ベイツガ粉末基材でシロアリを飼育する方法

  • 飼育

Researcher

研究者プロフィール
木村 健人

研究員 2009年入社

経営企画部webマーケティング課専任課長

シロアリ・木材腐朽菌に対する防蟻・防腐薬剤性能評価、木材保存について在学中に携わる。 2009年テオリアハウスクリニックに新卒入社。 数千件のシロアリ調査および駆除工事に従事。趣味はシロアリ飼育。

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シロアリを飼育する上で、飼育基材の選択は大変重要です。この記事では、ベイツガの粉末を使用したシロアリの飼育方法を解説します。

現状のシロアリ飼育基材について

以前執筆した記事では、アメリカカンザイシロアリのような純乾燥系の乾材シロアリには木材そのものを飼育基材にできることを紹介しました。逆に、水分を必要とするシロアリについては、現状、土やフレーク状の木材などで飼育する方法が中心です。

しかし、これらの飼育方法は菌類の発生や見た目の問題などがあるため改善の余地が残されています。

そこで、新たな基材の構築のために以下の点を考慮して飼育基材の構築を図りました。

  • 自在に形状を変えられるもの
  • 基材自体がエサであるもの
  • 雑菌が入りにくいもの

ベイツガの粉末を採用した理由

基材には、おが屑に水分を含ませて固形化したもの、おが粉に水分を含ませて固形化したもの、ティッシュ等の木質材料をふやかして半液状にしてから再形成したものの3つを検討しました。

これらは、任意の容器に詰めて入れられることが特徴で、隙間を作らず飼育容器を作ることができます。

では、この3つの中でおが粉に絞った理由が何かというと、固形化することができる点や、見た目の綺麗さが他の2つよりも優秀だったためです。

ベイツガという樹種を使う理由

木材の種類については、耐蟻性のあるヒノキなどは省いた上で調達が容易なベイツガを選びました。

ベイツガ粉末基材の作成方法

用意するものは以下の通りです。

  • 飼育用のケース(試験管など)
  • マドラーなど棒状のもの
  • ボール(混ぜる容器)
  • ティッシュ
  • ゴム手袋

作業をする際は、雑菌対策のためにゴム手袋を使用しましょう。

1.ボールを用意し、粉末を適量入れる

ボールなどの容器を用意し、そこにベイツガ粉末を入れます。入れる量は飼育ケースの容量の2倍〜6倍くらいが目安です。

2.そこに水を加え、混合する

容器に水を少しずつ加えて粉末を混ぜ合わせます。粉っぽさがある場合は、水を少しずつ追加して調整します。味噌のような質感になるまでしっかり混ぜましょう。

3.容器に基材を隙間ができないように詰める

用意した飼育用ケースに練った基材を詰めます。隙間ができないように押し込みながら詰めるときれいに整います。
今回は平らなケースに基材を詰めましたが、本来は試験管や円柱状のケースなどが最適です。

4.基材を軽く押して染み出た余分な水分を拭き取る

水分が多すぎると、乾燥する過程で縮んでしまいます。ティッシュなどを押し当てながら余分な水分を取り除きます。

5.1〜2日程度乾燥させて余分な水分を飛ばす

そのまま使用すると含水率が高すぎてシロアリが好まない可能性があるため、1〜2日程度蓋を開けた状態で乾燥させます。

使用(1日目〜61日目)

今回、飼育可否を判断するにあたって、乾材シロアリの一種、スギオシロアリを使用しました。スギオシロアリは乾材シロアリの中でも完全に乾燥した木材ではなくやや湿った木材で飼育することができます。

そして、今回使用したのは擬職蟻とニンフだけの巣分かれコロニーです。つまり、飼育をした結果、様々な形態に分化したかどうかを飼育成功の判断材料とすることができます。

1日目

今回作成した飼育容器の上面は5mm程度の空間を設けています。そのため、コロニーはこの空間に投入しました。

18日目

2週間以上が経過したタイミングで、擬職蟻、ニンフの数匹が副生殖虫に分化しました。(写真はニンフ型)

21日目

ニンフの羽化不全が発生。羽アリへの移行段階ですが、何かしらの要因で羽化が上手く行かない個体が2匹ほど発生しました。

39日目

39日目に確認したところ、ニンフの前兵蟻への分化が観察できました。また、卵が複数転がっていたためこの日よりも前から産卵が開始されていたようです。

61日目

前兵蟻が兵蟻に分化。写真は脱皮直後で色が薄い個体です。

数日後、色づいた兵蟻と羽アリ。兵蟻と同時に羽アリも複数匹羽化を確認しました。

結果

飼育を開始してから現時点で60日経過しています。結果として、死亡個体は発生せず副生殖虫、兵蟻(前兵蟻)への分化を確認したため、ベイツガ粉末を使用した飼育基材はシロアリ飼育が可能という判断をしました。

副生殖虫の発生から20日あまりで産卵も確認できたため、当飼育方法は現時点で良好と言えそうです。

課題

現状の課題として、基材に穿孔したら中が確認できなくなる点が挙げられます。これは、個体数が増える(穿孔が進む)ことで解決される可能性が高いですが、内部が見れないもどかしさは残ります。

今回の飼育に使用したケースは株式会社西務良製のプラスチックケースです。解決策として、より薄型のケースを使いケース側面を営巣場所にさせる方法が考えられます。

また、試験管を使用することで側面に強制的に営巣させることが可能なため、初期コロニーでは試験管を使用することも有効です。

今後

ベイツガ粉末の飼育基材はスギオシロアリでの飼育は問題ありませんでした。

一方で、ミゾガシラシロアリ科やオオシロアリ科などの湿った木材を好むシロアリに対しても有効かを検証する必要もあります。

現在、日本で一般的なヤマトシロアリでの使用については弊社の田中が検証中です。また、並行してイエシロアリの若コロニーにも使用しており良好な状態ですので、結果がでましたら改めてご報告いたします。

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