アメリカカンザイシロアリの生態・特徴・対策方法・国内分布について
- アメリカカンザイシロアリ
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Researcher
- 橋本 実樹
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研究員 2007年入社
DX 推進室 専任課長
埼玉県で初のクマゼミの採集実績あり。大学では昆虫類、主にセミ類の分布調査に携わる。 2007年テオリアハウスクリニックに新卒入社。熱海起雲閣で床下ロボット調査、代々木能舞台や国際子ども図書館の駆除など経験。 趣味はハチや魚類の採集、飼育。
interviewはじめに
全国に散在的に分布し、地域によっては深刻な被害をもたらしているアメリカカンザイシロアリというシロアリがいるのをご存知でしょうか。
今回は、この「アメリカカンザイシロアリ」についての情報を私の視点で色々掘り下げていきます。
アメリカカンザイシロアリとは ~名前の由来はそのまんま?~
アメリカカンザイシロアリという名前ですが、原産地と生態が由来となっています。
その名の通り北米原産のシロアリであり、「カンザイ」部分は「乾材」乾燥した材を主食としていることが由来です。
英語ではDrywood Termitesと呼ばれます。
漢字にすると、北米(米国)乾材白蟻 ですね。亜米利加乾材白蟻 でも良いでしょう。
アメリカカンザイシロアリを含むレイビシロアリ科は、以前の記事でシロアリ界のべドゥィンと名付けたグループに相当し、遊牧民的な生活を送るシロアリです。
レイビシロアリ科の中でもアメリカカンザイシロアリは、日本では家屋への被害の中心となっている種類です。
なおレイビシロアリ科=カンザイシロアリの仲間と同義です。
国内で確認されている種は、他にダイコクシロアリやニシインドカンザイシロアリが有名です。
シロアリJAPAN代表であるヤマトシロアリ・イエシロアリが土壌性シロアリと呼ばれて土壌中に営巣するのに対し、アメリカカンザイシロアリは非土壌性シロアリと呼ばれ、基本的にその一生を土壌と関わらずに過ごします。
つまり、乾燥した木材(木部)そのものを巣とする種類というわけです。
要は、アメリカ(アメリカ原産の)カンザイ(乾燥木材を喰らう)シロアリ
ということです。単純明快ですね。
なお、アメリカカンザイシロアリの属するレイビシロアリ科のシロアリは
すべて非土壌性の「乾材シロアリ」となります。
アメリカカンザイシロアリの生態① ~脅威の理由~
アメリカカンザイシロアリが脅威と言われる理由は何でしょうか。
一番脅威と言われるポイントは前述の通り「非土壌性」の生態です。
何がヤバいかというと
「どこから侵入するかわからない」ので、予防対策および発見が非常に難しい
ということです。
一生を土に触れずに過ごすために、土壌性のシロアリ対策で一般的な土壌表面への薬剤処理は全く意味がないのです。
カンザイシロアリは有翅虫がどこからともなく飛来し、不時着した部分から静かに営巣が始まります。
有翅虫の気分次第なので、どこから営巣され被害が出始めるかまったく予測ができないのです。
しかもコロニー単位の個体数が土壌性シロアリと比較してかなり少ない故、被害の進行速度も土壌性シロアリと比較すると穏やかなので被害に気づくまでに数年かかることもザラであります。
内装材などから侵入すればまだわかりやすいですが、外部から侵入し易い小屋裏等で営巣するケースが多いのも見つかりにくい理由です。
侵入の可能性のある通気口などを徹底的にメッシュなどで塞ぐ方法も割とポピュラーな対策方法としてはありますが、それでも完璧に防ぐことは難しいでしょう。
アメリカカンザイシロアリの生態② ~夢のある階級制度~
社会性昆虫として有名なシロアリですが、アメリカカンザイシロアリも例に漏れず階級があります。
ただし、シロアリJAPAN代表のヤマトシロアリやイエシロアリとは階級の内訳が異なっています。
・擬職蟻(ぎしょくぎ):職蟻の形をしている状態
・兵蟻(へいぎ)
・ニンフ:有翅虫になる前の段階で、職蟻に中途半端な羽のようなものがついている状態
・有翅虫(ゆうしちゅう):羽アリ
・落翅虫(らくしちゅう):羽アリが翅を落とした状態(=生殖虫)
・生殖虫(せいしょくちゅう):落翅虫および擬職蟻から直接分化した生殖可能な状態
簡単にいうと他のシロアリでは一般的な「職蟻」階級がないのです(!)
他のシロアリで行くといわゆる「職蟻」確定パターンは一生この階級で終わってしまう夢のない階級です。
そういう意味では、最底辺の擬職蟻であっても常に昇進に期待できる階級制度と言えるでしょう。
まあ、後述しますが兵蟻になった個体には同情します。
アメリカカンザイシロアリの特徴① ~想像を絶する糞のカタさ~
アメリカカンザイシロアリをはじめとしたレイビシロアリ科に共通で特徴的なものは
「砂粒状の糞」です。大きさは0.7~1mm弱で形状は俵状をしています。
これはカンザイシロアリの一番の特徴と言えるかもしれません。
個体の大きさによりサイズは異なりますが、形状はほとんど一緒です。
含水率10~20%と水分の少ない木材の中で生活する為、摂取した木材由来の水分を再吸収することができ、その結果糞も水分をほとんど含まない硬い砂粒状となります。
驚くべきはその想像を絶するカタさであり、ラジオペンチ案件となります。
他の生き物の糞でここまで硬い糞は見たことがありません。
私の知る限り糞の硬度においては右に出る種族は存在しないと思われ、それに伴い直腸もなかなか堅牢(けんろう)な造りであることが想像できます。
その糞ですが、巣の中にたまりすぎてはシロアリ自身が蟻地獄の様に埋もれてしまいますので
定期的に巣の外部へ排出する必要があります。
彼らは糞孔(ふんこう)とよばれる外部に向けた孔を作り、そこから外部へ排出します。
その結果、あの盛塩のような堆積物が出現するわけですね。
アメリカカンザイシロアリの被害が甚大な物件になると、あたり一面砂粒上の糞が堆積しており、
特に小屋裏は灼熱地獄との相乗効果であたかもゴビ砂漠にいるのではないかと錯覚を受けるでしょう
(小屋裏の調査時は、熱中症にくれぐれもご注意下さい)
アメリカカンザイシロアリの特徴② ~マッチョな兵蟻~
兵蟻は夢がないと失礼なことを言いましたが、あくまで私の主観であり将来的に分化の可能性がないだけで、
マッチョな体格を手に入れることができるということはある意味メリットです。
直接掴んでみるとわかりますが、脚も太く甲虫類のようにしがみつく力は(大きさの割には)ピカイチです。
なお、このような顎の形状から、兵蟻は自分で木を齧ることができないので、お世話係の擬職蟻さん達から口移しで与えられる流動食しか摂取できません。
まあマッチョは消化効率第一ですからね。味は二の次なわけです。
私は絶対に希望しませんが。
そして屈強そうな見た目の割にはほとんど戦うこともありません。
基本は防御に徹する役割です(アメリカカンザイシロアリの兵蟻に限ったことではないのですが)
アメリカカンザイシロアリの特徴③ ~茶色い有翅虫~
アメリカカンザイシロアリをはじめ、レイビシロアリ科の有翅虫は黒褐色なヤマトシロアリ類に比べて色の薄い茶褐色をしています。あとカンザイシロアリの方が圧倒的にデカいです。
ヤマトシロアリ類のみ前胸背板が黄色いですので、この2種を見比べた場合は容易に判別可能です。
但し、イエシロアリとは色合いと大きさがよく似ていますので、この2種は間違えられることも多いです。
(一般的にはシロアリの羽アリを見ただけでシロアリとわかる方のほうが少ないと思いますけど)
アメリカカンザイシロアリの国内分布について
アメリカカンザイシロアリは輸入材や輸入家具とともに移入したと言われています。
1976年に東京都江戸川区の家屋で発見されたのが最初で、今では全国に散在的に分布しており、いずれも人為的な移動によるものと推測されています。定着から50年以上経過し、地域によっては甚大な被害が出ているところもあります。
有翅虫の移動能力がそこまで高くないのが幸いし、日本中に分布しているとまでは言えませんが、そうなるのも時間の問題でしょう。
アメリカカンザイシロアリの駆除方法について
カンザイシロアリの確実な駆除方法は建物全体をテントのようなもので覆い、毒ガスを充満させるという燻蒸(くんじょう)処理しかありませんが、この毒ガスは残効性がないので直後から新規で侵入が可能です。
また、住宅密集地の多い日本では施工が難しい家屋が多いという事情もありあまり一般的ではありません。
国内で一般的な駆除方法としては、ピンポイントでコロニーの場所を想像しながら木材に穿孔(せんこう)して薬剤を注入する方法です。
カンザイシロアリの駆除は知識と技術に裏付けられた処理が求められますが、そうした有識者が行ったとしても被害の再発が多いのが特徴です。
アメリカカンザイシロアリの生態上、有翅虫の飛来場所にコロニーが発生するということと、そのコロニーは非常に小規模なものが多く、経験者でも全てを発見することは難しいです。
極端な話、コロニーが100個あったとして、全てを発見して処理できなければ被害は再発してしまうのです。
かといって闇雲に穿孔する行為は木材の強度を下げるだけであり、そもそも「建物を守る」という本来の目的が破綻してしまうため厳禁であります。
ヤマトシロアリやイエシロアリのような侵入経路のはっきりしている土壌性シロアリと異なり、カンザイシロアリの駆除に保証を付けられないのは上記のような理由からです。
薬剤を小屋裏に大量散布して保証をつけるような業者も存在するようですが、健康被害などを考慮するとおすすめできるものではありませんし、それで確実に駆除できているかどうかも疑問ではあります。
その他の乾材シロアリ ~ツヤの有るダイコク、ザラついたニシインド~
ダイコクシロアリ(レイビシロアリ科ダイコクシロアリ属)
(おそらく)在来種として沖縄や南西諸島に分布します。
アメリカカンザイシロアリよりひと回り小さく細長いフォルムをしています。
ニシインドカンザイシロアリ(レイビシロアリ科ダイコクシロアリ属)
アメリカカンザイシロアリと同じように世界的に重要な家屋害虫となっています。
ニシインドカンザイシロアリは、当社でも対応事例が数件あります。
温暖な気候を好むということもあり日本ではあまり定着してはいませんが今後増えてくる可能性が高いです。
ダイコクシロアリ属ということもあり、見た目はダイコクシロアリにそっくりです。
大きさもほとんど一緒です。兵蟻の頭を見ない限りはパッと見判断が付きません。
見分け方は、頭部にツヤがあり黒光りしているのがダイコク、ザラついて光沢感が弱いのがニシインドです。
これらの「カンザイシロアリ」については、主にこちらの記事で解説しています。よろしければ御覧ください!
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