2024年度 ヤマトシロアリの羽アリを雑木林で撮影しました。 

  • 生態
  • 羽アリ

Researcher

研究者プロフィール
田口 正訓

研究員 2007年入社

埼玉営業所テクニカルチーム

大学では在来草本植物の研究に携わり、自然環境と生物の相互関係を学ぶ。 2007年テオリアハウスクリニックに新卒入社。数千件のシロアリ調査および駆除工事に従事。 休日も生き物や植物の写真撮影に勤しむ。

interview

羽アリの時期になりました。この仕事をしていれば、毎年嫌でも4月5月は羽アリを見る事になります。

しかし、私はある事に気づいてしまったのです。

「建物内での羽アリ、仕事での羽アリは何度も見てきましたが、森の中の羽アリ、つまり野生での羽アリの姿はまだ観察した事がない…。」

また、現場に到着した時は既に発生後で、翅や死骸が散乱している事がほとんどです。17年働いていてリアルタイムで羽アリが発生している瞬間を、目の当たりにしたのは数例に過ぎません。

というわけで、今年こそは野生のヤマトシロアリの羽アリが、発生しているところを見たい!と思い、撮影する事に決定しました。

例年、ヤマトシロアリの羽アリは、関東地方の平野部において4月下旬から5月中旬位まで発生します。

2024年に初めて確認したのは、4月25日(木)でした。仕事中、信号待ちしている時に車のフロントガラスに羽アリが飛んできて気づきました。

暖冬でしたので、発生時期が早まるかと思いましたが、ほぼ例年通りでした。

撮影日と撮影場所について

撮影日:4月28日(日)
場所:千葉県某所の雑木林

この日の予想最高気温は26℃で前日は小雨。湿度約60%、風も弱く羽アリが出る条件が揃いました。

この場所は、地域のボランティアによって管理されていて、とても自然豊かな場所です。周囲は宅地化が進んでいるものの、ノウサギやタヌキも生息しています。ボランティアの方と何度も接触しており、立ち入り許可、撮影許可をいただいております。

本来のシロアリの住処というべき場所です。ここなら、餌となる木材が豊富です。更に、近年カシノナガキクイムシの大発生によるナラ枯れが進行し、コナラ・クヌギの立ち枯れが増加。この事がシロアリの増加につながるかもしれません。

ここ数年で立ち枯れが目立つようになりました。特にコナラの老木がカシノナガキクイムシに狙われます

午前9時30頃に現場入りしました。園路を周回し探しましたが、羽アリの気配はありません。その為、趣味の写真撮影に勤しみます。キンランが見ごろでした。

絶滅危惧Ⅱ類に指定されている野生の蘭。菌類と共生関係を持ち、鉢植えにしても上手く育たず、枯れてしまいます。以前は園芸目的の採集、盗掘、雑木林の荒廃で数を減らしていましたが、保護活動が実り、撮影地での株数は回復傾向にあります

11時台になり、気温が上昇してきました。すると、4枚の翅を持った、見慣れた昆虫が私の目の前を通過しました。「お、羽アリだ!もしかして、近くで発生しているかも!」近くを探してみたら、1点から次々と何かが湧き立つ場所を発見!

大量の羽アリを発見!

ついに見つけました!次から次へと羽アリが飛び立っていきます!数百はいましたが、千匹単位ではなさそうです。2023年の記事(八王子市のコロニー)と比較すると小規模です。また、八王子市のコロニーと異なり、発生した羽アリは発生地点から直ぐに飛び立っていました。

これは、周囲に枝や倒木が隣接していなかった事が原因のようです。高いところに伝っていけるものがあれば、そちらを伝って移動し、高いところから飛び立ちます。

さて、この現象は何時まで続くのでしょうか?気になり観察する事にしました。始まりの瞬間は立ち会えなかったのですが、おそらく11時前後に飛翔が始まっています。11時30分にピークを迎え、12時になるとピタッと止まりました。

12時以降も度々、脱出口から羽アリが顔を覗かせていましたが、再び出る事はありませんでした。1回の発生で、コロニーの羽アリ全個体が発生するわけではなく、数日にわけて発生するケースがあるようです。

脱出口から顔をのぞかせる羽アリ。羽アリも働きアリと同様に、数珠状の触覚を持っています。クロアリとは明らかに形が異なります。

羽アリの全身像。頭部は艶のある黒色。胸部は明るい褐色。翅は等翅目の名の通り、4枚が同じ形をしており、上下に重なるのが特徴です。

クロアリの羽アリ(写真はクロオオアリ)。触覚は数珠状ではなく、後翅よりも前翅が大きくのが特徴です。翅の重なり具合、翅脈の形も大きく異なり、ハチに近い見た目をしています。

5月3日(金)、同じ場所に行ったのですが、この日は28日よりも気温が低く、夏日になりませんでした。更に空気が乾燥している上に正午から風が強くなり、羽アリが飛び出す事はありませんでした。晴天でも、気温が低いと発生しない事がよくわかりました。

羽アリの飛翔能力はどれほどか?

もう一点気になる事があったので、それについても報告します。それは、羽アリの飛翔能力についてです。飛び立った羽アリを追いかけて観察する事にしました。

飛翔速度は、風に乗るタンポポの綿毛と同等です。決して速くはありません。そよ風の影響を受け、大半の個体が同じ方向に流されていきます。

では高度は?私の予想だと、せいぜい人の身長を超える位が限界かと思っていたのですが…

実際は私の頭上をいとも簡単に超え、さらに、樹木の天辺に届く高さまで至り、姿が見えなくなりました。その高さは推定10メートル前後です。これは大きな発見でした。

体を縦にして4枚の翅で力強く羽ばたく羽アリ

羽アリは明るい場所を目指していく

そして、その動きは、確実に直射日光が差し込む場所を目指していました。

木々の間に空が見える。その空に向かって羽アリは飛行していきました

普段は直射日光を嫌がるシロアリですが、羽アリは明るい場所に向かって飛翔していくのです。明かりの先には太陽があり、太陽を目指せば、より高く、飛距離を伸ばす事が出来、分布を広範囲に広げられます。

但し、羽アリはその飛翔する為の翅を、その日のうちに落としてしまいます。その為、通常は数十メートルまでの飛距離にとどまりそうです。

正確な飛距離が把握出来なかった点は今回の撮影の反省点です。次回は飛び立っていった羽アリの着地点、着地後の行動も撮影、観察出来るように努めたいです。

まとめ

ヤマトシロアリの羽アリ発生、群飛の条件は以下の通りです。

  • 羽アリは正午前に発生する事が多い。但し、その日の天候、気温によっては午後に発生する事もある。
  • 群飛を行う時間は長くても1時間程。
  • 群飛後にコロニーに残存していた羽アリを確認出来たので、1回の発生で全ての羽蟻が出るわけではなく予備隊がいる事が判明。数回発生する事で、鳥類やクモ等の天敵に全て捕食されるリスクを減らしている物と推定される。1回で完結する事もある。
  • 夏日、湿気がある雨上がりの晴天に発生しやすく、晴天でも涼しくて乾燥している日は発生しない。

いかがでしたか。虫嫌いな人からすれば気持ち悪いだけかもしれませんが、群飛はシロアリにとって、子孫を残す為の最も重要なイベントです。命をかけて一斉に飛び出していく様子は神秘的でもあると改めて思いました。

引き続き、羽アリの生態がどんなものなのか、今後も観察、調査を行っていく予定です。

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