「シロアリってどの程度の隙間なら通れるの?」を試した結果が割と意外だった
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Researcher
- 田中 勇史
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研究室長 2007年入社
シロアリ業務技術開発課専任課長
大学では昆虫類の研究に携わる。2007年テオリアハウスクリニックに新卒入社。 これまで3000件を超える家屋の床下を調査。皇居内の施設や帝釈天といった重要文化財の蟻害調査も実施。 大学の海外調査にも協力。
interviewはじめに
私がシロアリ業界に関わるようになって、もう17年になります。
これまでに様々なシロアリに関する知識を吸収して来た中で、前々から気になっていた情報があるんですよね。
「シロアリってどれくらいの隙間を通過できるのか?」
よく聞く話で、点検に伺ったりすると結構な確率で質問を受けていたなぁと今でも覚えていますね。
その時、私が話していたのは「シロアリは0.6mmの隙間さえあれば. . . 」なんです。
この0.6mmって数字がどこからでてきた数字なのか、うろ覚えでは当時良くしていただいていた先輩から教えてもらった情報だったように思えます。
でも、これってなんの根拠とかはなくただただ教えてもらった情報をずっと「そうなんだ」という頭で捉えていたんで、特に何も気にしたことがなかったんです。
ただ、色々とシロアリの試験を行えるようになってきた今、ふとそのことを確かめてみたいと思うようになり、やってみることにしました。
どうする?実験装置. . .
最初、シロアリが何mmの隙間を通過できるのかってどうやって確かめようかなと思いましたね。
しばらく考えた末に思いついたのが、円柱と円柱の間に穴の空いたプレートを挟み込み、片側に餌を入れておけば絶対にシロアリは餌のある空間に移動しようとするんじゃないかというものです。
1. 基材(餌となる木材粉末)投入
実際作ってる時はあんまり気になりませんでしたが、出来上がったものを見て「これでいけるのかなぁ?」とは正直思いました。
結構、器具類は複雑な造りのほうがいいかなと思って不安になることが私は多いんですけど、逆に「シンプル過ぎたほうがかえって良い結果を生むことだってあるよ」と心の中でいつも言い聞かせてますね。
2. 基材(餌となる木材粉末)投入
木材粉末は、事前に水と混ぜて練っておきました。
3. 供試虫の投入
投入するシロアリは、巣より選別しサイズをランダムで数は1セットにつき10匹に設定しました。
また投入する側にはシロアリ以外入れないことにより、劣悪状況を感じ取ったシロアリが移動をしやすくしています。
4. 各穿孔穴通過試験の開始 (試験区は3種 0.6mm、0.8mm、1.0mm)
3試験区においてシロアリが穿孔穴を通過して基材部に到達できるかを観察しています。
試験期間は1本につき1週間とし、それぞれに5回の反復試験にてデータを取りました。
非常に単純な装置ですが、これが結構理にかなっていると言いますかシロアリを投入する側の環境があまりにも過酷なため、早い段階で結果が得られることが分かってとても良かったです。
どういった結果になるか楽しみ!
まず、やってみるからには何かちょっとした予測を自分なりに立ててみたいと思ったんです。
0.6mmはどう?
特に実験装置を制作中に感じられたことがあって、0.6mmは想像以上に「小さい」ということでした。
ぱっと見てシロアリの胴体の幅って、絶対0.6mmを超えているよねって思っちゃいました。
例えば猫などでは頭さえ通ってしまえば、体はスルリと抜けられるという特殊能力がありますよね。
でも横に並べてみたらどう見ても頭の幅も超えているように思えたので、これは絶対に0.6mmは通過できないなと考えたんです。
0.8mmはどう?
これは幅的にシロアリの胴体とほぼ同じ幅なので、ギリギリ通過できるのではないかと予想してみました。
1.0mmはどう?
おそらくですが、このサイズがシロアリにとっては少し余裕のある径に思えました。
というのも、飼育管理中のヤマトシロアリが作っている巣内の通路幅を見たんです。
それがちょうど1mmほどでした。
この通路をすれ違うことはできないんですが、1匹であれば余裕を持って通過できていたので、普段から使っている通路幅であれば当然通過はできるだろうという判断です。
結果と結論
試験区1
まずは0.6mm径から見ていきましょう。
試験1回目:予想通りの結果で投入直後から分かったことですが、どう見ても通過はできないサイズの径でしたね。
何度も通過しようと頭を潜り込ませる行動が見られたけど、そもそも頭が入らないので無理なようですね。
試験2回目:初回同様の結果が得られました。
ここが結構大きなポイントかと思いますが、0.6mmの場合ワーカーサイズに関係なく通過ができない様子です。
試験3回目:同結果
試験4回目:同結果
試験5回目:同結果
結論
私が常々言っていた0.6mmという隙間はシロアリにはちょっと過酷すぎましたね。
結果からすると全ての個体(サイズに関係なく)が通過することはできませんでした。
試験区2
続いてシロアリは0.8mm径に挑戦です。
試験1回目:通過可能か不可能かで言うと「通過は一応できる?」というものでした。
結果を見ると10匹中2匹が通過できたんですが、残りはできませんでしたね。
ここで通過できるに?を付け加えたのには理由があって、それは通過できたサイズなんですよ。
実際通過できたのは1~2齡ほどの非常に小さなサイズであり、成体の職蟻は全く通過できていなかったんです。
これが意味することはいったい何でしょうね。
試験2回目:10匹中1匹通過を確認しました。
ただし、やはり通過できているのは小さな1~2齡であり、成体の職蟻通過は確認できませんでした。
試験3回目:ランダムに10匹を選んで投入しているため、1、2齡サイズが混ざらなかった試験区では突破できた個体は0という結果になりました。
試験4回目:結果は1/10 でした。
試験5回目:結果は0/10という結果に。
結論
一応通過できますが、サイズを選ぶことと大型個体は一切通過できないためこの結果からは、0.8mmもシロアリが通過するのは厳しい数値であるとしたほうが妥当ですね。
試験区3
最後に1mm径に挑戦してもらいます。
試験1回目:通過可能か不可能かで言うと予想通り、投入直後から通過していく個体が出てきて、最終的には10匹中10匹全てが通過していました。
サイズもランダムなんで、いろんな大きさのものを入れましたが終齢サイズの職蟻も関係なく通過できてましたね。
試験2回目:同結果
試験3回目:同結果
試験4回目:同結果
試験5回目:同結果
結論
1mm径はヤマトシロアリにとっては全く障害になる大きさではないということです。
最終結果をグラフにまとめてみました。
こう見ると差がすごいですよね。
たった0.2mmの違いですけど、0.8と1.0の間に非常に大きな壁があるんだなと実感しました。
こうなってくると、0.9mmを試したくなりますね。
0.9にすると半分くらいは通過できるようになるんですかね?
面白そうなので、これはまたの機会にやってみようと思います。
最後に
割とシロアリ業界の中で「シロアリってどのくらいの隙間だと通れるの?」という問に0.6mmとか1mm以下の僅かな隙間とかよく言われます。
結果から見ればシロアリも決してスーパーマンじゃないんでね、そんな特別狭い隙間を通れちゃうなんてことはないんですね。
私も結構「0.6mmの隙間さえあれば」と表現としてよく使ってしまっていましたので、この結果には少々驚きました。
ただまぁ厳密に言えばですよ、シロアリが突破しようとする隙間で有名なものですと例えば床下の土間コンクリートとかあると思うんですが、この土間コンクリートにできる隙間も全て同じ幅ではないですよね。
当然大きい隙間もあれば、小さな隙間もあります。
シロアリもリスクを負ってまで自分が通れるか通れないかのギリギリを攻めるよりは、より通過しやすい隙間を探して通ることをしています。
それに、コンクリートなどであれば劣化部からコンクリートの破片をちょっとずつ運び出して、穴を広げるなんて荒業もシロアリはできちゃいますから。
だからまぁ、このシロアリが何ミリの隙間があれば通過できるのかということについては、業者の話の中でも正確に何ミリということで話してるんじゃないんですよね。
要するに人が思っているよりも「狭い場所をシロアリは通過できちゃうんだよ」っていう分かりやすい表現として生まれた話なんでしょう。
ただ、この正確な数字を知るって、結構思いもしないような発見. . .今回で言えば「0.6mm通過できないんだ」ってことなんかは「実際へぇ~、そうなんだ」ってなりますし、ちょっと面白くないですか!
ずっと誰かに言われて「こうだ!」と思っていたことが覆される瞬間が私は好きなんですよね。
単純な結果なんですけどね、こういう小さな気付きが新たな施工方法のひらめきを生み出すことも実際あります。
例えばシロアリがどう頑張っても通過できないサイズが判明すれば、建築分野においてもそのサイズ以上の隙間を作らないような建て方を考えたりね。
他にもサイズが分かれば侵入できる箇所が把握できるということだから、作業効率の向上や無駄な処理箇所が減ることで薬剤使用量の削減にだって繋がります。
結構いろんな貢献が、こんなたったシロアリが通過できるサイズが分かっただけでも変わってくるんですよね。
だからこそ私は、ほんの些細な変化であっても大切な一つの情報・貴重なデータとして捉え、今後いろんな実験からシロアリ業界の発展に貢献できるような発見を一つでもこの手で掴んでみたいものです
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