【登山】伊豆の天城山を歩いてシロアリの生息限界がどこか突き止めてきた。

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Researcher

研究者プロフィール
木村 健人

研究員 2009年入社

経営企画部webマーケティング課専任課長

シロアリ・木材腐朽菌に対する防蟻・防腐薬剤性能評価、木材保存について在学中に携わる。 2009年テオリアハウスクリニックに新卒入社。 数千件のシロアリ調査および駆除工事に従事。趣味はシロアリ飼育。

interview

突然だが、シロアリって標高何mまでいると思うだろうか?

実はシロアリ界隈においても、何となく分かっているけどホントのところどうなの?といった感じで、日本におけるシロアリの生息最高地点は(恐らく)明確になっていない。

調べたところでどうすんの?という心無い声も聞こえて来そうだが、気になりだすと調べてみないと気がすまない私の性格。でも、誰も調べる人いないだろうな・・・となると、この脚で調べてくるしか無い・・・。

しかし、さすがに過酷な登山企画。登山歴20年とは言え一人では心もとないので、今回は白蟻専科メンバーで山林の動植物に詳しい田口さんにシロアリ探しをするとだけ伝えて同行してもらったのでその様子をレポートする。

朝6時

登山は早出早着が原則なので、早朝に出発して午前中の行動が鉄則。昼をすぎると天気の急変など危険が増すためゆっくり予定を組むのは絶対に避けよう!ということで、6時に集まってもらった。(これでも実は遅め)

木村

田口さんおはようございます・・・

田口

こんな早くに集合してどこまでシロアリを探しにいく気なんです・・?

木村

今日は訳あって伊豆の方面に行こうと思ってます・・。あんまり時間が無いのでまずは車に乗ってもらって・・早速いきましょう!

伊豆へは東京から3時間程度。ちょっとだけ遠いけど日帰りで行けなくもない絶妙な位置にある。6時に出発しても到着は9時。日帰りだと6時間程度の滞在となる。

田口

で、シロアリを探しに行くって、なんで伊豆まで・・・?

木村

今日はシロアリがどこまで生息しているかを調べるんです。日本では1100m付近までヤマトシロアリが生息しているって言われているんですが、実際にはもっと上の方にもいるんじゃないかと。

田口

なるほど。じゃあ結構高いことろまで登る感じ・・・?

木村

そうですね、伊豆最高峰の天城山です・・・!ちょうど登山口が1000mで山頂が1400mなので、ほぼシロアリの垂直分布限界なんです。だから山頂まで歩く中でシロアリの痕跡を探して標高をプロットしようかと。

田口

結構まじめに登山する感じなんですね・・・

そこには海もあり、山もあり、自然が豊かでご飯も美味しい!いいことしかない伊豆にあるのが今日登る天城山だ。

ちなみに、そのまま車に乗ってもらっているが登山は準備が大切・・!事前に山を歩ける装備と服装で来るように伝えているのでご安心を・・。具体的には、ザック、登山靴、雨具、防寒着、このあたりは必須だ。

また、山に入る際は登山計画書(登山届)を提出するのがマナー。静岡県の山についてはふじのくに電子申請サービスから提出することが可能だ。今回の登山も事前にこちらで申請しておいた。

9時 天城山登山口到着

木村

着きました・・・!ここが天城山の登山口ですね。ここが標高1000mくらいなので、ここから400mくらい登って山頂を目指しましょう!

木村

今日の工程はこんな感じですね。まずは万二郎岳という山に登ってから、最高峰の万三郎岳に向かいます。そのまま周回するように下って登山口に戻ってくる、という感じです。

田口

これで何時間くらいなんです・・?

木村

コースタイム的には4時間くらいなんですけど、いかんせん調査しながらなので6時間とか・・・?とりあえず今から登っても下山が15時とかになるので準備したら早速シロアリ探しをしていきましょう・・!

出典:地理院地図に登山ルートと経由地を追記して掲載

登山口からは15分程度歩いて分岐点「四辻」へ。その後左の沢沿いを1時間登ると万二郎岳だ。万二郎岳からは稜線を西方向に進み、いくつかのピークを越えると最高峰万三郎岳に到着する。下りは来た道を戻ってもいいが、今回は北斜面(通称シャクナゲコース)を回って戻るルートをとることにした。

登山口の情報
天城縦走登山口:静岡県伊豆市菅引638
天城山縦走登山口には登山者用の駐車場やトイレが設置されている。また、靴の洗い場まで完備されている。

登山開始

木村

まずは、万二郎岳に向けて登っていきましょう。その辺の枯れ木や標識を確認して、シロアリの被害が無いかを見ていきます。

ちなみに、時期的にシロアリが見られない可能性があるため痕跡が見つかれば生息有り、としてプロットするルールにした。検証日は4月下旬とは言え標高1000mの山ではまだ木々も芽吹きの季節だ。

と、登山口の前に置かれた廃材を見つめる2人。どうみてもシロアリがいそうな木材のように見えるが・・。

田口

これ、シロアリいますね・・?

木村

そうですね・・間違いなく・・

確認するとシロアリの痕跡が見つかり、幸先よくシロアリの生息跡を見つけることができた。このことからも、1000mであれば普通に生息しているのは間違いないと言えそうだ。

ちなみに、天城山の万二郎岳〜万三郎岳間は国立公園の特別保護地区内なので、生きた動植物の採取などは禁止されている点は要注意。国立公園内で動植物を観察する人は事前に調べておくことが大切だろう。

と、山に入って早々、上が気になって仕方がない田口さん。

田口

ちょうど朝の時間で野鳥がたくさん集まってるのが気になっちゃいますよね。ここまでですでにヒガラ、サンショウクイ、ミソサザイ、キビタキが囀ってるので撮影したい・・・

木村

すごい、鳴き声だけで鳥の種類がわかるんですね・・・!

実は田口さん、趣味で野鳥など里山に生息する動植物を撮影していてかなりの知識を持っている。この日はシロアリ探しだったので望遠レンズを持っていなかったが色々と説明していただいた。

ヒガラ(他所で田口さん撮影)

ミソサザイ(他所で田口さん撮影)

サンショウクイ(他所で田口さん撮影)

キビタキ(他所で田口さん撮影)

上の写真はどれも田口さんが趣味で撮影したもの。趣味って言うよりもプロレベルな気がする。

田口

これはマムシグサの一種で、おそらく天城山固有のアマギテンナンショウだと思います・・!天城には結構固有の植物が分布していて植物好きにも魅力的なんです。

木村

マムシグサは山登っているとたまに見かけますね。でも、固有種とか種類がたくさんあるのは知らなかった・・

木村

すごい・・木が根こそぎ倒れてますね・・

田口

これはヒノキですけど、針葉樹は深くまで伸びる直根がないので広葉樹よりも倒れやすいんですよね。治山の点で考えたら広葉樹の方がいいんですけど、倒れたら倒れたで昆虫などの住処になるので、一概に良い悪いとは言えないですね。

何かあるたびにその全てを解説してくれるので、シロアリ探しそっちのけで天城の自然に夢中になってしまう。すると、またしても何かを見つけた田口さん。

田口

これ、シカの骨だと思います。脛の骨、脛骨(けいこつ)ですね。伊豆半島もシカが多いんでしょう、さっきから歩いていて、シカが食べない植物しか残っていないのでなんとなく感じていたのですが。

確かに林床には植物が生えているものの、種類は限られていた。登山道でよく見かけたものは、トリカブトやアセビなどで、どちらも毒性のある植物のようだ。

チェックポイント「四辻」到着

と、30分ほど歩きながら調査をしていると四辻に到着した。コースタイムは15分ほどなので、ペース的にはかなりまずい。

木村

ここから左に折れて登りが始まるんですが、一気に300m以上上がるので今回の調査で1番重点的に見ていこうと思います・・!

が、意外とシロアリの痕跡は見つからない。シロアリの食害痕に似た木材はたくさん見つかるものの腐朽や他の昆虫の住処になっており、シロアリ探しの難しさを痛感する。

田口

この朽木は風化していてシロアリが入っていたか断定しずらいですね。ただ、他の昆虫の穴ではないかと思います。

木村

ここのヒノキの樹皮に蟻道があるんですけど、これもシロアリじゃなさそうですね。ケアリっぽいです。

シロアリも蟻道を作る習性を持つが、アリの仲間であるケアリも同様に蟻道を作る。前者は硬く後者は柔らかい。この蟻道は柔らかいケアリ(ハヤシケアリなど)だった。

と、万二郎岳までの区間でのシロアリ探しに苦戦していたが、ついに・・・

田口

あれ、これは・・・シロアリ・・・!

木村

まじですか・・!ほんとだ、年輪に沿って食害があるし、蟻土が付着してますね!

被害痕を見つけた場所は、標高1100m付近の沢沿い。やはりこの程度の標高であればシロアリは生息しているようだ。

ちょっと余裕ができた2人。シロアリの痕跡を見つけた場所でイロハモミジの巨木を見つける。推定樹齢100年以上(2人による推測)。

イロハモミジもそうだが、アセビやヒメシャラの大きさも目立つ。特にアセビは小低木とは思えないほどの大きさに成長しているものが多い。

木村

この山、ヒメシャラとアセビがすごく大きいですよね。

田口

確かに。アセビが有名って話だけど、アセビ林ってくらい多いからシロアリ的には良くなさそうなんですよね。

アセビは漢字で書くと馬酔木。馬が酔う様子から例えられているわけで、有毒植物として有名だ。枯死した木材には毒は無いそうだが、成長スピードからの硬さなどを考えるとシロアリは好かないのではないかと想像できる。

その後、さらに1箇所でシロアリの痕跡を見つけたが、土に埋まっており詳細は確認できず。掘り起こせば生息まで見れたかもしれないが、国立公園内ということもあり今回は目視だけに留めることにした。

ちなみに、こちらも標高1100mから1150mの等高線内。このあたりが生息限界なのだろうか。

そこから万二郎岳に近づくにつれ、急登の様相を呈してくる。1200mを越えると山の雰囲気が変わり、沢沿いのシロアリの雰囲気が無くなりつつあった。

田口

ん〜、これもシロアリでは無いですね。

なんとなくシロアリっぽさも感じるがこれもシロアリ以外が原因の劣化。これ以降、昆虫の害よりも木材腐朽による朽木の分解が目に付くようになってきた。

万二郎岳到着

と、そのまま登り続けると万二郎岳に到着。四辻から1時間20分なのでコースタイム(1時間)よりも20分オーバーだが時間的には問題なさそう。

木村

天城山には12年ぶりくらいに登ったんですけど、確か万三郎岳よりもこっちの万二郎岳の方が景色が良かったんで、ちょっと休みましょうか。

田口

こんな場所まで登らされるとは思ってなかったけど、やっぱ景色見ると疲れが取れますねぇ。しかもマメザクラが咲いていて雰囲気も良いし。

撮影したのは4月下旬。シロアリ探しで登ったとは言え、山頂でこの時期にお花見ができるなんてすごく贅沢。マメザクラやアセビの花期とちょうど重なるのがこの季節のようだ。

木村

このアセビも凄いですよね。四方八方に伸びてて凄い迫力・・・。

田口

普段は北関東の山が中心だから、こんな巨大なアセビがあるとはびっくりですね。天城山恐るべし・・・

このアセビ、シロアリ探しとは全く関係がないのだが、一見の価値はあると思う。多分樹齢100年越えているんじゃないだろうか(2人の想像)。

ある程度休憩したのち、稜線沿いを万三郎岳に向けて歩き始める。万二郎岳から万三郎岳までは、途中に馬の背、石楠立(はなだて)といったチェックポイントを通過し、1時間20分程度かかる稜線歩きだ。

田口

やっぱり、1200m越えてからはシロアリよりも腐朽って感じですね。これも褐色腐朽ですし。

木村

これも白色腐朽菌にやられていてシロアリは入ってなさそうですよね。

立ち枯れの木や倒木はどれも腐朽がひどく、シロアリが生息する雰囲気が見られない。植生がアセビ中心ということもあるのかもしれないが、今回歩いた中ではシロアリの痕跡を見ることが出来なかった。

稜線とはいえ、急なアップダウンがある。行程以上にしんどさを感じるコースだ。

馬の背から石楠立のあたりの通称「アセビのトンネル」。となりのトトロに出てくるあのシーンを連想させるワクワクな道にウキウキの2人。

田口

これ、ブナですけど、途中で幹が折れても死なずに折れたところがN字に伸びてますね

木村

凄い生命力じゃないですか。地面に倒れた場所から伸びてる・・まさにN字回復・・

石楠立を越えるとアセビが減りブナ帯へと変化する。伊豆のブナ帯は孤立しており、この一帯のブナ林が消失すれば伊豆半島からブナが消えることになってしまう。

田口

温暖な伊豆にブナが残っていること自体凄いですが、シロアリ的に考えるとブナは食べやすい木なので、シロアリ探しにはありがたいかも。

田口

あと、天城山といえばシャクナゲが有名ですが、まだ蕾ですね・・・。5月中旬くらいに咲くそうなのでちょっと惜しかった・・。

万三郎岳到着

万二郎岳から歩き続けること1時間20分。ほぼコースタイムどおりで天城山最高峰万三郎岳に到着。予想通り稜線沿いにはシロアリの生息を見つけることが出来なかった。

木村

1400mの山頂にはさすがにシロアリいないですね。標識の地際も全く食われてないです。

木村

でも、いないことが分かればそれでOKなので。とりあえずお昼にしますか。

田口

山のカップ麺とおにぎり。これ最高ですからね。

木村

うま・・・。

シャクナゲコースを下山

カップラーメンで腹ごしらえしたところで、あとはシャクナゲコースを下山して戻ればOK。下山しつつシロアリの痕跡を探していくものの、時間的に下山を優先することにした。

北斜面の急坂。一気に300mほど下る上に足元が悪く歩きづらい。しかし、ロケーションはなかなかいい。

田口

立ち枯れに新しい緑が生えているこの木、すごくいいですね。なんか、本来の自然の姿というか、なんというか・・。

木村

確かに・・神々しい。でもシロアリもいそう・・・。

1100m程度まで下りきると、あとは延々と苔生した斜面のトラバース。疲れた体に響く岩場の連続にシロアリ探しどころでは無くなっていた。しかし、苔の森は贅沢で神秘的。

※トラバース:山の斜面をほぼ水平に移動すること。ピークに登らずに山腹を巻くこと。

木村

これも凄い木っすね・・・。ほんと神が宿っていそうな感じ。

田口

ほんと疲れた体に染みる・・。

と、このあとも延々と歩きつづけ、終わらないトラバースとちょっとしたアップダウンを繰り返す。歩いても歩いても終わらず諦めかけた2時間後、ついに・・・。

登山口到着

田口

無事下山!お疲れ様でした・・・!

木村

ほんと疲れて死にかけました・・。いや、調査しながらの登山がこんなに辛いとは。田口さんほんと一緒にやってくれてありがとうございます・・・。

田口

とりあえずは噂の通り1100mくらいまでシロアリの痕跡があったので、目的は達成したんじゃない?

木村

確かにそれは良かったんですが、ちょっと日帰りで計画したのは無謀でしたね笑 このあと3時間運転って考えると・・・。もう次はこういう登山はしたくないっす。

田口

とは言え無事に下山できたわけですし、やっぱいずれは別の山域でリベンジしたいですね!

今回の天城山の調査では1000mから1150m付近にはシロアリの痕跡をみつけることができた。しかし、1200mを超えると痕跡は見当たらず腐朽菌による分解が主になっていくことが分かった。

天城山の植生はアセビやヒメシャラなどが中心で、シロアリが好む樹種が少ない。そういった点からも高標高での生息は考えにくいのかもしれない。

ただ、シロアリが居なくとも木材穿孔性昆虫の侵入や木材腐朽と、風雨による風化で枯死木の分解が進んでいることからも、標高の高いエリアではシロアリ以外の木材分解が主になっているのだと考えられる。

また、天城山は最高峰が1400mのため、最上部の環境が厳しいのもシロアリが見つからなかった要因である可能性もある。さらに、現地が国立公園の保護地区内であることも調査に支障をきたす結果となった。

そのため、最高標高が2000mを超える暖かい地域で、1000m付近から調べることができれば垂直分布の生息限界の新たな発見があるかもしれない。やるやらないは別として・・・。

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