シロアリの好む木材好まない木材検証してみた

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Researcher

研究者プロフィール
田中 勇史

研究室長 2007年入社

シロアリ業務技術開発課専任課長

大学では昆虫類の研究に携わる。2007年テオリアハウスクリニックに新卒入社。 これまで3000件を超える家屋の床下を調査。皇居内の施設や帝釈天といった重要文化財の蟻害調査も実施。 大学の海外調査にも協力。

interview

シロアリから見る木材

まず初めに皆さんがイメージするシロアリってどんなものかを考えてみましょう?

どんなものを想像しますか?と聞くと、真っ先に出てくるワードとしてはやはり「家を食べちゃう」というのが圧倒的に多いです。

もうこのシロアリの持つ木を食料としているという生態は、我々人々との関わりの中でほとんどの方に浸透し、既に定着しているものでもありますね。

そう、シロアリが食料としているものは木材!

シロアリからしてみたら所詮木材は単なる美味しい美味しい「食材」にしか見えてません。

ただ、皆さんの中には認識として「木」を食べると思われている方もいるんじゃないかなと思いますが、木を食べるとなってしまうとちょっと意味合いが変わってきますので注意が必要です。

木材を形作っている主要成分というのはリグノセルロースと言って、更にこのリグノセルロースを作っているのが、聞いたことある方もいるかもしれませんけどセルロースやヘミセルロース、それからリグニンというものになります。

シロアリが実際栄養としているのは、この木材を構成する主要成分のうちセルロースとヘミセルロースです。

木というと生きている樹木なども含まれますが、シロアリは実は生きた木には寄り付かないことをご存知でしょうか?

もちろん樹木(木)は生きている状態であってもセルロースなど主要構成成分は含まれていますけど、シロアリにはこの生きた樹木を食べられない理由があるんです。

それは、木が持つ防御システムによって防いでいるのですが、そちらは次の項でお話しましょう。

つまり、木を食べるとしてしまうと生きた木から全てを食べてしまうものとなりますが、実際はそうではなくあくまで「命の尽きた木」であることを覚えておくといいですね。

ここまでは建物と関連付けた「木材」としてお話しました。

ですが、シロアリって別に木材を木材とは思っていません。

先程もお伝えしたように、シロアリにとっては単なる食料です。

これはシロアリ本来の生活、シロアリが地球上でどのような役割をしているのかを理解すると木材がなんでただの餌にすぎないのかが見えてきます。

シロアリは約3億年前には地球上にいたと言われていて、地球上でのシロアリが担う重要な役割というのが「物質循環」というもの。

地球上で生きている動植物というのは必ずどこかで寿命が尽き、命が失われるものです。

それら動植物の死骸というのは、何もせず放置された状態では当然のことながらその場に残ったままなんですけど、例えば動物の死骸などは最初、屍肉を漁る動物や昆虫などのいわゆる屍肉動物に食べられ、最終的にはバクテリアなどの力を借りて土へと還元されています。

植物も同様に最終的には土へと還元されるのですが、植物は動物とはちょっと違って、厄介なところがあるんです。

植物の葉などは同じように植物食の動物がいるのでまぁ食べられたりするのは分かりますが、じゃあ幹とか枝ってなんか食べてるような動物のイメージ湧かなくないですか?

イメージが湧かないのも当然のことで、これらを分解できる生き物は実は地球上にそんなに多くはないんですよ。

その代表とも言える生き物こそがシロアリというわけです。

シロアリが本来担っている重要な土へと還すという仕事。

その中で彼らが担当しているのが、他の生き物では行うことができないセルロースなどの分解であり、地球上で命の尽きた樹木、つまりは倒れた倒木などを土へと還すことをしているのです。

彼らの仕事が行われなければ、新たな樹木の芽吹きも行われずやがては自然が失われることに繋がります。

シロアリはそんな地球の循環を手助けしている重要な存在なのですが、要するに私達が建築として利用している木材もシロアリからすれば倒れた倒木と一緒。

単純に彼らはいつも通りの物質循環をしているだけにすぎないのです。

木材から見るシロアリ:好む木材と好まない木材 . . . シロアリだって好き嫌いはある? 

先程、シロアリは生きている木には寄り付かないというお話をしました。

なんで、シロアリは生きていると食べることができないのか?

不思議ですよね。

これには樹木が持つ非常に優れた防御システムが関係しているのですが、何だと思いますか?

皆さん、この木が何の木かを見る時に匂いとかを判断基準にしたことってないでしょうか。

木にも様々な樹種が存在していて、それぞれに特徴的な香りを持っていますね。

例えば、ヒノキなんかは分かりやすいんじゃないでしょうか。

誰しもこの香りを嗅いだ瞬間に「ヒノキだ!」と分かると思います。

生きた木がなぜシロアリに狙われないのかという答えがここにあります。

樹木が持つこの香りこそがシロアリなどの木材加害害虫から身を守るための防御手段なのです。

樹木もなにも黙って食べられているわけではなくて、生きている木はちゃんと自分自身で対策を取っているため、シロアリは食べることができないんですね。

生きている状態では常に強力な防御システムである香り成分の生成が行われていて途切れることはないんですが、木材など加工がされてしまうといわゆる命が失われた状態になるので、その防御システムがストップしてしまい機能しなくなるため食害を受けることになります。

ですが、もちろんその香り成分にも様々なものが存在していて木材となったあともある程度の効果を持続し続けられるものも実は存在します。

それは、一般にはシロアリに好まれない木材として紹介されていることが多いですね。

シロアリが嫌う木材の持つ特有の香り成分、その代表格となるものがテルペン類と呼ばれるものになります。

木材の持つ香りは精油成分からなり、その組み合わせによって樹種ごとのあの特有の香りは生まれています。

この精油成分は別名フィトンチッドとも呼ばれていて、もしかしたらこちらの名前で聞いたことあるよ、知ってるよという方もいるかもしれません。

この精油成分の組み合わせは樹種にもよりますが、多くは数十種類からなるものが多いです。

先程、例として上げたヒノキやヒバといった樹種は特に多くのテルペン類が含まれていると言われ、シロアリが好まない樹種としても有名ですね。

皆さん、一度は聞いたことがあるかもしれませんが「ヒノキチオール」という成分。

最近では園芸で苔を育てる方が増えてきていて、苔を育てるには多くの湿度を必要とします。

湿度が高ければ当然カビが発生したり、いろんな菌が蔓延したりして意外と工夫しなければ育てることは難しいのですが、このヒノキチオールをスプレーしておくと高い防腐・防カビ効果が得られることから苔栽培に一役買っていたりしますね。

このように樹木が持っているテルペン類には様々な抑制効果があって、その中の一つに防蟻効果もあるわけです。

ちなみに皆さんはこのヒノキチオールという成分、名前からしてヒノキに多く含まれていると思っていませんか?

実を言うと日本のヒノキにはごくわずかしかヒノキチオールは含まれていないことがわかっているんです。

じゃあ、なんでヒノキチオールなんて名前が付いているのかと言うと、初めて発見されたのが海外種のタイワンヒノキから見つかったからです。

日本のヒノキではないんですよね。

でも、その代わり国産ヒノキには似てるけどヒノキオールやα-カジノール、ピネンといった別のテルペン類を多く含んでいます。

実際、国産材でヒノキチオールを多量に含む樹種は「ヒバ」になりますので覚えておきましよう。

防蟻効果に関しては、このテルペン類の含有量の多さで決まるとされ、多く含む樹種ほどシロアリの食害を防ぐと言われてきましたし、古くから建築材料としても広く用いられてきました。

少し例を挙げると、スギにはヒノキチオールではないですがδ-カジネンを多く含み、これが防腐防虫効果を発揮します。

その他、ローズウッドはバラのような甘い香りに少し野性的な木質の香りを混ぜた匂いを放つ木材でこの香りは主にモノテルペンアルコール類由来であり、これらが高い防蟻防腐効果を持っているのです。

高い防蟻防腐効果に秘められた罠

一つ、よくこの「高い防蟻防腐効果がある」と言われることは多いのですが、ここにちょっとした罠が存在していることをご存知でしょうか?

木材の耐久性の話にもつながるのですが、この防蟻・防腐効果のあるテルペン類が木材のどこに多く含まれてるか、それが問題なんです。

基本的にこれらテルペン類が多量に蓄積されている場所というのは、木材で言うところの心材と呼ばれる箇所になります。

建築において、心材だけを使って建てたのならまだいいのですが一般的には心材はその防腐・防蟻効果から構造部材に用いられ、見た目を重要視するような仕上げ材には辺材が使われます。

要するに結局のところ、どんなに防蟻効果の高い樹種を使っていようとテルペン類の含有量が少ない辺材部分が用いられている以上シロアリ被害は出ます。

昔から総ヒノキの家を建てればシロアリに食べられる心配はないと言われ続けてきたことは確かですが、この木の持つ自然防蟻効果をもたらすテルペン類を過大評価し過ぎると痛い目に遭うことは間違いありません。

シロアリも地球上に現れて実に3億年、伊達に「あの木は食べられないな」とただただ指を咥えて生きてきたわけではないんですね。

実際のところシロアリにとってのテルペン類は、たかが嫌いな成分というだけであって我慢すればいいだけの話なんですよ。

つまりは、そこに餌となるものがヒノキしかなければ普通に食べますし、それが心材であったとしても食べるときは食べます。

実際、私も調査をしている中でヒノキ住宅での被害に出会ったこともありますが、その時もやはり辺材の部分は完全に食べられ、心材部にも食い入っている場面も見てきました。

単純にヒノキを使っているから安心というわけではないのです。

樹種別防蟻性能試験から見えてきたヒノキ神話の崩壊

ここからは、弊社が実際行った樹種別の防蟻性能試験の結果をお見せしたいと思います。

まず、弊社で行った性能試験では樹種として3種を用意しました。

供試材の種類

  1. マツ材
  2. ヒノキ材
  3. ヒバ材

内容は一ヶ月間での防蟻効果がどれだけあるかとテルペン類を多く含む樹種であっても被害を受けるのかを検証したものです。

一般的に試験で用いられるシロアリはイエシロアリが多いのですが、今回使用したシロアリはより身近に生息しているヤマトシロアリでの検証結果になります。

また、マツ材を用いたのは最も被害に遭いやすい樹種代表として選出し、一般的に防蟻性能の高いとされる樹種との比較に用いました。

まずは比較用として選出したマツ材から見ていきますが、結論を申し上げますと最も被害に遭う樹種代表ですので、もちろん今回試験を行った3種の中では一番大きな被害を見せてくれました。

マツ材にはシロアリが嫌がる成分などは含まれていないため、何のためらいもなく幾つもの蟻道を構築し、蟻土と呼ばれる土で表面を覆う行動まで見せてくれていますね。

被害はこの覆われた箇所から始まり、一ヶ月間と短い期間ではあったものの面状に被害が進行していったことが分かります。

マツ材は曲げ剛性が高いことでも知られ、主に梁材としての利用が盛んです。

被害に遭いやすい樹種として建築材としても高い位置での使用が多いですが、水を運ぶ力が弱いヤマトシロアリでは確かに被害を受けにくいかもしれません。

ですが、運搬能力に長けたイエシロアリでは関係なく被害を受ける可能性があることは頭に入れておくといいでしょう。

次にヒノキ材を見てみましょう。

ヒノキにはヒノキオールなど様々なテルペン類が多く含まれており、高い防蟻効果を発揮すると言われていますが今回の食害試験においても分かる通り、実際ヒノキをシロアリは嫌うことはありませんでした。

確認してみると堂々と蟻道を構築し、木材の上を平気で歩き回る行動が頻繁に見られていて、忌避効果(嫌がる効果)すら与えていないことが結果から見えていますね。

更に、たった一ヶ月という短い期間でありながらも普通に食害が始まってしまったことからしてもシロアリにとってのヒノキというものは多少食べづらいとは感じても単なる食べ物という認識でいることは明らかです。

最後はヒバ材になりますが、ヒバ材はさすがに防蟻性能がかなり高いとされる樹種ということもありよく健闘してくれましたが、結果から言うとこれも食害を受けました。

確かに他の樹種に比べると蟻道の構築が見られなかったり、一ヶ月間の中で最後の最後に食害が開始されたという反応の遅さから見てもとても優秀な樹種であるとは言えますが、それでもたった一ヶ月しか持たせることはできませんでしたね。

まとめ

いかがだったでしょうか。

今回は、シロアリと木材について様々な観点からシロアリとの関係や木材としての危険性などに触れてきました。

これまでお話してきた内容やデータを見ても分かる通り、木材の持つ能力だけではシロアリの脅威から木材を守ることには限界があることはなんとなくお分かりいただけたのではないでしょうか。

つまり、シロアリには好む木材・好まない木材はあったとしてもですね、食べられない木材は存在していないということなんです。

ということは、私たちはどのように考え、行動すればいいと思いますか?

その一つに「予防」という考え方があります。

食べられない木材が存在しないのであれば、単純に建物に入れないようにしてしまえばいいわけです。

シロアリは最初にもお話しましたが、地球上での物質循環を担う最重要昆虫の一つであり、彼らがいなければ地球の環境は保つことができません。

私たちは何かと人間の立場からシロアリは害虫であり、「全てを駆除しなければ」と考えてしまうもの。

ですが、冷静に考えれば被害が出なければそれで良いのです。

私たちは今後シロアリと上手く共存できる方法を考えていかなければいけません。

そのためには床下のチェックを行い、被害の出ていないうちに予め予防対策を施しておこうという意識を持つこと、これが非常に大切なことなのです。

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