ヤマトシロアリのコロニー創設と成功確率

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Researcher

研究者プロフィール
木村 健人

研究員 2009年入社

経営企画部webマーケティング課専任課長

シロアリ・木材腐朽菌に対する防蟻・防腐薬剤性能評価、木材保存について在学中に携わる。 2009年テオリアハウスクリニックに新卒入社。 数千件のシロアリ調査および駆除工事に従事。趣味はシロアリ飼育。

interview

以前、白蟻専科でイエシロアリのコロニー化について検証した記事を公開しました。

羽アリを採集してからペアリングをし、働きアリを誕生させる人工的なコロニー創設。イエシロアリの成功率は90%を超え、非常に簡単だということが分かりました。

では、日本で最も一般的なシロアリである「ヤマトシロアリ」ではどうなのでしょうか。この記事では、ヤマトシロアリの人工的なコロニー創設について検証していきます。

ヤマトシロアリとは?

まず、ヤマトシロアリについて簡単におさらいすると、ミゾガシラシロアリ科ヤマトシロアリ属のシロアリで、日本における最普通種として有名です。

北海道の名寄市から屋久島に至るまで日本のほぼすべての地域に分布するため、庭先や公園、街路樹の木杭など至る所にその生息の痕跡を見つけることができます。

ヤマトシロアリ属全体を含めると、南西諸島一帯も生息エリアとしてカバーできるため、文字通り全国に分布するシロアリと言っても過言ではありません。

ヤマトシロアリのコロニー創設の方法

今回、ヤマトシロアリのコロニー化をするにあたり、先にヤマトシロアリを飼育するうえで知っておかなければならない知識があります。

それは、女王と王がペアを作り、巣の中で働きアリたちを産みながらコロニーを巨大化させていくという仕組みです。

自然下では、4月下旬から5月にかけて「新女王と新王」(羽アリのこと)が巣から飛び出す群飛という行動を行います。

ここで飛び立つ羽アリの数は数千にもおよび、一斉に空へ羽ばたく姿は圧巻です。

飛び立った羽アリたちは地面に落ちると翅を落とし、女王と王がペアを作って朽木などに潜って新たな巣を築きます。

そこから、2匹が働きアリたちを産みながら数万という規模のコロニーに成長していくのです。

ヤマトシロアリを人工的にコロニー化する方法

ヤマトシロアリをコロニー化するには、女王と王の存在が重要ということが分かりました。

つまり、人工的にコロニーを創設させるには、新女王と新王(新たに巣をつくる個体)を採集し、人工的にペアリングさせる必要があります。

また、今回もイエシロアリの検証と同じように、コロニー化の成功率についても明らかにしていきます。

流れ

1.ペアリング容器・飼育容器を作成する
2.群飛が行われそうな日の10時〜正午ごろに羽アリを採集する
3.ペアリング容器に採集した羽アリを入れる
4.ペアになった羽アリを飼育容器に入れる
5.定期的に観察しながら管理する

1.ペアリング容器・飼育容器を作成する

ペアリング容器とは、採集したヤマトシロアリの羽アリを容器内でペアとなることを促すためのものです。

ヤマトシロアリは非常に小さく、オスとメスを見分けるのが困難です。そのため、追尾行動(※1)をしたペアを採集するか、ペアリング容器の中で勝手にペアを作るのを待つかの2つが現実的な方法となります。

※1:追尾行動とは群飛後の羽アリが列をなして移動する行動のこと

ペアリング容器

大きなタッパーやプラケースを用意し、その中にペーパータオルなどの木質系タオルを湿らせて何層にも敷き詰めます。ペアを作ったシロアリが層の隙間に定着するイメージで敷き詰めるといいですね。

飼育容器

飼育容器は、ペアリングさせたシロアリを入れて飼育するための容器です。イエシロアリのときと同じ方法で作ります。

試験管にベイツガ基材を詰める

蓋には穴を開ける

プラスチック製の試験管に、水で溶いたベイツガ粉末基材を詰めておけば完成です。また蓋は密閉度が高いため安全ピンで穴を開けておく必要があります。

2.群飛が行われそうな日の10時〜正午ごろに羽アリを採集する

群飛が行われそうな日の昼前が狙い目です。具体的な気象条件は、「ヤマトシロアリの群飛を予測する方法」で検証しています。

今回は、2024年4月25日の午前11時頃に約70匹を採集しました。羽アリを見つけるのは難しいかもしれませんが、市街地であっても道路の端をよく観察しながら歩けば十分な量の羽アリを取ることが可能です。

3.ペアリング容器に採集した羽アリを入れる

群飛後の羽アリはなるべく早く飼育容器に入れたほうがいいですが、ペアができていない状態では入れることができません。

そのため、あらかじめ用意したペアリング容器に入れてペアリングを促します。一晩置かせれば大体がペアになって固まります。

4.ペアになった羽アリを飼育容器に入れる

ペアになった2匹を用意した飼育容器に1ペアずつ入れていきます。今回は35ペアを得ることができました。

結果

今回はペアリングをしてから産卵するまで、産卵してから幼虫が孵化し、働きアリが出現するまでを観察します。

4/25約70匹の羽アリを採集
4/26飼育容器に35ペアを移動

5/9産卵確認:19 
未産卵 or 中が見えず:16
5/11産卵確認:24
未産卵 or 中が見えず:11
5/13産卵確認:28
未産卵 or 中が見えず:7
5/15産卵確認:30
未産卵 or 中が見えず:5
5/20産卵確認:35

採集から25日で35ペア全ての産卵を確認することができました(産卵率100%)。ペアリングが出来ていれば産卵までは容易に成功することが分かります。

ただし、これは産卵が確認できた時点の日付なので、見えなかっただけでもっと早くに産卵していた可能性も十分に考えられます。

また、産卵確認後に3ペアの死亡(2匹とも死亡、または片方の死亡)を確認しました。

5/31孵化(幼虫)確認:2
6/6孵化(幼虫)確認:23
卵のまま・中が見えず:7
死亡:5
6/21孵化(幼虫)確認:25
卵のまま・中が見えず:4
死亡:6
7/10孵化(幼虫)確認:26 
卵のまま・中が見えず:2
死亡:7
7/23孵化(幼虫)確認:28
死亡:7

その後、孵化を5/31に初めて確認して以降、孵化まで成功するペアは増えていき、7/23までに28ペアで幼虫の発生を確認しました

幼虫を確認するまでの期間がペアにより2ヶ月ほどの差があった理由は、見えない部分で活動していて観察できなかったためと考えることができます。

結果的に、コロニー化に至らず女王、または王が死亡したペアは7ペア、孵化に成功して幼虫が発生、職蟻・兵蟻を確認できたのが28ペアとなりました。

コロニー化の成功率は80%となり、比較的高い成功率を示しています。

まとめ

前回のイエシロアリのコロニー化の成功率検証に続いて、今回はヤマトシロアリのコロニー化の成功率について検証していきました。

肌感覚として、イエシロアリよりもヤマトシロアリの方が弱く、コロニー化の成功確率も低くなるイメージでしたが、意外にもそこまで差がつかない結果となったのではないでしょうか。

イエシロアリで91.3%、ヤマトシロアリで80%、どちらも高い確率です。ただし、女王や王が死亡する割合はヤマトシロアリの方が高く、飼育難易度はヤマトシロアリのほうが高いと思われます。

また、飼育下でコロニーを巨大化させるのはイエシロアリ同様に困難と言われており、その方法について今後検証していければと考えています。

データ
採集日:4月25日(木)11:00
採集地:東京都練馬区
採集数:35ペア
採集方法:群飛後にアスファルト上を歩く羽アリを採集
ペアリング法:ペアを作った2匹をそのままペアとしてカウント
飼育容器:100×12mmのプラスチック試験管
保管方法:試験管は縦に静置する
室温:24℃±3℃
結果:35ペア中28ペアで孵化まで成功
成功率:80%

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