ヤマトシロアリの羽アリの大群飛を観察しました

  • 生態
  • 羽アリ

Researcher

研究者プロフィール
木村 健人

研究員 2009年入社

経営企画部webマーケティング課専任課長

シロアリ・木材腐朽菌に対する防蟻・防腐薬剤性能評価、木材保存について在学中に携わる。 2009年テオリアハウスクリニックに新卒入社。 数千件のシロアリ調査および駆除工事に従事。趣味はシロアリ飼育。

interview

ヤマトシロアリは5月に有翅虫による大群飛をおこないます。今回、東京都八王子市でその群飛を観察することができましたので、写真を交えてヤマトシロアリの群飛について解説します。

ヤマトシロアリはいつ群飛するのか

普段、私たちはシロアリ駆除と住宅のシロアリ予防を行う立場の人間です。シロアリは毎日のように見る昆虫ではあるものの、有翅虫(羽アリ)が群飛を行う瞬間に立ち会う機会はそう滅多にありません。

どれくらいの規模で、どんな気象条件で、何分程度の時間で、ということは文献や参考書で知ることはできます。しかし、自然界のシロアリは一体どんな群飛をするのか、というリアルな情報は見てみないことには分かりません。

そこで、私たちはヤマトシロアリの群飛を撮影するために東京都の山林にて、4月から5月にかけて数回観察を行いました。

羽アリが群飛するタイミングは関東で4月下旬から5月中旬ごろです。弊社への調査依頼を基に集計したデータでは、下記の気象条件や時間帯に群飛が行われることが分かっています。

  • 午前10時ごろから正午にかけて
  • 最高気温24℃以上
  • 湿度60%以上
  • 南〜南東の弱い風

そして私たちが観察に訪れた5月14日も、上記の条件に完全に一致するものでした。

この日、森に到着すると早朝の雨のせいか湿度が高く、さらに午前10時の段階で23℃まで気温が上昇していました。まさに羽アリの群飛を匂わせる気象条件です。

ヤマトシロアリの巣がある枯死木をプロットしていたため、1箇所ずつ確認していきます。

すると、私たちの予想どおり枯死木の表面には無数の羽アリが出てきているところでした。

横たわった樹木の表面には、たくさんの羽アリが出てきています。

その数は数千匹にものぼり、まさにいまから群飛が行われようかという感じです。

通常、ヤマトシロアリは地表には姿を表さない昆虫です。しかし、羽アリの群飛時期だけは専用の坑道を彫り、樹皮上に穴を開けて羽アリの脱出口を設けます。

上写真は羽アリの出口として開口された場所。兵蟻や職蟻の姿も確認できます。

羽アリは出口から地表に出ると、一旦その場で様子を確認するようです。遠くには移動せず、出口付近で群飛するかの最終判断を待っているかのように見えます。

また、羽アリと一緒に兵蟻が護衛のためか同伴している姿も確認することができました。

少しの待機時間ののち、羽アリは徐々に移動を開始します。その場で飛び立つ訳ではなく、少しでも高い場所へ移動してから飛び立つ習性があります。

これは、住宅で羽アリが発生したときにも見られる現象で、上方向へ進む傾向があるようです。

誰も指示せずとも、同じ場所に進んでいく羽アリの行列。

このコロニーは数千匹の羽アリを出す巨大コロニーだったようです。

行列の先には、枯死木の枝の先端がありました。羽アリが団子状にびっしり集まり、ここから一斉に群飛が行われます。

群飛は10時30分すぎに始まり、群飛時間は10分程度と私の想像よりもだいぶ短い時間で行われました。

また、シロアリの飛行能力は高くなく、この日観察した限りでは10m〜30m程度の距離に収まっているようでした。

飛行を終えた羽アリは、その場ですぐに翅を落とします。

体を捻らせながら、脚を使って簡単に切り離すことができるため、あたりには翅だけが残されていました。翅を落としたシロアリたちはペアを探して林内を歩き回り、自分たちの新しい巣を作り始めます。

群飛が始まってから20分後。行列がいた丸太の上には兵蟻が数匹いるだけです。数千匹の群飛は本当にあっという間の出来事でした。

群飛後の森では、ヤマトシロアリの羽アリを至るところで見ることができます。

ただし、その殆どがクモやアリのエサとして捕らわれている姿です。

ヤマトシロアリの群飛が大規模に行われる理由は、このような生存率の低さが関係しています。おそらく9割以上の羽アリはペアを見つけて巣を作ること無く死んでしまうのです。

群飛が終わると、やがて森にはシロアリが活動していた形跡がすっかり無くなります。この森でも、11時過ぎには何事も無かったかのように普段の状態に戻っていました。

本当にあっという間の出来事です。

今回、念願だったヤマトシロアリの群飛を観察することができましたが、普段から言われている飛行条件と基本的には一致することが確認できました。

また、羽アリたちの行動や群飛時間、飛ぶスピードや距離など、実際に見ないと分からないことも多々ありました。

自然界でのこのような群飛はまだこの一度きりですが、実際に観察することで理解できることは多いです。今後も別コロニーや異なる場所、イエシロアリなど別の種類のシロアリについても観察ができればと思います。


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