうち,ランダムに3箇所、e)は購入した各2苗に対し、規定量に希釈した薬剤A/B(土壌処理用/木部処理用)を植物そのものに散布

2. 経過を観察し、記録を取る

・観察期間は1周間を目安とし、その間に試験体が枯れるかを確認する

・もし、変化が見られない場合は2週間目までは観察を続けるものとする

試験結果

各種グラフ結果:土壌処理剤 / 木部処理剤

a)      ヒメオドリコソウ

b) スギナ

c) イネ科植物

d) ニオイヒバ

 e) 野菜

まず各種、最大2週間の経過観察を続けたところ、意外にもヒメオドリコソウ以外に完全枯死まで進行したものはなかったという結果が得られました。(写真:枯死したヒメオドリコソウ)

また、元々薬剤に対してある程度の抵抗性を持つと予想していたイネ科植物や試験体自体が大きいニオイヒバに関しては、薬剤がドリフトした程度での効果はないものと判断できます。

更に野菜に関しては少々変わった効果の出方が確認されています。

最初効果の影響が大きく出るものの、その後復活し見た目では正常な成長を始めたかに思えましたが、長期の観察を続けた結果やはり最終的には枯死へと向かうことが分かりました。(写真:明らかな生育不良が見られる野菜)

試験考察

現時点で分かっているものとしては、ヒメオドリコソウなど植物自体の生命力が弱い種に関して、もし万が一床下土壌・木部薬剤散布中に通気口からドリフトが発生し、外部植物体に飛散した場合、1週間後には枯死してしまうということ。

今回はいわゆる雑草に分類される種を中心として試験を行ったが、販売されている観葉植物や花の類はこういった雑草に比べ、薬剤への抵抗性は弱いものが多いためより顕著に効果が現れることが予想されます。

また、お客様の庭の環境で最も影響を与えてしまう、関心の高いと考えられるものが野菜への影響です。

庭で育てていた野菜が、ある時薬剤がドリフトしてきたことによって枯れてしまうといった事故はあってはならないことですよね。

今回その影響を確認するため、3種類の野菜を用いて検証を行ったがいずれの野菜も薬剤がかかってしまった場合、10日前後には何らかの影響は出始め、最終的に枯死へと向かうことが明らかとなりました。

さらに野菜においては一度進行していた枯死が途中から効力を失い、見た目では正常に成長を再開する場面もあり、とても興味深い結果ではありますがそれは表向きの見え方であって、長期で確認するとやはりかなりのダメージを負っていることが分かっており、また試験体内部への薬剤成分残留はかなり懸念されることから、結論としては一度ドリフトが確認され植物体への飛散が確認された場合、その野菜を人が摂取することはできないと判断します。

今回の結果を土壌処理剤と木部処理剤で比較してみると、土壌処理剤に比べ木部処理剤のほうが影響は大きく出ているような状況が最初は確認されていましたが最終的にはそれは誤差の範囲内であることが分かりました。

そして今回用いた薬剤A・Bに関しては、有効成分は現在農薬でも使用が可能なものであり、観葉植物に発生するコバエ対策として有効とされる商品などは有名だと思います。

ところが、その商品は処理の際同じ有効成分を持ちながら希釈液を植物体に直接散布しても枯れることがないのです。

これには有効成分の濃度が関係していて、シロアリ薬剤では2.5%の有効成分が含まれた原体を50倍希釈して使用するのに対し、農薬である商品では16%と原体中に含まれる有効成分濃度は高いものの2,000倍に希釈して使用するため、結果としては植物体に影響が出ない濃度となっているからなんですよね。

ただし、土壌処理剤・木部処理剤であっても植物の種類によっては影響が見られないものもあることが判明してましたね。

一般的に生命力が強く除草剤による駆除にもコツがいるようなイネ科植物や単純に試験体のサイズが大きいニオイヒバなどではほとんど影響は出ないことが今回の試験で明らかとなっています。

植物の種類によって効果が出るもの、出ないものが分かれるのも非常に興味深い結果ですよね。

建物周囲には今回、試験を行った試験体以外にも様々な種類の植物があります。

中には他にも影響の少ない、もしくは影響のない種類の植物も実際あると思われますが、基本的には何らかの影響が出てしまう種類のほうが上回ることは確かです。

このことから床下での散布時には、通常通気口を塞いで処理を行うことはしないので、作業時の外部ドリフトには作業員の方は十分に注意して行うことが必要であることが今回の試験を通して分かりました。

今回のように実際の植物に対して、もし薬剤がかかってしまった場合にどのような効果が現れるのか、その結果を見る機会はそう多くありません。

実際、薬剤効果を可視化した試験データというのはまだまだ少なく、これからはこういった情報を増やしていく必要があると考えています。

これからも、少しでもお客様の不安を解消できるよう日々様々な自社試験を行い、その検証を行っております。

また次回もお楽しみに。

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