年中無休!シロアリが冬でも活動を続ける理由

  • 生態
シロアリの行列

Researcher

研究者プロフィール
田中 勇史

研究室長 2007年入社

シロアリ業務技術開発課専任課長

大学では昆虫類の研究に携わる。2007年テオリアハウスクリニックに新卒入社。 これまで3000件を超える家屋の床下を調査。皇居内の施設や帝釈天といった重要文化財の蟻害調査も実施。 大学の海外調査にも協力。

interview

こんにちは。田中です。

今回はシロアリが「冬」をどう過ごすかについてお話ししていきます。

シロアリの春〜冬までの年間スケジュール

まずはシロアリが1年を通してどのように活動するのか、軽くご紹介します。シロアリの種類により一年のリズムはやや異なりますが、今回はヤマトシロアリの場合で見ていきましょう。

シロアリの活動時期は春先から始まります。

そして4~5月はシロアリにとって最初の大イベントとなる「羽アリシーズン」を迎えます。

その後、夏から秋にかけて活動を活発化させ、巣をどんどん拡大していきます。

冬になると動きがだんだん鈍くなり、やがて活動停滞時期に突入します。

シロアリと他の生き物との冬越し方法の違い

じゃあ、停滞期のシロアリはどのように冬を過ごすのでしょうか?

一般的に冬を越える生き物たちは「越冬」という形をとります。

活動を完全に停止してエネルギーの消費を極限まで下げることで、飲まず食わずのまま春まで耐えるのですが・・・

この「活動を完全に停止し」がシロアリとの決定的な違いです。

そう。シロアリは冬も活動を停止しないのです。

シロアリのように小さな生き物はエネルギー効率が悪くすぐに消費してしまうため、完全に活動を停止するのはかえって危険なのです。

そのため、必要最低限の活動には留めるものの、完全に動きを止めることはせず、冬の間も餌を求めて動いています。

とはいえ、活動の範囲は夏に比べてとても絞られ、巣として利用している場所からあまり離れることは無くなります。そのため、実際には冬場は建物の被害がほぼなくなってしまいます。

シロアリは夏と冬とで餌の食べ方が違う!?

自社で飼育しているシロアリたちを観察すると、冬も想像よりもはるかに活発に活動していることが分かります。

朝方や夜など気温が著しく下がる時間帯の活動はあまりしませんが、日中になると蟻道(シロアリが移動する専用の土のトンネル)内を頻繁に動き回り、地上付近まで出てきて餌を食べることだってします。

ただ、よく観察してみると夏と冬とでは餌の食べ方が違うこともわかります。

夏場の活動期では、蟻道をどんどん伸ばして餌全体を食害の対象としていました。

それに対し、冬場は地面の下から餌を探り、ちょうど餌の下に蟻道を構築することによって下側だけを食べることが多いように見えます。

これは、蟻道を上まで伸ばしてしまうと冷気の影響をもろに受けてしまうからだと思われます。

冬にシロアリの巣内で起こる「ある」変化

また、シロアリの巣内では冬の間に大きな変化が起こります。

それは、来年に飛び立つための羽アリ候補を沢山作ること。

羽アリの一段階前の姿はニンフと呼ばれ、細長い体に背中には羽をしまっておくためのウイングケースと呼ばれる袋が付いているのが特徴です。

羽アリに変化するのは来年春になってからなのですが、数か月前からもうその準備は始まっているのですね。

この動きの変化は、全て地面の下である土の中で行われているため普段見ることはできません。飼育しているからこそ、見ることができる世界なのです。

まとめ

冬がくるとシロアリは動かなくなってしまうと思われがちですが、実際は範囲を絞りながら活動し、餌(木材)だって食べてます。

普段目にすることができない部分に目を向けてみると、その生き物が持つ様々な違いや変化を見つけることができるのです。

これは一見些細なことに思うかもしれませんが侮ることはできません。

現在シロアリに使用されている薬剤は全てシロアリの習性を利用して作られています。行動の違いを見つけることで、新たなシロアリの対策に結びつく可能性だってあるのです。

このような些細な疑問に目を向けて実際に検証してみることで、新たな可能性が生まれていくのではないかと思います。

次回もお楽しみに!

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