虫と光の関係性 街灯に集まる羽アリの真相に迫る

  • 生態

Researcher

研究者プロフィール
田中 勇史

研究室長 2007年入社

シロアリ業務技術開発課専任課長

大学では昆虫類の研究に携わる。2007年テオリアハウスクリニックに新卒入社。 これまで3000件を超える家屋の床下を調査。皇居内の施設や帝釈天といった重要文化財の蟻害調査も実施。 大学の海外調査にも協力。

interview

虫が光に集まる理由:なぜ集まるの?

皆さんは、夜になると街の街灯などに様々な虫が飛び交う光景を目にしたことはあると思います。

でも、よく気にして見てますという方はなんとなく気づいているかもしれませんが、最近では街の灯りに虫が飛ぶ姿をほとんど見なくなったと思いませんか?

これがなぜだか分かりますでしょうか。

虫が光に引き寄せられる性質、これには名前が付いています。

「正の走光性」… 普段聞き慣れない名前だから、何それって感じですよね。

ちなみに逆の性質、虫が光に集まらない現象のことを負の走光性と呼んだりします。

走光性の性質を持つ虫の飛行は、光に対しほぼ一定の角度を保つようにして飛んでいると言われ、光に向かう性質があるため街灯などの光を発する光源があると街灯などではぐるっと円を描くように光が下方向に照らされるので、虫たちはその光に対して一定の角度を保って飛ぼうとしてぐるぐると街灯下を回ってしまうというわけですね。

でも、先程現在の街灯にはほとんど虫が寄って来なくなったという話をしました。

この理由は何なのでしょうか?

それには、もう一つの理由を説明すると見えてきますよ。

もう一つ虫が光に引き寄せられる理由に紫外線というものがあります。

紫外線という言葉は聞いたことありますでしょうか?

可視光線(いわゆる7色)よりも波長の長い不可視光線の電磁波で、7色のうち紫の外側に位

置する光なので紫外線と言います。

紫外線と聞くとピンと来ない方もいるかも知れませんが、皆さんが良く知っていることとしては、紫外線を受け続けると日焼けの原因になるとか、あとブラックライトも有名ですよね。

街灯の明かりには虫を引き寄せる紫外線を多く発するもの(特に古いタイプは発する率が高い)がありまして、夜虫たちは紫外線の光を頼りに飛んでいることがほとんどなのです。

そのため、紫外線を多く発する街灯下では虫たちは四方八方に発せられる紫外線に釣られて周囲を回ってしまうことになります。

いろいろと走光性を持つ昆虫はいますが、シロアリはどうなのかと言いますと種類によって様々ですけど多かれ少なかれ走光性は持っていることが分かっています。

この差というのは羽蟻の飛ぶ時間帯の違いによって変わり、日中に飛ぶ種類ほど走光性は薄まる傾向があります。

私たちが良く目にするヤマトシロアリは昼間に飛ぶ種類であり、海岸線沿いや関西方面に多いイエシロアリは夕方から夜にかけて飛ぶので正の走光性はイエシロアリの方が強く出ます。

だからといってヤマトシロアリが光に集まらないかと言えば嘘になります。

ヤマトシロアリでも電灯に集まって飛び交う光景をシロアリ被害現場ではよく目にしますしね。

 先程の問に戻りますが、なぜ最近の街灯には虫があまり寄っていないのか? 

それは、以前より多く使われていた蛍光灯からLED照明へとほとんどの街灯が切り替わっているためなのです。

 切り替わったからなんなの?ってことですけど、虫が飛ぶ際に利用している紫外線は、蛍光灯では強く照射されていて、LEDでは紫外線がほとんど含まれていない場合が大半だからです。

 要するに虫が目印としている紫外線がほぼ出ていないLED照明では、そもそも集まる理由がないのですね。

 先程から、「ほぼ」とか「ほとんど」という表現を使っているのにも理由があります。

 では、本当にLED照明にしたら完全に虫は寄らないのか?

 答えはNOです。

 その答えが先程の表現にも現れれている通り、LEDにも紫外線を含むものが存在しているためです。

 そのため、「寄りにくい」ということは言えても「寄らない」ということは言えないのですね。

 また、更に厄介なことに虫の中には正の走行性がないのに街灯下に集まってくるものもいるんですよ。 

例えば、ゴキブリなどがそうですね。

 これらは、紫外線などを頼りに動いている訳ではなくて、単純に光の下などには餌が多いなどの理由から集まっている場合が多いから、その場合たとえLED照明にしていたとしても効果は期待できないということです。

 虫の光に対する反応って気にしなければそれまでなのですが、なんで「集まってるの?」ってことを紐解いていくと新しい発見などが見えてくると思います。

街灯に集まる羽アリ シロアリ被害リスクの可能性を探る:真の危険は別にある

シロアリ被害のリスクを考える上で、羽アリが発生しているということは大きな指標の一つとなりうるのですが、そもそも羽アリが発生した場所は確認しておくようにしましょう。

これが建物の中なのか外なのかでも大きく変わってきますよ。

まず、集まっているのが外の街灯であった場合のリスクは極端に低いと言えます。

なぜなら、仮に街灯などにシロアリの羽アリが集まっていたとしても、それらが建物に直接侵入していきなり被害が発生することはないからです。

土中生活種に分類されるヤマトシロアリやイエシロアリでは羽アリが直接建物に侵入して被害を出すのではなく、一度地中に潜り巣がある程度出来上がった後、建物に侵入してきます。

夜の街灯に集まるということからして、ヤマトシロアリではなくイエシロアリが当てはまってくる(ヤマトシロアリが飛ぶ時間帯は日中であり、夕方から点灯する街灯の光には物理的に集まれないからです)が街灯に集まっている場合は外での現象なので、これはもう自然現象と捉えてしまって構いません。

問題なのは室内からの発生のパターンです。

室内では主に電灯への飛来となるわけですが、その数を見ておく必要があります。

室内発生の場合、気をつけなければならないことが数匹からせいぜい数十個体くらいまでならほとんどの場合、外からの侵入を疑います。

羽アリシーズンであれば、外で飛翔したシロアリが室内の明かりに反応して侵入してくることもよくあるからです。

数を見た時に部屋中に無数の羽アリが飛んでいたり、数にして数百~千単位での発生が確認された場合は、室内発生を疑いこれだけの規模が出てきているということは既に建物のどこかに大きな被害が発生していると考えられます。

もし、室内での発生が疑われた場合には早いうちに専門の業者に一度診てもらうことをオススメします。

シロアリの不思議:疑問に思う光への反応

ここまでの話の中で、そもそも虫が光に集まる理由ってなんだろうってことに触れました。

 原因は、正の走光性やら紫外線やらが関係してましたよね。

 そんな中、正の走行性や紫外線への感受性がない生き物の例えとしてゴキブリを挙げました。

 ここでちょっと疑問が湧いたのです。

 シロアリって大きなくくりで言ったらゴキブリに近い仲間ですけど、シロアリにも同じように正の走行性や紫外線への感受性はないのかということ。

一般的に皆さんが想像するシロアリは、職蟻と呼ばれる餌探しなどを担当する係のシロアリたちです。

これらのシロアリは通常は地面の下、つまり土の中で行動しており、地上をアリなどのように徘徊することはありません。

地上に出る際にも、必ず蟻道と呼ばれるトンネル状の通路を確保し、光や空気の流れを遮断するようにして移動します。

この2つの嫌う条件で見てみると、どちらかと言えば「空気の流れ」を嫌う傾向にありますね。

密閉した空間で飼育していると、表を普通に歩くシロアリの姿を確認することができるので、そこまで皆さんが思っているほど光は嫌っていないことが分かります。

まぁ、とはいえ蟻道も作っているので全く無関心というわけではないようですが。

一方で空気の流れは極端に嫌い、蓋を開けると一斉に地面の中に潜ってしまいます。

では、正の走光性があるかというとそういうことでもないようです。

光を照射しても、そこに向かって移動し、集まるという行動は見受けられないからです。

そこは同じゴキブリの仲間、やはり走行性はないということでしょうか?

もともと日本に生息しているシロアリ(ヤマトシロアリ)ではそんな行動って少ないのですが、アメリカから来た侵略者であるアメリカカンザイシロアリではちょっと面白い現象を見たことがあるんですよ。

仕事がら、アメリカカンザイシロアリが多く生息している地域に足を運ぶことも多いのですが、その現象を見たのは梅雨に入るちょっと前、5月末~6月くらいに見られました。

ちょうどアメリカカンザイシロアリの羽アリシーズンが始まる頃に当たります。

そこで見た光景は、研究者の方も驚くものでした。

それは、白い壁や白いブロック塀など白いものに集団で集まっている羽アリの姿。

今、思ってみれば以前、私の上司も洋服によく羽アリが集っていると言っていて、その際の洋服の色も白色主体であったとのことでした。

まぁ、ただ虫が白いものに集まるというのは前々から言われていることで、なんら不思議なことではありません。

その主な原因も白色は良く紫外線を反射するためと言われます。

でも、そうなるとシロアリはゴキブリの仲間でゴキブリは紫外線への感受性がないから同じく紫外線には反応しないのではと思ってしまう。

研究者の方も不思議に思い、紫外線への反応試験を行ってみることになったのです。

羽アリのよく発生する場所に紫外線発光する装置を取り付けた機材を設置し、周辺にあるトラップにどれだけの羽アリが捕獲されるのかを調べてみました。

その際の試験には私も参加し、捕獲数の確認等をしていたのですが、結果は「あれっ?」というものでした。

意外にもほとんど捕獲はされず、数匹の羽を落とした個体が捕まっていた感じ。

状況から判断して、これも寄ってきて捕まったというよりはたまたま歩いていて引っかかったような雰囲気でしたね。

つまり、羽アリには紫外線への感受性はない。

では、なぜ白色のところに集まっていたのでしょうね?

結論、正直なところ原因はよくわかりません。

でもこの現象は数度確認しており、何らかの条件が羽アリを寄せ付けているのだとは思っています。

一つ、その白い壁などに使われている塗料の成分の中にシロアリのフェロモンに近い匂いが含まれていて引き寄せられている可能性はありそうな気もしますが、どうでしょうね?

その理由は一体なんなのか? ぜひ解明してみたいものですね。

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