アメリカカンザイシロアリの恐ろしい生態 . . . 分化の仕組みに迫る
- アメリカカンザイシロアリ
- 検証
- 生態
Index
目次
Researcher
- 田中 勇史
-
研究室長 2007年入社
シロアリ業務技術開発課専任課長
大学では昆虫類の研究に携わる。2007年テオリアハウスクリニックに新卒入社。 これまで3000件を超える家屋の床下を調査。皇居内の施設や帝釈天といった重要文化財の蟻害調査も実施。 大学の海外調査にも協力。
interviewはじめに
日本へはおよそ50年前に侵入し、甚大な被害を出しながらその生息域を現在もなお拡大し続けているアメリカカンザイシロアリ。
在来種のシロアリとは大きく異なる生態を数多く持っている恐ろしいシロアリですが、その中でも脅威と言われているのが擬職蟻(ぎしょくぎ)と呼ばれる特殊な働きアリの存在にあります。
アメリカカンザイシロアリでは働きアリすべてがこの擬職蟻であり、何が驚異的なのかと言うと、職蟻(働きアリ)がどの成長段階であっても生殖可能な個体へと変化ができる点です。
そこで今回は、老体の大型職蟻からでもコロニーは本当に復活してくるのか実際に検証をしてみることにしました。
以前にも同じような試験を実施したことがありますが、その際は環境の悪化により上手く分化を観察することができなかったため、今回は試験方法を変更し再挑戦した結果となります。
実験準備
試験区の準備
・容器:6cmシャーレ×3
・餌及び巣となるスプルース材
・湿度調整用床材:ベイツガ粉末
・供試虫:アメリカカンザイシロアリ擬職蟻20匹×3
手順
- 供試虫の確保:1試験区につき20匹×3セット
2. あらかじめ飼育セットを組んでおいたシャーレに放つ
3. 繁殖が行われるまでの期間を観察し、記録を付ける
明らかとなる脅威の生態 . . . 巧みな生存戦略の仕組み
結果からお伝えすると、3試験区全てにおいておよそ2ヶ月という期間で繁殖可能個体が出現したことが観察されました。
また3試験区のうち職蟻型の生殖可能個体が出現したのは1区のみでしたが、他の2区に関してはニンフへと分化しており、後にニンフ型の繁殖形態を取っていたことも判明しています。
さらに試験区2においては、兵蟻への分化も確認され、コロニー形態が元通り復活したことも観察してされています。
まさにこれがアメリカカンザイシロアリの恐ろしいところになります。
通常在来種のシロアリではまだ成長段階にある幼虫の職蟻からでなければニンフや兵蟻に変化することはできないのですが、アメリカカンザイシロアリでは成長段階は一切関係ないのです。
これは、たとえ生き残った個体が成熟職蟻のみであったとしても普通にコロニーが復活してしまうことを意味しています。
在来種にはあまりにも高すぎたハードル! :カンザイシロアリが導き出した答え
ここで、以前ヤマトシロアリでの分化試験を行ったところアメリカカンザイシロアリよりも早い約1ヶ月で生殖可能個体が発現していたことを思い出しました。
より早い段階で繁殖できる形態へと姿を変えられるのであれば、カンザイシロアリよりも優れた能力を持っているのではと思ってしまいますね。
ですがこれには様々な条件があって、どれだけその条件をクリアできるかで分化速度は「変わる」もしくは「できなくなる」と私は考えています。
その条件のハードルが、圧倒的にヤマトシロアリのほうが高いと思うのです。
ではここで、考えられる分化条件を挙げてみることにしましょう。
ヤマトシロアリでの条件
- 高湿度を保てる場所である
- 乾燥はNG
- 土壌中であること
- 生き残りが成長途中の職蟻でなければならない
- 数が25匹以上必要
アメリカカンザイシロアリでの条件
- 乾燥でも湿潤でも可
- 数も成長段階も関係ない
いかがでしょうか?
これを見れば、どれくらいヤマトシロアリでは分化するのに条件が厳しいかが分かると思います。
条件さえ整った環境であれば、ヤマトシロアリも比較的容易な分化をすることができるのですが、一度環境が崩れると途端に分化への道は遠ざかるといった印象を受けます。
一方でアメリカカンザイシロアリの場合、例えば水分を与えず乾燥過多になっていたりと、少々環境が悪化したとしてもすぐに順応できてしまうことがやはり恐ろしい適応力だと言えますね。
ただ、このカンザイシロアリの分化の仕組みができた背景には、逆にこの生息環境の厳しさが関係しているとも言えます。
常に乾燥状態の続く木材の中での生活は、シロアリにとってはかなり過酷な環境です。
そんな生息するのも厳しい場所でなんとか生き抜くために編み出した戦略こそが、擬職蟻という存在ということなんですね。
今回も非常に興味深い生態を見せてくれたアメリカカンザイシロアリですが、これはまだこのシロアリのことを理解するための扉を開いたに過ぎません。
言っても日本に侵入してまだ50年の歴史しかないシロアリですので、これからも新たな発見は次々見つかってくるのではないでしょうか。
私もその一人に加われるよう、地道な道のりではありますがまずは一つ一つ歩んで行けたらと思っています。
Related
関連記事
view all