ヤマトシロアリの羽アリが群飛する日を予測する方法

  • 羽アリ

Researcher

研究者プロフィール
木村 健人

研究員 2009年入社

経営企画部webマーケティング課専任課長

シロアリ・木材腐朽菌に対する防蟻・防腐薬剤性能評価、木材保存について在学中に携わる。 2009年テオリアハウスクリニックに新卒入社。 数千件のシロアリ調査および駆除工事に従事。趣味はシロアリ飼育。

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毎年、4月下旬ごろから5月にかけて発生するヤマトシロアリの羽アリ。とりわけ東日本では家屋害虫の代表種として昔から問題となってきた種類の羽アリで、突如として大量に発生することから我々シロアリ駆除業者への問合せが非常に多いシロアリでもあります。

今回は、私達が2018年から7年間かけて収集した群飛情報をまとめ、どのような条件下でヤマトシロアリの羽アリが群飛するのかを考察してみます。

群飛について

まず、シロアリの羽アリの群飛について簡単に解説します。群飛とは、羽アリが集団となって一斉に発生し、巣分かれのために屋外に飛び立つ現象です。専門的にはスウォームとも呼ばれます。

シロアリは巣(コロニー)の中に社会性をつくり、王と女王が中心となり職蟻、兵蟻、ニンフなどの階級に分かれて生活を営む社会性昆虫です。

コロニーが大きくなってくると、巣の中では羽の付いた有翅虫(羽アリ)という階級が生産され、巣分かれのために群飛が行われます。群飛を行った羽アリは、王と女王のつがいとなって新たなコロニーを作り、生息域を広げていきます。

※ニンフ…生殖階級の前段階の階級

一般的に言われるヤマトシロアリの群飛条件

群飛はシロアリの種類によって時期が異なり、毎年決められた季節に行われます。まずはヤマトシロアリの群飛がどのような条件で行われるのか、一般的に言われていることを見ていきましょう。

羽アリの群飛条件
群飛時期:4月下旬〜5月ごろ(関東)
天気  :雨後の晴れ
風   :微風の日

多くの書籍によると、ヤマトシロアリの群飛は関東以西では4月下旬から5月にかけて行われ、前日や早朝に雨が降った日の午前10時から正午ごろに発生すると示されています。また、当日の気温や湿度、風速などの環境条件にも影響されるようです。

ただ、気温や湿度、風速等については、明確な数値はほとんど見当たらず、我々駆除業者からしても「4月から5月の雨後で晴れた暖かくモワッと湿気を感じる日」という言葉で言い表すしかありません。

データで見る羽アリの群飛

そこで、2018年から蓄積してきた羽アリの群飛データを使い、より細かい群飛条件を見ていくことで、気温や湿度、風速等についての傾向を明らかにしていきます。

7年間の群飛の調査詳細について

データについて
対象の羽アリ:ヤマトシロアリ
データ期間 :2018年2月1日〜2024年9月30日
対象エリア :東京都23区
気象データ元:気象庁(東京都千代田区)
群飛判定  :ヒアリング、Googleアナリティクス(Tokyo)

データは昨年までの過去7年間とし、気象データは気象庁発表のものを使用します。また、群飛報告のヒアリングを元に、サイトアクセスデータを照合(※)して対象エリア全体で群飛が行われたかどうかを判定しました。

※弊社運営のシロアリ1番!サイトの「羽アリ」の検索順位が期間中1位であり、群飛当日のアクセスに有意な変化が認められるため、判定の材料とした。

群飛の傾向

大きな群飛が行われたと考えられる日は7年間で合計24日です。1年毎の羽アリ発生ピークの回数は異なり、2回から6回と大きく違います。(単発的な群飛情報は群飛日の対象には含めていません)

大きな群飛が行われたと考えられる日の一覧は下記の通りです。

群飛日の考察

一般的に言われるヤマトシロアリの群飛時期は4月下旬から5月にかけてです。実際に東京都23区域で群飛した日をグラフに表すと以下のようになります。

このように、4月20日ごろから本格的な群飛が始まり、ゴールデンウィーク中にピークを迎え、5月中旬には落ち着くことがわかります。

特に、4月20日から5月10日までの21日間に群飛が多くなり、群飛24回中18回がこの期間に当てはまっていることが分かりました。

このことから、一般的に言われている4月下旬から5月中に羽アリが飛ぶ、という説は正しいことがわかります。また、より細かく狭めるならば「4月下旬から5月中旬まで」と言い表すことができるでしょう。

ただし、もちろん例外もあり、弊社にも4月6日に羽アリが家屋内で発生した事例があります。これは、暖房の効いた部屋と自然界とでは誤差が生じることがあるためです。

また、弊社の本社がある東京都練馬区では毎年4月25日ごろに屋外での発生を確認しますが、同じ東京都でも山沿いでは5月15日前後に発生しますので、地域の気候によって差があるようです。

気温の考察

ヤマトシロアリの羽アリの発生には暖かい空気が大きく影響を与えているのは、私自身も現場で見てきた中で肌感覚として理解しています。

4月下旬から5月中旬の東京都の最高気温は、低い日で15℃、高い日で30℃です。では羽アリが発生する日の最高気温が何度なのかをグラフにすると以下のようになります。

グラフを見ると、24℃以上から増え始め、26℃以上が最も群飛日が多くなることが分かります。22℃台で発生する日も見られますが例外的で、ほとんどが24℃から29℃の間に収まっています。

この時期の最高気温は30℃を超えることはほとんど無いため、24℃を超える日というのはヤマトシロアリの群飛を警戒したほうがいい日である、ということになります。

風速の考察

風速については平均風速を表にすると下記のようになります。

ここから分かることは、平均風速2〜4m/sの範囲で群飛が行われるということです。平均風速3m/sは、木の葉や小枝が揺れる程度の微風で、まさしく羽アリの群飛に適した環境であることがわかります。

4m/sを超えてくると、髪の毛が乱れやすくなる風速となるため群飛が極端に減ることもわかりました。逆に、風速2m/s以下の日も群飛が行われることが極端に少なく、ヤマトシロアリの羽アリが若干の風を頼りに飛行している可能性を示唆しています。

風向きについての考察

風については風速がクローズアップされがちでしたが、表を見返すと面白い事実が一つ見つかりました。それが群飛日の風向き(最大風速の風向き)です。

このように、南南東や南の風が吹く日に群飛が集中していることが分かりました。これは、太平洋高気圧からの暖かく湿った風の影響と考えられ、南からの暖かい空気が入り込んで蒸し暑い日になることを意味しています。

群飛を予測するためには、風速と合わせて風向きや気圧配置をみることが大きな手がかりとなる可能性があります。

群飛日の湿度について

ジメジメと湿り気のある暖かい日、と形容される群飛日のイメージですが、実際の群飛日の湿度もやはりその傾向であることがわかります。

多少のばらつきはあるものの、群飛日の多くが湿度60%を超える日です。50%以下では極端に少なくなるため、シロアリは湿度を敏感に感じ取り群飛日を見定めている可能性があります。

ただ、先述した「湿った南風」や後述する「雨上がり」という要素と強く結びついているため、湿度が高いから必ずしも群飛が発生する訳では無い点は注意が必要だと思われます。

群飛日と雨の関係

「雨のあとの晴れた日」に羽アリが群飛するのは非常に有名な話で、私も実際に多くの群飛を見てきました。では、実際に群飛した日の前日、または当日の早朝に雨が降った日がどれくらいあったかをグラフにすると以下のようになります。

このように、群飛した日の76%が雨上がりとなり、雨のあとの晴れた日、という話は正しいということがわかりました。

逆に、群飛日の前日に雨が降っていない日も24%あることが分かります。これについて深堀りすると、群飛日の2日前または3日前に雨が降っていて、前日は晴れで気温が低い(20℃前後)ことが大半であることが判明しています。

つまり、雨のあとに気温が足らずに群飛できなくても、翌日に気温が高く条件が揃えば大きな群飛が行われることがわかります。

このことは、雨が群飛のトリガーとなり、そのあとに気温や湿度、風速が揃うことで群飛が行われる可能性が考えられます。

羽アリ発生の予測について

これらの結果をもとに、羽アリの発生を予測することができるかを考えてみます。

春先の予測には有名なものとして「ソメイヨシノ」の開花予測があります。この予測のように羽アリの発生を予測できれば非常に有用なものとなりますが、ヤマトシロアリの場合は、その瞬間の気象条件に左右される要素が大きく、実際には難しいと考えられます。

また、植物の開花とは異なり、ヤマトシロアリの群飛は1シーズンに複数回ピークが訪れます。そのため、○月○日に群飛する、という予測をするよりも、○月○日ごろからの○○の気象条件のときに群飛の可能性がある、という予測をするほうが有用である可能性があります。

群飛データから群飛する可能性が高い気象条件を予測

ここまでのデータから、ある程度の気象条件の予測をしてみましょう。

群飛日:4月20日ごろ〜5月20日ごろ
気温 :24℃以上
湿度 :60%以上
天気 :薄曇り〜晴れ(雨上がりの当日〜3日後)
風速 :2〜4m/s(南よりの風)

以上のような条件下に群飛しやすいと言えそうです。ポイントは、南寄りの微風であることと、雨上がり直後〜3日後程度の期間であれば群飛しやすいという点です。

もちろん、これは自然界での群飛データであるため暖かい室内では例外もあると思われます。

まとめ

当記事では、過去7年間のヤマトシロアリの群飛データを元に羽アリ発生を考察し、予測してみました。なかなか具体的な数値を示すものが無いため、今回ご紹介した気象条件は一つのデータとして参考になると思われます。

一方で、推測の域を超えるものではないため、必ずしも正しいとは言えません。ただ、群飛データを集めて考察することは、ヤマトシロアリの理解、ひいては防除の理解を深めるものになるはずです。

今後も、これらの記録を続けることで、群飛の解明につなげていければと考えています。

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