幻か否か!? 都会のシロアリを大捜索

  • 検証

Researcher

研究者プロフィール
田中 勇史

研究室長 2007年入社

シロアリ業務技術開発課専任課長

大学では昆虫類の研究に携わる。2007年テオリアハウスクリニックに新卒入社。 これまで3000件を超える家屋の床下を調査。皇居内の施設や帝釈天といった重要文化財の蟻害調査も実施。 大学の海外調査にも協力。

interview

唐突に、大都会のど真ん中でもシロアリっているのか?ふとそんな疑問が頭に浮かびました。

というのも「シロアリは土さえあればどこにでもいますから」という言葉、皆さんも業者からこんな話しを一度は耳にしたことがあるのではないでしょうか。

実は、シロアリ業界の中では割と普通なことではあるのですが、一般の方からすれば「いやいや、コンクリートで囲まれた都会のど真ん中にシロアリなんていないでしょ?」といった声が聞こえてきます。

実際のところ、どちらの主張が正しいのでしょうか?これは調べるしかないということで、都会のシロアリを大捜索してきました。

捜索には縛りを. . .

ただ、普通に探してもつまらないということで、個人的に一つ縛りを設けることにしました。

「都会のイメージから外れた場所を探さないこと」

これって結構大事なことかなと思っていて、例えば駅からだいぶ離れたところの林だったり、森林公園だったり. . .そりゃあそこまで行けばいるよねという場所は今回探さないことにしました。

なので、今回選んだ場所は最もシロアリがいそうもない都心部のど真ん中に設定したため、選んでからちょっと心配になったのを覚えてますね。

捜索範囲は本当の都心部

ここで、私が選んだ最もシロアリがいそうもないポイントを見てみましょう。

最後は言っても海沿いなので、ここは安牌かなって思ってます。

  1. 新宿駅周辺:いかにも都会で緑がたくさんあるといった印象はない
  2. 東京駅周辺:同じく緑の印象は皆無で、整備された植栽がちらほらあるイメージ
  3. 渋谷駅周辺:上2つに類するシチュエーションとして選択
  4. お台場周辺:埋立地ですが、上記に比べればシロアリが好みそうな木は多いイメージ

狙い目は植栽に添えられた支柱だったり、最も早いのは駅周辺の小さな都市公園を回るのが早いのかな。

田中

私としては、なるべく「ほんのちょっとの緑地さえあればシロアリはいるんだよ」というのを見せたいので、都市公園ばかりに固執しないように注意しました。

新宿駅到着

いかにシロアリ業者と言えど大都会のど真ん中で、ましてや縛りまで設けているのでホントに見つかるのか心配な面もあって捜索は8時30分からスタートすることに。

田中

これでシロアリいると思いますか?

これ、思ってたより厳しいかも. . .

ただ、ある程度目星を付けていた部分もあるので早速捜索を開始します。

まず手始めに街路樹をローラーしていく作戦。

ここで出鼻をくじかれる事態に. . .

田中

ちょっとは想像してましたが、思っているよりも良さげな杭ってないんですね。

田中

おっ! 廃材発見と期待しましたがこれはダメだね。

廃材新しいし、最近捨てられたものかな。

あと、「杭あった!」と思って近寄ると明らかに加圧注入材だねってものばかり。

幾つか回って収穫なしでしたが、ふと道路沿いにいかにもな木柵が目に入りました。

田中

ただ、その場所に行くのがちょっと面倒な位置だったので、後で寄ってみましょう。

そして、3本目の路地に入ったところでようやく見つけた一つの光。

絶対加圧注入材なんか使ってないでしょ!っていう立て看板を発見。

こういうのは後から設置してそのままになっていることが大半なので、こんなのが地面に接してる場所は怪しすぎる。

やっぱり草をめくると木材下部に明らかなシロアリの被害痕を見つけました。

あったのはこんな場所です。

こう見るとホントちょっとした土さえあれば生息しているんだということが分かりますよね。

このまま勢いを付けるために先程の木柵を見てみることに。

田中

人が入れないところだったので写真で拡大してみたんだけど、これ食われてるよね?

もっと確実に分かるような食害痕ないかな. . .

ありました! 木柵の下部を食い荒らしている食害痕。

やはり狙い目は、古くて加圧注入等の処理がされていない木材なのか. . .

田中

ここは駅に向かう階段脇の緑地ですが、こんなちょっとしたところでもちゃんとシロアリはいるんですよ。

田中

だいたいこういうところには枕木だったり、杭もそうですし、土留のための木柵が設置されていることが多いので私からすると絶対いるよねって思っちゃう場所です。

割と早い段階でシロアリ被害を見つけることができたので、この調子でどんどん見つけちゃいましょう!

ということで、移動です。

東京駅到着

続いてやってきたのは私が今回の鬼門と思っている東京駅周辺。

なぜここが鬼門かと言えば、勝手なイメージ、結構全体的に劣化対策が施されている感じがするからです。

これはさすがに厳しいか。

ここもまずは街路樹に絞って捜索を開始します。

田中

加圧注入材、杭を使わない、砂利金網処理・・・予想通り、いろいろと対策してますね。

結構探してみたものの、街路樹での成果は得られず。

また良さげな場所があったら探してみるとして、次にちょっとした自然公園に向かってみることにしました。

田中

できれば道路沿いなどで見つけたかったんだけど、そこは東京駅一筋縄ではいかないですね。

ここで、「絶対いるでしょ!」というポイントを発見しました。

田中

いかにも古そうな木柵ですね。

近寄るとすぐに被害だと分かる痕跡が幾つも見られました。

この他にも切り株が見つかり、ここにも被害の痕跡があったので、結構広範囲に渡って被害があるようですね。

私の中ではこういったところはすぐに見つかりそうな気がしていたので、早々に切り上げてもっと都会っぽい雰囲気の場所で痕跡を探すことにしました。

田中

でも、言ってもこの場所だって周りはこんな感じですからね。

しばらく都会の中を走る道路沿いを歩いていると、ふと一本の木が目に止まります。

田中

そうそう、こんなふうなシチュエーションで見つけたかったんです。

遠目から見ても明らかに劣化している支柱. . .「これは」と思って近づくと見つけました。

しかも、かなり大きな被害で支柱全体が食害に遭っているようでした。

これも周りの支柱を見る限り加圧注入材のはずですが、これだけ被害を受けていましたね。

まだ、木が若かったことから新しく植えられたもので、これだけもしかしたら加圧注入材が使われていなかったのかもしれません。

最後にもう一箇所見つからないかと探していたら、また一本の木に目が止まりました。

蟻道らしきものが登っているので一瞬シロアリかと思いましたが、正体はトビイロケアリの作った蟻道でした。

田中

アリの作る蟻道はシロアリと違って形は成しているものの、触ればすぐにバラバラに崩れてしまうので簡単にシロアリと区別することができますよ。

期待したのに残念です。

ここで時間の都合上、東京駅は時間切れとなり次の目的地に向けて移動します。

渋谷駅到着

ここはある程度傾向が分かってきていたので、すぐに見つかるかと思いきや一番時間がかかりました。

まず、第一印象で緑地がほとんどない。あっても支柱等が少なくてちょっと焦ります。

しばらく探し回ったが街路樹攻めは効果がないと感じ、住宅地の中にあるとある神社を訪れてみることにしました。

田中

ところどころ木漏れ日が差し、なんとも気持ちの良い環境の場所ですが、こういった薄暗い環境があると結構シロアリもいるものです。

そして見つけました。

木製の柵に幾つか食害痕が見られます。

田中

結構町中にあるような場所ですが、こういう場所にはしっかりシロアリは生息しているんですね。

帰り際に道路脇の土留板に被害を見つけました。

田中

これ、最初はとうとう見つからない場所に来てしまったかと思いましたが、シロアリが表に出てくるような場所が単純に少ないだけでしたね。

田中

さぁ、結構時間が押してきたので、ゆりかもめに揺られながら最後のポイントに急いで移動します。

お台場到着

田中

結構マンション等が立ち並ぶような感じですが、脇にはいろんな植栽があっていかにもシロアリが生息していそうです。

じゃあ探しますかと林に入って、5秒で見つけました。

ちょっと崩してみると中からシロアリが出てきて、現在も活動中のようでした。

田中

このエリアは非常にシロアリの密度が濃く、次から次に被害の痕跡が見つかりもうこれは切りがないってことで、早々に切り上げました。

埋立地とはいえ、こういったシロアリの好む環境が整えられているとそれだけ生息数も多くなることは仕方のないことかなとは思います。

今回、調査した限りではもちろん自然の多く残る環境に比べれば、シロアリに出会える確率が低くなることは事実です。

ですが、コンクリートブロックに囲まれた大都会のど真ん中であってもほんのちょっとの土や木材さえあればシロアリの痕跡を確かに見ることができました。

また、あえてかなりの縛りを設けての調査を実施してみたのですが、結果から見るにシロアリにとってはコンクリートジャングルとも呼ばれる大都会の環境は、そこまで大きな障害にはなっていないということもしっかりと分かりましたね。

これはあくまで私の予想ですけど、おそらくは「見えていないだけ」というのが正しい答えなんじゃないかと今回の調査を経て感じました。

ほんとに「氷山の一角」という表現が合っているのかもしれません。

表に見えているのはほんの一部でしかなく、本体はコンクリート下でひしめき合っている、こんな可能性も大いにあります。

実際調べることはできないんですけど、いるべき箇所には必ず痕跡が見つかったことを考えれば自ずと辿り着く答えかなと。

今後何か大規模な工事として、例えば大きく建物が取り壊されるとか、全体コンクリートの張替えなどに立ち会うことがもし可能であれば、この隠れた氷山の全貌を垣間見ることができるかもしれません。

いつか全貌を解明してみたいものですね・・・。

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