イエシロアリのコロニー創設方法と成功確率

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Researcher

研究者プロフィール
木村 健人

研究員 2009年入社

経営企画部webマーケティング課専任課長

シロアリ・木材腐朽菌に対する防蟻・防腐薬剤性能評価、木材保存について在学中に携わる。 2009年テオリアハウスクリニックに新卒入社。 数千件のシロアリ調査および駆除工事に従事。趣味はシロアリ飼育。

interview

白蟻専科では様々なシロアリを飼育管理していますが、検証などに供試虫として使用するシロアリの安定的なストックに問題を抱えています。

特に、イエシロアリについては営業所近郊に生息地が無く、気軽に採集することができません。そこで飼育管理と平行して行っているのが、イエシロアリの人工コロニー創設の研究です。

当記事では、イエシロアリの女王、王の採集からコロニー創設を人工的に行った結果をご報告します。

イエシロアリのコロニー創設について

イエシロアリに限らずシロアリの繁殖は一般的に群飛と呼ばれる羽アリの飛行によって行われます。群飛はシロアリの種類によって時期が決まっていて、イエシロアリの場合は6月から7月ごろの夕刻です。

一度に数千匹を超える羽アリ(のちの女王と王)が巣から飛び出してお互いにペアを探し合います。このとき、ほとんどの羽アリたちは外敵に襲われてしまったり、うまくペアを見つけることができなくて死んでしまうようです。

運良くペアとなったものは枯れ木などの中に潜り込み営巣しますが、それでもその環境が劣悪だと彼らもやがて死んでしまう運命を辿ります。

営巣がうまくいったものは、「産卵→幼虫の孵化→働きアリなどの誕生」という流れで成長し、これまで自ら幼虫たちの世話をしていた女王は産卵に専念するようになるようです。そこからコロニーは大きく成長し、非常に大きな巣を構築することになります。

イエシロアリの飼育によるコロニー創設の方法

イエシロアリのコロニー創設は飼育準備と羽アリ採集さえできれば難しくはなく、過去の成功率も低くありません。ただ、実際の成功率などについては調査したことは無く、本当のところは分かっていませんでした。そこで、当研究では採集から飼育までの観察を行うことで実際の結果を明らかにします。

流れ

1.イエシロアリの生息地を見つける
2.飼育容器を作成する
3.群飛が行われそうな日の19時〜21時ごろに外灯に集まった羽アリを採集する
4.当日中にペアリングし、飼育容器に移す
5.定期的に観察しながら管理する

1.イエシロアリの生息地を見つける

生息地が近くにある場合は問題ありませんが、近くにない場合は事前に生息場所を見つけておく必要があります。生息マップ(https://www.hakutaikyo.or.jp/faq/1813.html)からある程度の予測を立て、付近の海岸沿いを中心に調査をおこないました。

朽木などにイエシロアリの被害痕や生息が見られたことから、付近の外灯を探して羽アリの採集ポイントを見つけます。外灯である理由は、光に集まる習性を利用するためです。準備ができるなら、ライトトラップなどの光源を用意する方が確実です。

2.飼育容器を作成する

木繊維のものにシロアリを入れれば基本的に飼育は可能です。ですが、確率を高めるには飼育容器もしっかりとしたものを準備する必要があります。

試験管にベイツガ基材を詰める

蓋には穴を開ける

今回用意したものはプラスチック製の試験管です。この中にベイツガ粉末を水で溶いた基材を詰めます。蓋はプラスチック製で密閉度が高いため、蓋の中心に安全ピンで穴を開けます。

3.羽アリを採集する

群飛が行われそうな日に狙いを定め、2023年6月29日(木)に生息地にて採集を行いました。羽アリは飛行中または飛行後に脱翅したものを採集します。群飛は20時ごろから行われ、49匹の落翅虫を採集しました。

4.当日中にペアリングして容器に移す

シロアリの羽アリ飼育におけるペアリングから容器への移行時間による成功率の違いは数字として出てはいません。しかし肌感覚ですが、当日中のペアリング・移行をしたペアの成功率が非常に高くなる傾向があると考えています。

イエシロアリのペア

イエシロアリのペア

そのため、今回も採集後にペアリングを行い、飼育容器にいれるところまでを完了させました。

ペアリング法は、追尾行動をしたペアの腹板を裏側から確認し、雌雄判別を行います。追尾行動したものは必ずしもオス・メスのペアであるとは限らないためです。結果、49匹中23ペアを得ることができました。(残り3匹はオス)

イエシロアリのオスとメス

左がオス、右がメス、腹板の形が異なるのがわかる

予め用意した試験管にペアを入れ、さらに上からベイツガ粉末を追加して簡易的な部屋を作るように埋めて、蓋をすれば完了です。

結果

2ヶ月後の9月1日時点で、21ペアで孵化まで成功、2ペアは産卵せず死亡、という結果となりました。

コロニー化が成功した試験管の様子

また、5ヶ月後の12月1日時点では、20ペアでコロニーが拡大し、1ペアで全頭の死亡を確認しました。この1コロニーについては、蓋の空気穴が未開口だったため酸欠の可能性があります。

産卵したイエシロアリのペア

兵蟻が誕生したコロニー

コロニー化の成功率は、23ペア中21ペアで成功ということになり、91.3%です。やはり想像どおりイエシロアリの飼育下でのコロニー創設は容易にできると考えることができるでしょう。

約1年経過後の試験管

試験管から別容器に移し替えたコロニー

1年経過した現在、試験管壁面に蟻土が付着しているため管内の様子をみることが難しくなっています。一部のコロニーについては別の大きめの容器に移し替えて飼育を継続中です。

まとめ

今回の結果からもコロニー化は非常に簡単です。しかし、コロニーを発展させて巨大な固定巣を構築させることは飼育下では困難とされています。

自然下のイエシロアリは直径1mを超える大きな巣を構築するとともに、女王アリが4cmほどに巨大化します。これほどの大きさに成長させるにはそれ相応の面積、食料、温度などが要求されるはずです。

飼育下ではどこまで大きくさせることができるのか、供試虫としての安定的な供給や、今後の様々な活用(飼料・食料などとして)のためにも、今後はコロニー拡大の方法についても検討していければと考えています。

データ
採集日:6月29日(木)20:00〜20:50
採集地:千葉県
採集数:49匹(23ペア)
採集方法:灯火に集まった羽アリを採集
ペアリング法:追尾行動をしたペアの腹板を確認し、雌雄判別をしてペアを確定させる
ペアリング実施日:6月29日(木)23時〜(群飛当日に実施)
飼育容器:100×12mmのプラスチック試験管
保管方法:試験管は横に倒して静置する
室温:夏場25℃±3℃ 冬場20℃±3℃
結果:23ペア中21ペアで孵化まで成功
成功率:91.3%

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