ヤマトシロアリ:本当に少数からでも巣の復活ができるのか検証してみました。

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Researcher

研究者プロフィール
田中 勇史

研究室長 2007年入社

シロアリ業務技術開発課専任課長

大学では昆虫類の研究に携わる。2007年テオリアハウスクリニックに新卒入社。 これまで3000件を超える家屋の床下を調査。皇居内の施設や帝釈天といった重要文化財の蟻害調査も実施。 大学の海外調査にも協力。

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はじめに

これまでヤマトシロアリの生態に関しては、多くの興味深い行動として女王のコピーによる巣の爆発的増殖機構や寿命の長さなどが報告されていますが、今回はその中でも昔から言われている何匹生き残ったら巣は復活できるのか?という疑問。

 よく言われるのが25匹という数字です。

 なぜ、25匹なのかという新たな疑問も湧いてきますが、今回そもそも本当に復活はできるのかについてその真相を検証してみることにします。 

使用した材料

では、今回試験に使用した試験区の材料や作成方法についてご紹介します。

 材料

・プラスチック製シャーレ(6cmシャーレ)

・巣材(ベイツガ粉末)

・シロアリ(成長途中の職蟻:25匹)

 使用する材料に関しては単純な飼育観察用のため、簡易的なセットで今回は組んでいます。

 用いたシロアリ

試験に用いたシロアリに関しては、ヤマトシロアリの分化の仕組みから成長しきってしまった職蟻からはその他の形態への分化ができない、もしくは非常になりにくいという報告があることから、今回は分化可能な若い職蟻を選抜して使用しています。

 試験手順について

1.       シャーレに巣材を詰める

巣材として使用するベイツガ粉末基材は、専科記事にあるベイツガ粉末基材の作成方法と同様の作成方法で作った基材を使用しています。

ベイツガ粉末基材でシロアリを飼育する方法
https://shiroari-senka.com/article/902/

作成した基材をシャーレに詰める時には、なるべく観察しやすいように潜れるギリギリの薄さで敷き詰めるようにします。

2.       シャーレにシロアリを放つ

シロアリを投入した後は、基材を薄く敷いていることもあって想像しているよりも早く乾燥してしまい、シロアリが弱る可能性があるため定期的な水分補給を心がけます

3.       観察の開始

作成した8試験区の中で、それぞれ投入した25匹ずつのシロアリからどれくらいの期間で生殖虫が発現してくるのかを観察しました。

 実際に試験を開始する前に事前の予測をしてみたのですが、私の予想では分化はできますが、分化までには期間としてかなり時間がかかると予測。

おそらくは約1ヶ月が一つの目安となるだろうと仮説を立てました。

 なぜなら、まずシロアリが自分たちの置かれた状況を把握するまでにある程度の時間が必要な点と、シロアリが分化を始めるには体内ホルモンの調節が必要なためその準備にも時間がかかるためです。

 観察結果

1.       生存率

全8試験区におけるシロアリの生存率を調べたところ、2試験区で全滅、その他では一番生存率が高いもので80%、悪いものでは32%、平均で48%と全体で見てみるとあまり生存率は高くない印象ですね。

 試験区の生存率を上げるための工夫には、基材そのものが餌となる物を使用していたことや定期的な水分補給を行い、乾燥に弱いヤマトシロアリに対応したことなどが挙げられますが、それでも生存率が低かったのはそれだけ野外であっても若い職蟻のみ25匹という少なさはやはり過酷なのかもしれません。

2.       分化はできたのか

では、実際に分化はできたのかということですが、結論は「できる」という結果でした。

 グラフからも分かる通り、8試験区のうち3試験区に関して生殖虫への分化が発現したことを確認しました。

各試験区にて発生した2次生殖虫を見てみると、ある特徴が見て取れます。

2次生殖虫の発生には2つのパターンがあって、一つはニンフから分化するタイプでもう一つが職蟻から分化するタイプです。

今回の試験に用いた試験体は全て若い職蟻を使っているので、発生する2次生殖虫は胸部背板にウイングケースを持たない職蟻型の2次生殖虫であることが分かりますね。

ただ、一つだけ生殖虫ではなく兵蟻に分化した試験区があり、何が生殖虫と兵蟻を分けた要因となったのかまでは分かりません。

 分化が始まった期間としては、予想通り約1ヶ月という結果でした。

 まだその他の試験区においては分化の発現は確認できていませんが、個体を観察してみると脱皮による成長は確認できることから、もうしばらく観察を続けるとおそらくは生殖虫は発現してくると思います。

脱皮を行い成長段階にある職蟻

 結論として、ヤマトシロアリが25匹の職蟻から生殖虫が出現するまで約1から1.5ヶ月の期間を要するが分化そのものはでき、巣はその後復活していくことが明らかとなりました。

まとめ

いかがだったでしょうか。

今回、これまでシロアリ駆除を行ってきた中で頻繁ではないものの、駆除を行ってまもなく再発の連絡が入り、調べてみるともしかしたら生き残りがいた可能性が考えられる物件があった場合、なんとなく25匹の生き残りがいたら巣は復活できるという話は聞いたことはあっても本当に復活できるのか、その真相を調べたデータがあまりなかったので実際に調べてみました。

その結果は、私の中では25匹の生き残りが出たとしても巣が再生されることはほとんどないと思っていたのですが、試験を実施した8試験区中、3試験区で副生殖虫の発生が確認され、実際に37.5%の確率で巣の復活が行われることが明らかとなりました。

この数字は予想をかなり上回る結果で、かなりの確率で巣は復活の道を辿るということを意味しているので、今後のヤマトシロアリの駆除のあり方を考え直さなければいけなくなる可能性も十分にありえる内容のものです。

今後は匹数を変更してデータを取ってみるなど、詳細な分化の仕組みを解き明かしていければヤマトシロアリへのより深い理解が得られることでしょう。

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