~キイシリの災難~ 8月末~9月に発生、シロアリやヒアリに勘違いされやすいアリとは

  • 羽アリ

Researcher

研究者プロフィール
橋本 実樹

研究員 2007年入社

DX 推進室 専任課長

埼玉県で初のクマゼミの採集実績あり。大学では昆虫類、主にセミ類の分布調査に携わる。 2007年テオリアハウスクリニックに新卒入社。熱海起雲閣で床下ロボット調査、代々木能舞台や国際子ども図書館の駆除など経験。 趣味はハチや魚類の採集、飼育。

interview

はじめに

キイロシリアゲアリの新女王

8月末~9月にかけては、羽アリの問い合わせが爆発的に増える季節です。

その原因はほぼ99%、「キイロシリアゲアリ」というアリによるものです。

実はアリ愛好家の中ではファンが多く主観ですが愛くるしいフォルムをした種類であります。

今回は、この「キイロシリアゲアリ」「キイシリ」についての情報を私の視点で色々掘り下げていきます。

キイロシリアゲアリとは ~特徴・名前の由来~

飼育下のキイシリの職蟻と幼虫

学名:Crematogaster osakensis
職蟻が2~3mm、女王が体長7~8mm

名前の由来は黄色い、シリアゲアリですね。略して「キイシリ」です。

フタフシアリ亜科シリアゲアリ属に属する国内在来種ですが、特徴的な見た目と生態のお陰でシロアリや、毒のある特定外来生物のヒアリ(Solenopsis invicta)に勘違いされやすい悲運なアリでもあります。

でもキイシリに非はアリませんから、はい。

飼育下のキイロシリアゲアリの職蟻と幼虫

英語では シリアゲアリはAcrobat Ant と呼ばれており、名前からしてもカッコ良いのが特徴であります。

もう全てがカッコいい!

キイロシリアゲアリ、特に職蟻のフォルムはアリの中でもかなりカッコ良い部類であると思っています。

【キイシリの萌え要素】
・アメイロアリを凌駕するアリ類の中でも類まれな体色の薄さ
・ギザギザのアゴ
・シリアゲアリ類の特徴である、先端を突き上げたロケット型の腹部の威圧感
・腹部の節毎のクビレ
・うっすら内蔵まで見えるスケルトン感
・表面の光沢感の強さ

如何でしょう?最高に少年心をくすぐる要素ばかりですね。


勘違いされる理由① ~「アリ」らしからぬ明るい体色~

キイロシリアゲアリがシロアリやヒアリと勘違いされる理由の一つが特徴的な明るい体色です。

黒~黒褐色が多いアリの仲間の中でも目立つ存在であり、なおかつヒアリも同じような茶褐色の体色をしているので勘違いされやすいのです。

【注】ヤマトシロアリの有翅虫(羽アリ)は黒褐色です。

「アリ」らしからぬと言うのは、我々はシロアリと区別する為やお客様へ説明するためにアリ類のことを「クロアリ」と呼んだりするのですが、こういう呼び方は生物学的には本来正しくないのです。

キイシリが聞いたら疎外感しか感じないわけですしね、全然黒くないですから。

結婚飛行を終えたキイロシリアゲアリの落翅虫(新女王)の集団。集まって共同の営巣場所でも探しているのでしょう。

勘違いされる理由② ~大量発生!網戸からも侵入!?~

キイロシリアゲアリがシロアリやヒアリと勘違いされる理由のもう一つが、羽アリの大量発生です。

主に湿度が高く蒸し暑い夜間に大量発生し、灯火によく集まります。

こちらはどちらかというとイエシロアリの羽アリが大量発生する状況と似ていますね。

有翅虫には雄と雌があり、特に雄アリは、2~3mmと体が小さく網戸の隙間を通り抜けられる大きさですので大量に室内に侵入してしまいます。※人体への害はありません。

とにかくこのアリは大量発生して屋内に侵入するので人目に付くというのがポイントです。

但し結婚飛行の時期が異なり、イエシロアリの有翅虫が6~7月に対してキイロシリアゲアリは8月末~9月となるのでそこで簡単に区別が付きます。

キイロシリアゲアリは多雌性(女王がいっぱい!)

交尾後に女王は翅を落として集団をつくり、コロニーを作り始めます。

(雄は他のアリの例にもれず、交尾後に独り虚しく一生を終えます)

そう、キイロシリアゲアリはヤマトシロアリのように多雌性(たしせい)の種類なんです。
多雌性とは、一つのコロニー(=巣)に複数の女王が存在する種類のことです。

これも際限なく羽アリを大量生産する原因の一つということに繋がってくるでしょう。

生存率の低い昆虫全てに言えることですが、数撃ちゃ当たる作戦です。

自我がなくて本当に彼らは幸せだと思います。自分はそもそも雄ですしね。

話は変わりますが、まったく分類が違うのに、アリとシロアリってどちらも真社会性を擁していることはもちろん、さらに単雌性(たんしせい)と多雌性という同じような構成のグループまであるのです。

なお、唯一決定的な役割の違いは雄の扱いで、ハチも含めアリの仲間は完全に雌社会です。

雄は繁殖以外では一切活躍できません。

シロアリは雌雄区別のない階級社会ですね。

シロアリの階級と巣の形について解説した記事。詳しくはこちら!

アリとシロアリ、分類学上はかなり離れた分類になりますが、非常に酷似した生態を持つことに驚きです。

キイロシリアゲアリの分布について

北海道、本州、四国、九州、対馬、屋久島、奄美諸島に生息が確認されており、ほぼ日本全国で見られます。
但し地中で暮らすことが多いので、羽アリの時期(8月末~9月)以外は目にすることが少ないアリです。

家屋害虫としての側面(人体に害はない)・駆除方法

私の経験上キイロシリアゲアリはあまり家屋害虫としての事例が多くありません。

キイロシリアゲアリの問い合わせは、有翅虫(羽アリ)の侵入に関するものがほぼ100%です。

キイロシリアゲアリの羽アリは何もしなくても2~3日で勝手に発生がとまることがほとんどです。
どこから飛んでくるかわからない羽アリ自体を確実に防ぐというような有効方法というのは無いのですが、羽アリ自体はとても弱い虫ですので、殺虫剤など使用せずに、そのまま掃除機で吸ってしまうのが一番効率的です。(それだけでほぼ死滅します)

但し、キイロシリアゲアリの職蟻が室内に発生した場合は通常のアリと同じように市販の毒餌剤にて処理が可能です。

特に人体に害のある虫ではありませんので、毒餌剤を設置し、気長に見守っていただければと思います。毒餌剤は、顆粒タイプでなくペーストもしくはジェルタイプを選びましょう(重要)。

但し、私自身が「アリ」の駆除を行う中でキイロシリアゲアリと確認できたケースはたった1件だけであり、そもそもが非常にレアなケースです。

どこにでも生息するアリなのに家屋への侵入が少ないはっきりした原因はわかりませんが、木の腐食部や苔の生えた場所など湿度の高い環境を好んで営巣するため、その特性からしても家屋自体に営巣する頻度は低いのかなと思います。

逆を言えば、侵入が認められた家屋は湿度の高い場所が疑われるということになります。

アリは家屋を狙って侵入するようなことなく、たまたま生息範囲が重複した場合に侵入してしまうというケースが殆どです。

乾燥した土壌への営巣を好むクロヤマアリや、クロオオアリなどもめったに家屋へ営巣する事例がないので、侵入の頻度も生態に影響するのでしょう。

いかがでしたでしょうか。

キイロシリアゲアリはシロアリやヒアリ等に勘違いされやすい不遇なアリですが、見た目が美しく、時期になれば大量発生するため、女王の採集も容易であり、飼育や研究の対象になることも多いアリです。

当社でも飼育していますし、お子さんの自由研究にもピッタリです。

夜間コンビニや自販機に集まる羽アリを見て、「あ、キイシリじゃん!」ってドヤ顔で言える方々が増えたら嬉しいなと思います。

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