アメリカカンザイシロアリの巣内を飼育・観察するケースの開発

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  • 飼育

Researcher

研究者プロフィール
木村 健人

研究員 2009年入社

経営企画部webマーケティング課専任課長

シロアリ・木材腐朽菌に対する防蟻・防腐薬剤性能評価、木材保存について在学中に携わる。 2009年テオリアハウスクリニックに新卒入社。 数千件のシロアリ調査および駆除工事に従事。趣味はシロアリ飼育。

interview

乾燥を好む乾材シロアリの生態観察をする方法を開発しました。

乾材シロアリとは乾燥した木材に住み着くシロアリの総称で、近年日本に定着しつつあるアメリカカンザイシロアリがその代表です。

木材内に直接潜り込み棲家とする習性は日本固有のヤマトシロアリと異なり、既存の防除方法での対策が困難と言われています。

そこで、アメリカカンザイシロアリの生活環境や巣内の状態、生態などを理解するために、内部を常に観察できる管理ケースを作成しました。

記事に関する注意
当記事および飼育管理ケースは乾材シロアリの生態や防除について理解するために作成したものです。アメリカカンザイシロアリは住宅に大きな被害を与える家屋害虫です。脱走等により大きな問題となる恐れがありますので、個人での飼育や愛玩目的等での飼育は絶対にお控えください

2年経過時点での乾材シロアリ生態観察ケース

こちらが作成した乾材シロアリ用生態観察ケースです。2021年8月に作成したものですので、現時点で1年10ヶ月程度経過しています。

木材に無数の穴が開けられていますが、ほとんどは投入したアメリカカンザイシロアリの食害痕です。

中央に見える円形の穴は、シロアリを投入する際に設けたもので、当初はこの穴しか存在しませんでした。

結果的にこのケースは観察面において非常に優れており、アメリカカンザイシロアリの様々な特徴を理解するための重要なツールになっています。

用いた材料

では、この乾材シロアリ用生態観察ケースの材料や作成方法について簡単に解説します。

材料

  • 薄いスギ板(厚さ6mm以下)
  • アクリル板(厚さ3mm)
  • ネジ・ナット(4セット)

基本的な材料は以上です。これらを組み合わせて作成します。薄い杉板をアクリル板でサンドイッチして、四隅をネジ止めするだけのシンプルな構造です。

私の場合は杉板よりもアクリル板を大きめに切っておき、糞の排出などがスムーズに行われるようにしています。

こちらが作成直後のケースです。(画像を加工しています)

飼育観察の開始

ケースにはアメリカカンザイシロアリの1コロニーを投入しました。このコロニーは擬職蟻が約170匹、兵蟻が8匹、生殖虫(副生殖虫)が1匹というバランスです。

生殖虫が1匹ですが、擬職蟻が後々生殖虫に分化することを想定しています。

予め開けた穴に約200匹のシロアリを閉じ込める作業は至難の業ですが、蓋をして脱走防止対策を講じることができれば観察ケースは完成です。

脱走防止策について
職蟻や兵蟻が脱走する心配はほとんどありませんが、6〜7月ごろに発生する羽アリは脱走する危険性が高いため、シロアリが通過できないように板やフィルターを設けます。

当ケースではアクリル板の間に薄く切ったアクリル板をはめ込むことで密閉しています。

管理

アメリカカンザイシロアリは、木材をエサとするためエサを定期的に与えることはありません。巣材のスギ板がそのままエサとなります。

ただし、メンテナンスフリーではなく定期的な管理が必要です。

糞の掃除

まず、外に糞が排出されます。この糞を定期的に除去しないと、糞の排出ができなくなってしまいます。

杉板と脱走防止板の間に溜まった糞

糞の排出は脱走防止板を取り外し、糞を掻き出すように行います。

ケースを横に傾けると大量の糞が出てきます。2ヶ月に1回くらいのペースで掃除をおこないますので、糞の排出ペースは意外と早く感じます。

給水

アメリカカンザイシロアリを飼育していると気づくのが、適切な量の水分を必要とする点です。

アメリカカンザイシロアリの棲家となる家具や住宅の小屋裏は、基本的に水分が供給されることが無いため水分が全くいらないと考えられます。

しかし、完全には密閉されないこの観察ケースでは巣外の湿度などに大きく影響されるようで、乾燥しがちな室内では過乾燥状態になっている可能性があります。(※推測です)

そのため、一辺にティッシュを設置して数ヶ月に一度、給水を行います。ティッシュを用いる理由は、水が坑道内に入り込んでシロアリが溺死するのを防ぐためです。

巣内を観察する

巣内を観察すると様々な気づきを得られます。先ほどの水分についてもそうですが、シロアリたちの動きについても気づきがあります。

食害の進行方向

シロアリの食害は基本的に柔らかい部分から先に進みます。アメリカカンザイシロアリも同様で、写真のとおり硬い年輪を避けて食害が進んでいます。

硬い年輪は人間の建物で言うと部屋と部屋を区切る壁に相当するもので、年輪を通過するための出入り口が複数箇所設けられています。

住宅の柱などは年輪が縦方向に伸びています。柱に侵入されると上下方向に被害が進むことが想像できるのではないでしょうか。

また、この特徴は駆除処理の際にも役立ちます。薬剤を被害材の内部に注入するとき、年輪を貫通させる方向で穴をあけると、年輪に並行して開けるよりも薬剤が空間に浸透します。

蟻土が構築されやすい条件

乾材シロアリの仲間は木材の中に巣を作るため、蟻道や蟻土を普段は作りません。しかし、隣の木材に移動する時や不意に隙間が出来たときには蟻土を作って隙間を塞ぎます。

この観察ケースには隙間が多いため蟻土が頻繁に構築されますが、蟻土が構築される機会が多いのは、水分が余っているときです。

乾材シロアリは限られた水分を有効活用するために、通常の糞は固く乾燥しています。しかし、蟻土の材料は水分を含んだ自分たちの排出物などです。

水分を使うということは、それだけ重大な作業なんですね。

ですから、給水をしたときなど水分が過剰にある場合は通常時に比べて蟻土の構築が多くなります。逆に蟻土を構築出来ない場合は、自分たちの硬い糞で隙間を埋めていたりします。

兵蟻の活動

よく言われることですが、アメリカカンザイシロアリの兵蟻はほとんど動きません。この写真は真ん中の穴ですが、こういった広い空間に陣取って静止していることが多いです。

狭い通路の中でその場から動かない兵蟻

特に異常が起こらない限りは体力を温存しているのか、職蟻と比較すると動きが少ないことが分かります。

木くずも頻繁に排出する

アメリカカンザイシロアリの被害現場では、硬い砂粒状の糞が室内に排出されることで被害に気づかれることが多いです。

しかし、飼育観察していると硬い糞だけでなく柔らかい木くずを排出する場面にしばしば遭遇します。

柔らかい木くずは新しいペアが巣を作る時、穴を開ける過程で排出することがあります。しかし、飼育観察ケースには新しいペアはいないため、新しい通路を作るために木くずを排出していると考えることができそうです。

巣内の空間は既に余裕があるのですが、なぜエサにもせず木くずとして排出するのかが不思議ですね。

シロアリの活動を自然な状態で観察できる

これがこの観察ケースの目的ですが、非常に観察がしやすい作りとなっています。材料の関係で6mm厚の杉板を使用しましたが、これでも十分に中を観察することができます。

4mm程度の無垢材を使うことができればさらに観察効率が上がるかもしれません。

巣内を開けること無く観察できる
自由に行き来するシロアリ

今後

今回ご紹介した乾材シロアリ用生態観察ケースはこの状態でも問題なく飼育管理が可能です。しかし、改善点も多いため更に観察効率の上がるものへ変更を考えています。

木材は歪みが大きいため、正確に作成しても隙間が生じます。シロアリたちに蟻土を作らせないほどの精度で組み立てられれば、より自然に近い状態で観察ができるはずです。

また、教育や勉強会での用途も見込めますので、改善したものは改めてご紹介いたします。

記事に関する注意
当記事および飼育管理ケースは乾材シロアリの生態や防除について理解するために作成したものです。アメリカカンザイシロアリは住宅に大きな被害を与える家屋害虫です。脱走等により大きな問題となる恐れがありますので、個人での飼育や愛玩目的等での飼育は絶対にお控えください

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