取り逃すと全滅確定!?野生シロアリ長期飼育で必ず捕まえるべき個体

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Researcher

研究者プロフィール
田中 勇史

研究室長 2007年入社

シロアリ業務技術開発課専任課長

大学では昆虫類の研究に携わる。2007年テオリアハウスクリニックに新卒入社。 これまで3000件を超える家屋の床下を調査。皇居内の施設や帝釈天といった重要文化財の蟻害調査も実施。 大学の海外調査にも協力。

interview

こんにちは。田中です。

今回は「ヤマトシロアリの長期飼育」についてお話していきます。

これまでいくつかのコラムで薬剤試験についてご紹介してきましたが、こういった試験をするためにはたくさんのシロアリが必要になります。

一応時期になれば山のように取れはするのですが、一番の理想はやはり手元で保管している状態を保つことです。

でもヤマトシロアリの長期飼育ってとても難しいんですよね。

長年にわたってヤマトシロアリの飼育実験をしていますが、最長記録は2年ほどです。それ以上はどうしても続かない。

これまで、飼育容器や用土の種類、土を使用しない方法などいろいろと試してきましたが、なかなか上手くいきませんね。

このページではその理由について、詳しく解説していきます。

ヤマトシロアリの長期飼育が難しい理由

どうしてシロアリの飼育がなんでそんなに難しいのか?一つ大きな問題を抱えていることは既にわかっています。

それは生殖虫、特に「王」の存在です。

理論上、生き物が繁殖するためには子供を作って数を増やす個体が必要です。当然ですよね

それはシロアリも同じ。巣の中には創設女王と創設王(最初の巣作りをするペア)がいて、子孫を増やしています。

ただし、シロアリの世界には変わった特徴があります。

捕獲の時点で飼育難易度は決まる

それは王と女王の寿命の違いです。

巣の創設女王は早い段階で死亡し、その代わりとなる副生殖虫(死んだ女王の代わりに繁殖行動を担う存在)に置き換わります。

一方、創設王の寿命は非常に長くて通常は巣の最後を迎えるまで生き続けます。

このことと、飼育が難しいことに何の繋がりがあるのか?

要するに、野外のシロアリを捕獲する際、創設王を捕まえられなければ巣を存続させる難易度がとても上がるということです。

王の不在はその巣の寿命、つまり巣の終わりを意味しており、王様の影響って想像以上に大きいんですよ。

でも、その王を見つけるのがとても難しいんです。

ヤマトシロアリは特定の巣を作らず、木材を食べた際にできる空間を巣として利用します。

その際、王様は中心部の最も強固に守られた箇所(例えば樹木の根の中心や倒木の中でも硬い芯の周りなど)に隠れているので、その姿を見れることはそうそうないのです。

飼育を始めた時にシロアリたちの中に王が存在していないことが、長期飼育を難しくしている原因の一つと言えます。

ちなみに補足として、羽アリのペアから巣を構築(ちょっとコツがいりますが)させた場合や、捕獲したコロニーの中に創設王がいた場合は、巣の存続も比較的容易になります。

「創設女王」と「創設王」の大きな違い

一応、シロアリも王がいなくなった時のことは想定しているようで、女王と同様に王の代わりとなる副王が生まれるようにはできています。

でも、副女王と異なり副王が生まれるのは滅多にないことなんです。

私としては「なんで創設王も創設女王と同様に簡単に置き換われるように進化しなかったのかな?」と不思議に思っているのですが、理由は分かりません(一応の仮説として、シロアリの血縁選択にでも影響が出てしまうからかな?とは思っています)。

長期飼育のカギを握る「副王誕生プロセス」

この副王を誕生させるプロセスについては解き明かしていきたいと強く思っています。

もしこのプロセスが理解できれば、野生のコロニーを捕獲した際に巣を存続させることは簡単になり、長期飼育の難易度もグンと下がるはずです。

しかし現状ではこの仕組みが分かっておらず、どうしてもヤマトシロアリの長期飼育難易度は高いですね。

とはいえ、これまでの経験である程度長期飼育を成功させる「コツ」自体はつかんでもいます。

現状でのシロアリ長期飼育のコツ

現在、手元で飼育管理しているヤマトシロアリは愛媛県で捕獲した個体群です。

創設王は見つかっていませんが、大量の副女王がいることは確認しており、これまでのヤマトシロアリコロニーとは違う雰囲気を感じており、非常に活性の高い巣に思えます。

なんとなく、副王が生まれて巣が出来上がっているのでは?と私は思っています。

このコロニーは、現時点で1年8ヶ月の飼育期間となっており、このまま行けば記録を更新できる可能性が出ていて、内心ワクワク感でいっぱいですよ。

経験上、やはり長期飼育をするには以下のポイントを抑える事が大事ですね

  • シロアリは、若い個体(職蟻での)もしくはニンフを多く入れること
  • 土飼育では、生息していた場所の土を用いること
  • 土を利用しないほうが長生きさせられる
  • 飼育で最も安定するのはキムタオルのみの飼育
  • 水は染み出さない程度の多加水
  • 容器は食品入れとしてよく用いられるタッパーが安価で良い

基本的には、活性の高いコロニーを捕獲できた際にはその場の土ごと飼育したほうが安定しますね。

それ以外では、私の場合ですけどキムタオルを束ねた擬似木を作成してそこに住まわせるのが最も長期飼育できる気がします。

ただ、先ほどもお話した通りやはり副王を作り出す方法については何としても解き明かしたいですね。これをマニュアル化できたらすごいことだなと思っています。

今後も、飼育記録は記事として随時更新していきますね。

まだまだお話したいことはたくさんありますが、今回はここら辺にして、次回のお楽しみとしましょう。

それではまた~。

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